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ミステリー小説ロンドの旅Chap4.ユールマラの事件13.反転

3人は居住エリアを後にして、ロビーに戻る途中にある部屋へ入った。役員用の会議室と見間違えるほど立派な椅子と円形の机。10人程度座れそうだ。壁面はホワイトボードで覆われている。頭上にはプロジェクターが見えた。

 こちらへ伺う前に、行方不明となった彼のSNSを見ていて気になったことがあるのです。

 私が分かることであれば何でもお答えさせていただきます。

AIのように聞かれたことに淡々と答えるだけの男のようも見て取れるが、後ろには幾重にも折り重なる"色"が見える。とても華やかとは表現できない、どす黒く淀んだ何かだ。バルカもそれを察していた。珍しく父親の足元から離れようとせず、陰に隠れて様子を見ている。しかしながら、事件コンサルタントとして海千山千のこの物語の主人公がこれしきのことで怯むはずはない。いつものビジネススマイルと、常にフル稼働の頭脳を駆使し、対等に渡り合う。

 写真を見ると、彼はいつも同じメーカーのジーンズを履いているようですね。

 ええ。この202シリーズ、212シリーズが好みのようでして。数字が大きいと生地の色が濃くなるみたいです。しかし、それが何か?

 消息を立つ前の最後とその1つ前の投稿に明らかな違和感があるのです。

 違和感?そうですね…私は何も感じませんが。

 ----このジーンズのラベル。これは彼からのメッセージと私は読み取ります。

左手の手のひらを相手に向け、高らかに人差し指を天井の方向へピンと上げた。当然、これでもかと白い歯をこぼし、満面の笑みで。男の表情はピクリとも動かず、血管も瞳孔も筋肉の変化も感じ取れない。自分の体をここまで細部に至るまで意のままにできる理由を確認したいところであるが、いまはその時ではない。男は内ポケットのスマホを取り出して左手で操作し、右手で画面をピンチアウトした。

 ラベルですか。うーん、非常に小さいので拡大してもよく見えませんね。

失踪の前々日の投稿は社内のミーティング風景だ。彼が会議室のホワイトボードに絵を描いてるシーンを後ろから写している。ラベルは彼の左側の腰辺りに見える。色濃さから202シリーズだろう。前日は休日のようで、公園で何人かでサッカーボールのリフティングをしている写真だ。肩まである長い髪が靡いている。ジーンズは212シリーズで、ラベルもしっかり写っていた。

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