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2022年7月の記事一覧
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件16.既視
貴女が警察にお話しされたことは概ね社長さんや秘書さんから聞いたので今日は伺いません。僕から確認したいことは1点だけ…お兄さんが失踪前にSNSに投稿したこの2枚の写真です。よく見るとジーンズのラベルの数字だけが加工されて、"SOS SlS"と読めるのです。
…なるほど。だから私を訪ねてくださったんですね。
はい。貴女自身に何か助けを求めるようなことが起こっているのでしょうか。
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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件15.夜色
2人は車内で無言を貫いた。会社での出来事について答え合わせをしたかったが、運転手が男に会話内容を報告することを考えると何も話すことはできない。兄弟が住むマンションには車で20分ほどの距離だった。この辺りでは最も高いタワーマンションの最上階が兄弟の住まいである。運転手は車寄せに停車した。日が暮れてライトアップされた外観は、なんとも美しい。
お近くでお待ちしております。
ありがとうございます。
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件14.心音
そうなんです。しかし、昨今では画像の解像度を上げることなど誰にでもできてしまいます。娘がアプリを使ってこの2点を高画質な画像に変換してくれました。それがこちらです。
----。ほう。これは…。
高画質の画像をピンチアウトして目を凝らしてよく見ると、違和感の正体がハッキリした。"202"の部分だけが180°回転しさらに反転しているのだ。"SOS"と読める。そして2点目は"212"が加工されて
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件13.反転
3人は居住エリアを後にして、ロビーに戻る途中にある部屋へ入った。役員用の会議室と見間違えるほど立派な椅子と円形の机。10人程度座れそうだ。壁面はホワイトボードで覆われている。頭上にはプロジェクターが見えた。
こちらへ伺う前に、行方不明となった彼のSNSを見ていて気になったことがあるのです。
私が分かることであれば何でもお答えさせていただきます。
AIのように聞かれたことに淡々と答えるだけ
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件12.風格
社長、ご来客中に失礼します。ここからは私がお客様をご案内してもよろしいでしょうか。
…あ、ああ。頼む。居住エリアだ。
かしこまりました。
幸引様、どうぞこちらへ。
肌は白く髪は金髪ショート、明るめのグレーのスーツに身を包み、黒のストレートチップを履いた男は表情を変えない。入室のタイミングから、3人の会話を聞いていたことが推測される。近寄ると香水?と思われる良い匂いがする。何者なのか
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件11.黒幕
うそ
透き通った金色の瞳で真っ直ぐ前を見つめている。親子2人の毛髪と目。社長が身につけるもの。外に出れば目立って仕方ないのだが、この部屋では同化して違和感がない。むしろ馴染んでいるし、慣れてしまうとこれが普通であるかのように錯覚すらする。
ん?おじさんは、う…嘘なんて言ってないよ。なんでそう思うんだい?
絵に描いたように狼狽えているのだが、このあからさまな矛盾に気づいていないのか、この態
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件10.隠匿
なぜそこまで言い切れるのです?
ここまで来られて体感されたと思いますが、弊社のセキュリティは一般的なオフィスビルよりもかなり強固であることはお分かりでしょう。そして、その人気者は…この中で生活していたんですよ。
ほう…つまり、誘拐事件だとしたら、犯人はセキュリティを突破できる内部の人間である可能性が高いということですね。
はい。ただ警察にこの話をしても、元常務はすでに社員ではなくカー
ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件9.偽装
なるほど、SILVER社(銀)からGOLD社(金)に転職した(成った)…将棋で使う用語だ。
はい。こうしてA常務は後継者争いに打ち勝ち、私は彼を専務に昇格させました。それから数ヶ月、新プロジェクトは軌道に乗り、すべてが順調に進んでいるように見えたのですがね。
事件が起きたんですね。
自殺したんですよ。GOLD社へ転職したLANK3社員のうちの1人が。理由は過労で精神的に追い詰められた