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親が反ワクチンなどカルト的な集団に取り込まれた方へ

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

訂正:2021年1月19日14:00/「24時間子供SOSダイヤル」の電話番号の誤りを訂正しました。

はじめに

今回は未成年者や若年層の親が反ワクチンなど陰謀論に取り込まれ、その子供たちが悩んでいる現状と対処についてまとめます。筆者からのアドバイスは対象を高校生以上と想定しましたが、幼児から小中学生の子の親がカルト的な集団や陰謀論に傾倒しているのをご存知の方にも役立つように心がけました。

若い人たちの親の問題は、これまでに取り上げてきた高齢者がYouTubeから陰謀論に傾倒する問題と、その対処法で共通する部分が多いのです。この記事をお読みになったあとで構いませんから以下の記事も読んでみてください。


そして、お願いがあります。陰謀論者を親に持つ子供たちを救うには福祉と医療の専門家による協力が不可欠です。いまなにが起こっているか、ご理解いただければ幸いです。


あなたにできること

この章では緊急の対応を説明します。追い詰められてしまっている人は次の1か2の方法を検討してください。もし少しでも余裕があるなら次の章も読んでください。

どのような状況でも、まずあなた自身を第一番目に考えてください。あなたが救われなければ、あなたの親が救われるきっかけもつくれません。

1.
もし、あなたが18歳以未満(17歳まで)で、親からの暴力、言葉の暴力、性的な暴力、いくらお願いしてもワクチンを接種させてもらえないなど虐待されているなら児童相談所に電話をしましょう。児童相談所の電話番号は全国どこでも「189」です。また、こうした事例を知っている親族外の人からも児童相談所は通告を受け付けています。通告や相談は匿名でも可能で、実名であっても秘密は守られます。

児童相談所に携帯電話から電話をかけるとオペレーターが出ます。オペレーターに住んでいる場所を伝えて家がある地域の児童相談所に転送してもらいます。固定電話からかけた場合は自動的に転送されますが、まれに電話をかけている場所がわからない場合だけ音声が流れるので指示に従って住んでいる場所を入力します。

児童相談所にはもうひとつ別の電話番号があります。「0120-189-783」は虐待だけでなく幅広い内容に対応してくれる相談用の電話番号です。虐待とまで言えない場合はこちらがよいかもしれません。本人や親族以外からの相談も可能です。

また文科省が運営している窓口に「24時間子供SOSダイヤル」があります全国どこからでも、夜間・休日を含めて、いつでもあなたのSOSをより簡単に相談することができます。電話番号は「0120-0-78310」です。24時間子供SOSダイヤルは基本的に電話をかけた地域の教育委員会の相談機関につながります。

こうして担当者が電話に出たら相談をしてください。どの窓口でも、なかなかあなたの言い分を理解してもらえないかもしれません。なぜなら「陰謀論とは何か」「どれくらい困ることなのか」が世の中にまだ知られていないのです。でも、できるかぎり「どのようなことで困っているのか」を落ち着いて話をしてみてください。電話をかける前に言いたいことを整理してメモにしておくとよいと思います。

2.
親が精神疾患や若年性の認知症ではないかと疑うくらい病的に感じられるかもしれません。(認知症には物忘れだけでなく妄想や幻覚などの症状もあります)

これまで相談されたり報告を受けたケースのうち、とくに若い世代に「親が精神の病気になってしまった」と心配する声が多く事態の深刻さがうかがえます。またスマートフォンやネット上の動画サイトへの依存症かと思われる場合もあります。

精神疾患も認知症も依存症も、素人が軽々しく決めつけるわけにはいきません。しかし、何もしなければあなたの不安は消えず、ほんとうに精神の病気だったなら治療のタイミングが遅れてしまいます。

このような場合は保健所全国精神保健福祉センターのどちらかに相談をしましょう。

最寄りの保健所の連絡先が次のリンク先で調べられます。

全国精神保健福祉センターの連絡先が次のリンク先で調べられます。


どちらも専門家が相談にのってくれます。専門家とは精神保健福祉士、臨床心理士・公認心理師、保健師、看護師などの方々です。「どのように相談したらよいかわからない」と思いますが、ありのままを相手に告げられれば十分です。

電話のあとで対面での相談や、訪問相談などに移行する場合もあります。このため親と別居している場合、親の所在地の保健所や健福祉センターに連絡するのがよいかもしれません。

1と2どちらも自分の問題に応えてもらえそうにない、という人もいるはずです。今後こうした人の相談に応えられる場を探して行こうと思いますが、ひとまず次からの章でどうすべきかを整理をします。


解決にむけて大切なこと

ワクチンを接種したいのに接種させてもらえない。マスクをしたいのにマスクを買ってもらえない。陰謀論の話ばかり聞かされ否定すると機嫌が悪くなったり叱られたりする。変な団体に寄付をしたり、効果がないおかしなグッズを買い込んでいる。

こうした若い方の声が届いています。

なかには親の言動があまりに常軌を逸しているので精神疾患や若年性の認知症ではないかという不安を払拭できなまま暮らしている人もいました。こんな親を病院に連れて行きたいという人もいます。

どうしたらよいですか
このように質問されたり、ネットで質問している人がいます。どうしたらよいか検索して、この記事を見つけた人もいることでしょう。でも本当に困っているあなた(と陰謀論に傾倒している親)に必要なのは専門家や公的機関の助言と手助けです。

そして、私たち筆者にできることは次の3つです。あなたが抱えた問題を整理する手助けと、整理できたあと何をどうすべきかの提案、誰に助けを求めたらよいかの提案。これ以上のことはやりません。

なぜやらないのか。それは、やれないからです。一人ひとり解決策が違い、解決するためには専門的な知識が必要で、本腰を入れて取り組むにはタダではできないどころか莫大な費用が必要です。知識や技能は専門家、費用は公的な制度や保険でまかなわなければなりません。これが現実です。

しかし、ぜんぶ自分にまかせろという人がいます。こうした自称専門家に騙されたら、あなたの親が陰謀論に騙されたのとそっくりな末路が待っています。

この記事の提案を信用しなくても構いません。しかし、素人または自称専門家、経験があるというだけの人に頼らないでください。まずは『あなたにできること』の章で紹介した公的機関に相談してください。精神保健福祉士、臨床心理士・公認心理師、保健師、医師、看護師など有資格者が問題について対応してくれることでしょう。


あなたが準備すべきこと

あなた自身を第一番目に考えてください。陰謀論を信じている人の考えをすっきり変えられる人はどこにもいません。相手を変えるのではなく、自分がどうするか考えるほかないのです。

1.
このために、これからのあなたのためのルールをつくります。

ルールとは──
1.陰謀論を信じている親を「どこまでなら許せるか」
2.陰謀論を信じている親の「どこから先は許せないのか」
3.許せないことが起こったとき「あなたはどのように行動するのか」
の3点です。


「権力者が悪だくみをしている」と親が考えたり言ったりするのは許す。私に対して同じ考え方や行動をしろと要求するのは許さない。許せない言動があったら、私はその場から離れていっさい無視する。


親がワクチンを打たないのは許す。しかし、私は看護師を目指したいのでワクチンを接種したいし、看護師になることを陰謀論で邪魔するのは許せない。次また接種券を破いたり、常識はずれの妨害をしたら、私は親子の付き合いをやめる。

このルールを使って親との間に人生の境界線を引くことで、重荷を全部背負わなくてよくなり、問題の本質が整理され、見切りのつけどきと許しどころがわかるようになります。そして、あたりまえですが人それぞれルールの内容と程度は違うでしょう。

「どのように行動するのか」はどのくらい距離を置くかであり、避難のしかたです。

2.
ルールをつくったら避難場所を確保します。

親との会話で陰謀論が語られたり、親の行動を知ってしまったとき動揺や絶望、悲しさ、怒り、不安といったネガティブな感情で心がざわついたら泣いたり、相手を怒鳴りつけたり、心や体がフリーズしたりする前に避難しましょう。感情が動揺してしまうできごとは「どこから先は許せないのか」と関係していますね。

避難場所は2種類あります。

ひとつめの避難場所は、短期的であったり一時的な避難場所です。自分の部屋にこもったり、外出して時間をつぶせる場所に行くほか、『あなたにできること』の章で紹介した公的機関が用意してくれるものもあるかもしれません。だから、公的機関に相談する際は「逃げ場が必要」であることを伝えてください。

ふたつめの避難場所は、親との関係が維持できなくなったときの選択肢のことです。

「ここから先は許せない」言動が増えたり、自分の人生が取り返しのつかないことになりそうなとき、精神的にも経済的にも物理的にも親から離れなければならないかもしれません。

自活している人は親元を離れ、親との付き合いを切るのがさほど難しくないかもしれません。しかし、そうでないならとても難しくなります。だからといって我慢をして自分の人生を棒に振ってはいけません。公的機関に相談をして福祉の力を借りるのは、このようなとき選択肢を広げるためなのです。

3.
そんなルールは、いまの自分も似たような基準で行動しているから無意味だと思った人がいるかもしれません。

このように半信半疑の人と会話すると、この人の基準がルールほど明確ではない曖昧なもので、ルール通りではない対応を繰り返しているのがわかります。意識的に「ルール」を決め、どこまでが許せて、どこからが許せず、親との距離をどのように取るかしっかり考えることが重要です。

ルールを決めることで自分の人生と親の人生の境界線がわかります。そうすると、何が自分にとって問題の本質なのかはっきりします。自分がどうやっても変えられない親の人生について肩の荷がおりるかもしれません。なかなかできるものではありませんが、人は人、自分は自分と割り切るためのルールです。

そして、ありもしない逃げ場ではなく、現実的な逃げ場を確保することで、あなたは強くなれます。未成年者の場合、逃げ場の確保が難しいはず。成人している女性でも、深夜に一人で安全に逃げ込める場所がどれくらいあるでしょうか。こうしたことを準備するためのルールづくりでもあります。

4.
中学生以下の子供たちにはルールづくりは難しいでしょう。幼児から小中学生の親がカルト的な陰謀論を掲げる集団に傾倒しているをご存知の方は、その親と子供を見守るときのルールをつくるのがよいと思います。


日常をつくる

なぜあなたが悩むのかと言えば、あなたの日常が乱され、さらに明日へ不安が持ち越されるからでしょう。つまり親に振り回されているのです。だから状況はすぐに変わらなくても、あなたは自分にとっての日常の主導権を取り戻す必要があります。

これからは親が陰謀論の話をしても「へえ、そうなんだ」と受け応えするだけでかまいません。しつこいなら「よくわからないよ」と打ち切り、『あなたが準備すべきこと』の章に書いた避難場所に移動しましょう。

それしか方法はないのかと誰もが言います。それしかないのです。既にあなたは親を論破しようとしたり、行動を変えようと働きかけたのではないですか? その結果、状況は好転しましたか? こうした行動で親が変わりつつあるなら続けてください。しかし、大半の人は成果を上げられなかったはずです。

陰謀論者に限らず自分の考え方や感覚を批判されて気持ちのよい人はいません。また行動を指図されて素直に言うことを聞く人は稀です。繰り返し批判されるとかたくなになり陰謀論の深みにはまる人が少なくありません。

あなたはとにかく逃げればよいのです。親から影響を少なくするのと同時に、あなたが親に関わる頻度を少なくすれば、自ずと日常の主導権が戻りつあるのを実感できるでしょう。

親が陰謀論に傾倒したため悩みを抱えた子供たちや若年層をご存知の方は、彼らが自分らしい日常を失って苦しんでいるのを理解してあげてください。また、こうした親に注意をしても無駄なのは前述のとおりです。日常を失った子供たちや若年層にとっては逃げ場を用意してあげるのが最大の手助けになります。


さいごに

親が陰謀論に取り憑かれているのは精神疾患や依存症のせいではないのか、若年性認知症のようですらあると不安を抱いている人にとっては、これから医療や福祉の手を親まで誘導する必要に迫られるかもしれません。

病気ではないかと疑われるいくつもの事例を筆者も見てきましたが、専門家ではない素人が勝手に判断してはいけません。『あなたにできること』の章で紹介した保健所全国精神保健福祉センターに相談するところからはじめてください。

しかし診察以前のカウンセリングだけでも本人が同意して協力してくれなくてははじめられません。これは一般の認知症を疑われる家族を検査させるときも同じで、「健康診断に折り込ませる」「かかりつけ医から助言してもらう」といった方法が使われます。ただし陰謀論に取り憑かれた人はワクチン忌避だけでなく反医療の考えに染まっているため、健康診断や病院へ行くことも拒否しかねません。

でも、しかるべき窓口に相談することで得るものがあります。

この精神疾患かと疑われる件だけでなく難題は山積みですが、家族が陰謀論に傾倒していても一人で悩まないでください。

福祉と医療の専門家の方々には冒頭でお願いしましたが、専門家の協力が問題解決に不可欠です。

陰謀論者と家族の問題が社会に周知されていないのは、どこへ相談したらよいのかわからず被害者のSOSが届いていないからです。記事中にSOSを届けられる窓口をいくつか紹介しましたが、この問題が福祉や医療の現場でどこまで理解されているかわかりません。2021年中は相談しても問題の深刻さが理解してもらえなかったとする証言がありました。

まず、こうした事態が進行中であることを知っていただければ幸いです。

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こまっているあなたへ

あなたが抱えた問題を整理する手助けと、整理できたあと何をどうすべきかの提案、誰に助けを求めたらよいかの提案しか筆者にはできません。あとは陰謀論から抜け出したかった人の後押しをしたり、抜け出した人の話に耳を傾けた経験から助言できるくらいです。でも、わからないことがあったり、一人では解決できなかったり、おしつぶされそうでつらいときは手助けができるかもしれません。記事へのコメントでは対応が難しく、あなたも言いにくいことがあるでしょうから、こちら↓からメールを送ってください(noteへの無料会員登録が必要です)。

秘密は厳守します。コメントからのお問い合わせはお応えしかねます。

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※ 心の問題にアプローチする記事の執筆と個別の問題への対応は皆様からのサポートをもとに行なっています。活動継続のため応援を何卒よろしくお願い申し上げます。


会って聞いて、調査して、何が起こっているか知る記事を心がけています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。ご依頼ごとなど↓「クリエーターへのお問い合わせ」からどうぞ。