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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件11.黒幕

 うそ

透き通った金色の瞳で真っ直ぐ前を見つめている。親子2人の毛髪と目。社長が身につけるもの。外に出れば目立って仕方ないのだが、この部屋では同化して違和感がない。むしろ馴染んでいるし、慣れてしまうとこれが普通であるかのように錯覚すらする。

 ん?おじさんは、う…嘘なんて言ってないよ。なんでそう思うんだい?

絵に描いたように狼狽えているのだが、このあからさまな矛盾に気づいていないのか、この態度は演技なのか。何とも不思議な感覚に苛まれるのだが話を前に進めるしかない。

 生体認証のお話ですが、警察の見解と社長が仰ることは矛盾しています。元常務の情報は削除されているのか残ったままなのかどちらでしょうか。

 …残ったままです。

 ではなぜその重要な事実を警察に黙っているのですか?本気で事件を解決したいなら情報は隠さずすべて報告すべきでは。

 会社のため。生体情報を削除しなかったことも、そもそも元常務が失踪したことも、世間からは当然我が社の責任と見られる。本当に元常務の仕業だったなら、確実に終わりだ。私にはこの会社しかなくてね…。大いに貢献してくれた人気者の安否よりも会社の存続を選んだんですよ。やはり私だと簡単にボロが出てしまうんだな。全部あいつの言うとおりにしておけば良かった。本当は貴方たちに直接会うことも反対されていたんです。…つくづく、私は無能だ。

口をポカンとあけて天を仰いだ。放心状態というのか、もはや焦点が合っていない。いまにも膝から崩れ落ちそうな気さえする。これまでの態度は全部が虚勢だったのだろうか。社長の言動から察するに、あの秘書の男は相当な切れ物のようだ。おそらく裏で社長を操り、経営はおろか今回の件の対応も彼の指示によるものだろう。警察などとのやりとも秘書に任せたため、生体情報を削除していなかったことも警察には気づかれずに済んだのだろう。ただ、彼が常に会社を気にかけているなら、"削除していない"というミスはそもそも起こり得ないはずだ。トラブルが起きたあとに、どうにかしてもらうような雇用関係なのかも知れない。元常務の事件の時も暗中飛躍していたと予想される。

 だいぶ疲弊されているようですが、あと2つご質問があります。まず1つ目です。僕らも居住エリアへ入ることはできますか?

コンコンコンコンコン。5回ノックが聞こえた。

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