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高齢者とYouTubeの危うい関係

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

いま起きていること

新型コロナ肺炎にまつわるさまざまなトラブルを紹介し、偏った考え方や行動を推奨する集団から離脱する方法についても記事を書いてきました。こうした記事を書くたび当人だけでなく困り果てたご家族から筆者あてにメールが届きます。

相談や問い合わせで最近とくに気になるのは、高齢者とYouTubeの関係です。60代半ばから70代が陰謀論や偏った医療情報に触れるきっかけがYouTubeで、こじらせるのもまたYouTubeだというのです。

筆者は昨年、慈善事業に関心を抱いていた女性が陰謀論に触れ、信じ込み、SNSで発言するだけでなく街宣活動をするようになるまでを紹介しました。彼女は高齢者ではなく若い女性でしたがYouTubeの動画をたまたま観て陰謀論にのめり込んで行きました。


こうした事例に触れ、YouTubeから発信される陰謀論など悪質な情報の影響は10代から30代といった若い世代を中心にしたものと考えていました。ところが、前掲の記事が公開されてしばらくすると、高齢者がYouTubeの影響を受けて困っていると続々と相談や報告が寄せられたのです。いまやYouTubeは高齢者にとっての陰謀論や偽医療情報の入り口と言っても過言でありません。

2022年1月9日に反マスク、反ワクチン、反自粛を訴えるデモが行われましたが、このSNS発の運動の参加者に高齢者が多いことも注目に値します。


事例を紹介しましょう。

地方都市に住む老夫婦は反マスク、反ワクチン、反自粛を掲げる医師をYouTubeの番組で知り、この医師を支持する活動にのめり込んでいます。言動の急変に驚いた家族がいくら諭しても真実はYouTubeの中にあると信じ込み、次々異なる陰謀論に傾倒して、これらが融合したとてつもない世界観から引き返せなくなっているそうです。

こうした傾向はコロナ禍以前からあったと思われるのが次の例です。

2018年の春、首都圏に住む60代男性は携帯電話のバッテリーが劣化したためスマートフォンに買い替えました。おぼつかなかった家族とのLINEのやりとりに慣れるまでは「面倒くさい」と言っていたのが、いつの間にか肌身離さずスマートフォンを持ち歩くようになり、このとき既に陰謀論やスピリチュアル系のおかしな考えに染まるまでになっていたそうです。これもまたYouTubeがきっかけでした。とうぜんのようにコロナは茶番と言いワクチン接種を拒んだり、家族の接種まで邪魔しました。


スマートフォンで見られるテレビ

YouTubeによって陰謀論や偏った情報に傾倒する高齢者に共通するのは、YouTubeをテレビ放送の亜種またはテレビ放送と同じものと認識していそうなところです。

60代半ばから70代の高齢者は元祖テレビっ子世代です。生まれたばかりか多感な少年時代に、日本製ヒーローものとして一世を風靡した『月光仮面』(1958年)やアニメ『鉄腕アトム』(1963年)が放映され、その後のテレビの黄金時代とともに成長しました。

また、60代半ばから70代は1990年代後半以降インターネットを使用してきた層と、まったく使用しなかったか使用することを拒絶した層にはっきり分かれる特異な世代です。後者はスマホを使い始めるまで、インターネットと無縁だった人たちが少なくありません。

いっぽうで上記年齢層に限らずインターネット黎明期からさまざまなサービスが登場する2010年前後を通過した人々は、荒野に自分で小さな店を開いたり無秩序な集会場で仲間を探すような経験をし、こうした空間にサービスが成立する過程を目の当たりしてきました。この層が経験した殺伐さや混沌やインチキや悪ふざけや相互扶助を、スマホを使うまでネットと無縁だった層は知りません。

YouTubeがどさくさ紛れの闇市のような場所だったのを知っていたり、そうした雰囲気を感じ取れた層と、最初から多チャンネルケーブルテレビような存在だった層の違いです。高齢者のうちスマホによってインターネットにはじめて触れた層は、ユーチューバー銘々が無秩序に動画を配信していることと、それがどういう意味を持っているか理解できていないと思ったほうがよさそうです。

こうした高齢者には「テレビ局が放送している番組同様に、YouTubeの動画も信じるに値する」ものと認識されています。さらにお気に入りの動画を自分で見つけ出したことが視聴体験を特別なものにします。まさに「ネットで真実」に出会った瞬間です。いまどき「ネットで真実」は恥ずかしさと揶揄の対象ですが、遅れてやってきた高齢者の感覚はまったく違います。

高齢者のYouTube体験は、小中学生のネット体験と同じと考えるとわかりやすいかもしれません。

遅れてやってきた高齢者と小中学生にとってインターネットは情報が取り揃えられた巨大なショッピングモールです。はじめから、ソコにあたりまえにある存在です。ショッピングモールにパチモノ商品や腐った食べ物が並んでいないように、インターネットに漂う情報を疑うことがありません。しかもYouTubeでは視聴履歴をもとに次々と同傾向の動画が勧められ、いずれも無料です。こうした仕組みを意識することなく情報を消費し続けるうち、特定の誰かを崇拝したり偏った考えに固執するようになります。


いまさらのリテラシー教育

高齢者だから言うことを聞かないのではなく、どの世代も他人の指示に従いたくないうえに、自分がもっともよく知っていて判断できると考えているものです。だからYouTubeの陰謀論や怪しい情報に固執している人に「YouTubeを観るな」と言っても反抗されるでしょう。そして陰謀論などに傾倒した人を元通りの考え方や人格に戻すのは至難の業です。

こうなる前に予防策を実施しましょう。

やるべきことは特殊詐欺対策と同じです。オレオレ詐欺対策のポスターは「電話を使って騙そうとしている人がいる」と啓発しています。インターネットの動画や文章を使って騙そうとしている人や、カルト的な集団に引きずり込もうとしている人がいるのを高齢者に伝えてください。

オレオレ詐欺に注意するよう促すポスター。

オレオレ詐欺の場合は、
「電話を使って騙そうとする人がいる」
「そんなものに引っかからないと言っていた人が騙されている」
「それが本当に息子や孫からの電話か確かめなければならない」
「確かめるためには合言葉を決めるなどの方法がある」
などと家族で話し合ったのではないでしょうか。

YouTubeについては、
「YouTubeには番組を使って騙そうとする人がいたり間違った情報が山ほどある」
「そんなものに引っかからないと言っていた人が騙されている」
「それが正しい情報かどうしたら確かめられるのか」
「人がよさそう、まじめそう、頭がよさそう、はじめて聞くような知られていないことをいっぱい知っている、なにごとも断定してくれるといったことはあてにならない」
「YouTubeには問題が発生しても責任を取らない(取りようがない)個人が動画をあげている。肩書きがあっても正しいことを言っているかどうか判断できない」
といった、あたりまえのリテラシーを確認するほかありません。

インターネットに遅れてやってきた高齢者は元祖テレビっ子で、テレビ放送からの情報を信じる傾向が強く、テレビのように一方通行の情報を消費するのがあたりまえの層です。いままでにワイドショーが煽った食べ物や健康法に躍らされた人は、YouTubeで陰謀論や偏った医療情報などに洗脳されがちなので警戒してください。

では既に陰謀論などを信じ込んで頑なになっている場合はどうしたらよいのでしょうか。前述の通りすっきり元通りになるのは難しいと思ってください。

そのうえで相手をどこまで許せるのか、ゆるせない領域になったときお互いの関係をどうするのか、これを決めることになります。詳しくは以下の記事をお読みください。


スマホを使わせない、何らかの方法でYouTubeへの接続を遮断するといった方法がとれるのは子供だけです。家族が困り果てて高齢者のスマホを没収したりインターネットを遮断した例がありましたが、あらたにスマホを購入するなどして元の木阿弥になっています。だからこそ、家族間の会話という予防策が大切なのです。

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