見出し画像

10年の主婦生活ののち、フォロワー11万人の大人気料理家へ 松山絵美さん

先日、初のレシピ本を出版した松山絵美さん(以下、絵美さん)。インスタのフォロワー11万人を誇る、大人気料理家だ。

絵美さんが料理家としての道を歩み始めたのは、3年半前。それまでの10年、4人の子供を育てながら、家業の手伝いと家事で精一杯の日々を送ってきた。

3歳ではじめて包丁を握って以来ずっと好きだった料理を、仕事にした絵美さん。その道のりには、さぞやさまざまな葛藤や悩み、強い想いがあったのだろうと思いきや、絵美さんはごく冷静に現状を受けとめているように見える。

「仕事で悩むことはありません。仕事じゃなくても料理は毎日しますし、ずっとつづけてきたことなので」
「わたしは料理しかできませんが、その料理を仕事にできたことはとても幸運だったな、と思っています。お仕事のご依頼をいただけるのは、本当にありがたいことです。でも、依頼が減ったら、時間の余裕ができてちょっと嬉しいなって思います笑」

仕事になっても、「趣味の延長上という感覚」という絵美さん。はたして、淡々と料理をつづけているだけで、大人気料理家になることは可能なのだろうか。

その答えを知るために、絵美さんの道のりを伺ってきた。

どうやったら料理家になれるの?

画像6

ー 料理を仕事にしようと考えたのは、いつ頃だったのでしょうか?なにかきっかけがありましたか?

料理はずっと好きだったので、仕事にできたらいいなあという気持ちは昔からぼんやりとはありました。でも、料理家といえば栗原はるみさんのような方しか思い浮かばず、自分にもできるなんて思ってもいませんでした。

結婚してすぐに子供を授かり、4人の子供を育てながら、10年近く家業の手伝いと主婦をしてきました。家族が6人もいると、つぎからつぎへといくらでもやることがでてきますから笑。

そんな毎日を過ごすうちに、自分のためにも時間を使いたいなあという気持ちが少しずつ出てきました。

まずは大好きな日本酒の勉強を始めて、2016年に利酒師の資格をとりました。学生時代は勉強なんて大嫌いだったのに、好きなこととなるとがんばれるものですね。

資格を取ったら主人と子供たちが褒めてくれて、それがすっごく嬉しくて。主婦って評価される機会がとても少ないんですよね。

すっかりやる気になって、ワイン、チーズ、薬膳など、食にまつわる資格をとりました。宿題をする子供たちと一緒に机に向かったりして。つづけていけば、いつかなにかにつながるかもしれないという漠然とした希望もありました。

ー ブログとインスタで日々レシピを発信されていますが、料理を仕事にするために始めたのでしょうか?

インスタは、日本酒アカウントとして始めました。利酒師をとったときに、好きな日本酒を紹介していきたいな、というぐらいの気持ちで。

ブログは友人に勧められたのがきっかけですね。

「絵美さんは料理をお仕事にしたほうがいいよ!第一歩として、まずはレシピをブログに書いてみたら?」

そういってもらって、よし、やってみようと。

いまはコロナ禍で難しくなってしまいましたが、以前は保育園・小学校のお友達親子と集まって、持ち寄りの夕食会をしていました。そのときにみんなが料理を褒めてくれたのがとても嬉しくて、背中を押してもらいました。

ー レシピを紹介するブログ開設から、どのような経緯で仕事につながっていったのでしょうか?

ブログを始めたのが2017年の10月末だったのですが、その半年後にふたつの展開がありました。

ひとつめは、お料理ブログのポータルサイト・レシピブログのネクストフーディスト1期生(*1)に選んでいただけたこと。

(*1 ネクストフーディスト:レシピブログ編集部が選ぶ、料理家あるいはその卵たち。選ばれると、1年間料理家としての発信や活動へのサポートを受けられる。絵美さんは2017年度に1期生として選ばれ、2020年度は3期生49名が選ばれている。)

お知らせをいただいたときは本当にびっくりしました。人前に出るのがすごく苦手なので、ガチガチに緊張しながらキックオフイベントに参加しました。

会場には名前を知っている料理家さんたちが沢山いらして、お知り合いになることができました。すでに料理をお仕事にされている方にお話を伺うことで、具体的なイメージを持てて、わたしにもできるかもしれないと思えるようになったのは大きな意識の変化でしたね。

ふたつめは、ほぼ同時期に、Nadia Artist(*2)にも選んでいただいたことですね。

(*2 Nadia Artist:レシピ投稿サイト「Nadia」が選ぶ料理家およびその卵たち。NadiaではNadia Artistだけがレシピをアップできる仕組みになっている。SNSのようにフォロー機能もあり、絵美さんは現在約16,000人のフォロワーがいる)

Nadiaにレシピをあげられたらいいなあと憧れていて、それまでに何度も応募していました。5〜6度目の挑戦だったと思います。

ここから、両ウェブサイト経由だったり、知り合った料理家さんからご紹介いただいたりと、すこしずつお仕事のご依頼をいただく機会が増えていきました。

どうやったら、インスタのフォロワーが11万人にもなるの?

画像3

ー インスタに11万人のフォロワーさんがいらっしゃいます。どうやったらこんなにフォロワーが増えるのでしょうか?

ありがたいことに、沢山の方にレシピをみていただけるようになりました。

フォロワーさんの人数がここまで増えたのは、この1年のことなんです。2020年の年始にはフォロワーさんがぴったり2,020人でした。語呂がいいのが嬉しくて、その投稿をしたのを覚えていて。その後、春から夏にかけて急激に増え、一気に10万人近くになりました。

コロナ禍が深刻化し、4月に緊急事態宣言が出て以降、自炊の回数が増え、レシピを検索された方が沢山いらっしゃったんだろうなあと想像しています。

ー とはいえ、SNSでレシピを発信するひとは5万といます。そのなかで、絵美さんのレシピがここまで支持されているのはなぜでしょうか?

どうしてでしょう…笑。

ただ、アップした投稿への反応をみると、どんなレシピが好まれるかはすぐにわかるので、より喜んでいただけるレシピをあげるように意識はしています。

たとえば、魚貝類よりはお肉のほうが好まれる傾向があります。お肉のなかだと、牛肉より豚肉、豚肉より鶏肉のほうが人気ですね。

我が家では韓国料理を作る機会も多く、手に入りづらい食材は韓国スーパーで買ったり、お取り寄せをしたりもします。でも、SNSにあげる場合は一般的なスーパーで揃えられる食材でつくれるレシピにするよう、気をつけていますね。

うちは6人家族でとにかく大量の料理を作るので、食費をおさえ、料理の手間と洗い物を減らせるよう、いろいろな工夫をしてきました。

食費に関しては、季節のお野菜を沢山使ったり、もやしや厚揚げといった手頃な価格で量のかさましができる食材を多用したり、お肉は特売やセールで買いだめしたりしています。

料理の工程では、耐熱容器に食材をいれてレンジでチンするだけにしたり、包丁とまな板の代わりに調理バサミで食材を切ったり、ポリ袋のなかで材料を混ぜたり。

どれも必要に駆られてしてきたことだったのですが、試行錯誤の末に行き着いている料理のやりかたで、フォロワーのみなさんにもお役に立てている部分があるのかもしれません。

料理家のお仕事ってどんなことをするの?

画像7

ー そもそもなのですが、料理家とはどのようなことをされているのでしょうか?絵美さんが手がけているお仕事の内容を教えていただけますか?

1番わかりやすいのは、レシピ本の出版でしょうか。わたしもつい先日はじめて書籍を出版する機会をいただいて、とても嬉しく思っています。

わたしも以前はそのイメージしかありませんでしたが、ほかにもいろいろなお仕事があります。

1番多いのは、食品メーカーさんからご依頼いただいてレシピの開発をすることです。商品の写真を添えてSNSにアップすることもありますが、メーカーさんのホームページやスーパーのリーフレットに載せる場合もありますね。

料理やレシピについてのコラム記事執筆や、動画提供などもあります。

お料理教室やインスタライブなども料理家の仕事に含まれると思いますが、人前に出るのがとても苦手だし(克服しようと努力中です!)、まだ手がかかる子供もいるので、わたしはあまりお受けできていません。

インスタへのレシピ投稿は毎日していますが、直接的に報酬をいただく仕事というわけではありません。ただ、より多くの方にレシピを見ていただくことで、ほかのお仕事へつながる機会となっています。

レシピ本って、どうやって作るの?

画像1

ー レシピ本のご出版、おめでとうございます!出版に至った経緯を教えてください。

ありがとうございます!昨年の夏に出版社さんからオファーをいただいて、2月末に出版となりました。とても嬉しく思っています。

- オファーから出版まで半年あまりなのですね。レシピ本を作るプロセスはどういったものなのでしょうか。

まずは、レシピ本に載せるレシピを決めるところから始まります。

レシピ本には100品載せましたが、その何倍もの数の候補レシピを用意して、編集者さんに選んでいただきました。新作のレシピが中心ですが、「ひとりランチ」といったテーマに沿ってつくったり、インスタで人気のあるレシピも選んで追加しました。

つぎに、写真撮影ですね。10月に自宅で行いました。

100品すべてつくって撮影するのですが、カメラマンさんに撮っていただいたものもあれば、自分で撮ったものもあります。

撮影期間が限られているので、多い日は1日に20品つくって撮影、なんてこともありました。綺麗に写すためには日光の加減も関わってくるので、時間との勝負でしたね笑。

つくった料理は6人家族でもとても食べきれない量だったので、カメラマンさんがいらした日は同行された方々(*3)のお昼とお夕食にお出しして、それでも余ったお料理はお持ち帰りいただきました。

(*3:撮影にはカメラマンのほか、編集者、スタイリスト、ライター、アシスタントが立会い、大所帯だったそう)

自分で撮影した日は家族と、食べ盛りのお子さんがいる知人に来てもらいました。

今回のレシピ本にはコラムも10本以上いれたので、執筆にも時間がかかりました。レシピ本の出版は大変とは聞いていたのですが、想像以上でしたね笑。

1日のスケジュール

画像4

ー 4児の母でもある絵美さんは、どのようにして仕事と育児、家事を両立されているのでしょうか。1日のスケジュール例を教えていただけますか?

朝は、夫と子供たちを送り出すまでは毎日バタバタです。

末っ子の次男を保育園に送って自宅に戻るのが、10時。ここからお迎えに行くまでの間が、ひとりで集中できる時間になります。この春卒園して小学校に上がるので、ようやく10年つづいた送り迎えから解放されるのが、嬉しくてたまりません笑。

この時間を使って、新しいレシピを考えたり、コラムを執筆したりします。SNSにアップするのはいつもお夕食の献立なので、前日の分のレシピを文章におこして、ブログかインスタにアップしたりも、このときにすることが多いですね。

15時に保育園にお迎えに行って、戻ってからお夕飯の支度を始めます。

レシピを考えて、料理をして、SNSに載せる写真の撮影もします。我が家はリビングの窓が大きく日光が入りやすいので、撮影に適した時間を考慮する必要があって、夏なら16時、それ以外だと15時頃に撮影ができるよう時間を調整しています。

それ以降はもうひたすら育児と家事に追われている感じですね笑。

絵美さんにとって仕事とは?

画像5

ー 料理を仕事にしたことで、なにか変化はありましたか?料理に対する考えや感じ方だったり、生活全般でも。

料理はいままでもしてきたことなのに、お仕事にできたことで、家族が褒めてくれるようになったのは嬉しい変化でした。とくにレシピ本を出版できたことで、主人がわたしにもできることあるんだなと見直してくれたみたいで笑。

仕事であっても料理を好きなことには変わりありませんが、仕事である以上、制約はありますよね。

たとえば、夕食のレシピをSNS投稿しているので、フォロワーさんに喜んでいただけるようなメニューを意識しています。以前はすべて目分量で適当につくっていたので、最初はレシピ用に分量を決めて測るのを、手間に感じたりもしました。

そのぶん、朝食と昼食はそのとき食べたいものをつくったり、挑戦してみたかったレシピを試したり、自由にできるのが楽しいですね。そこでよくできた料理はレシピを起こして、SNSにアップすることもあります。

できる範囲でつづけているうちにお仕事の依頼が増えてきて、すこしずつ収入も上がりました。子供が多く、塾や習い事にもお金がかかるので、たすかってます笑。

ー 仕事で悩んだり、課題に感じるようなことはありますか?

仕事で悩むことはほとんどありません。

お仕事とはいえ、どこか趣味の延長というように感じる部分もありますし、仕事ではなくても毎日料理はしますしね。

仕事上の悩みというと人間関係などがよくあげられるかと思いますが、それもないですね。うちの場合は主人がすごく厳しいので、免疫がついているかもしれません笑。

お仕事でいくつかのパターンの写真を撮らなくちゃいけないのに、そのうちひとつを忘れて食べてしまって、「あ、またつくらなくちゃ」なんていう失敗はしょっちゅうあります笑。

写真がまだまだ綺麗に撮れないので、もっと上手に撮影できるようになりたいと思っています。そこは課題のひとつですね。

ー 毎日欠かさず、インスタに2〜3品のレシピを発信されています。レシピのアイディアが浮かばずに困ることはありますか?なにか参考にされたりすることはありますか?

あまりないかもしれません…。たまにどうしても浮かばないというときは、子供に食べたいものを聞いたり、母の料理を思い出してみたりします。

最初は母に教えてもらったり、レシピ本をみて参考にしたりしていましたが、そのうちほとんどみなくなりました。あらかじめ「これをつくろう」と決めて食材を買うのではなく、その時点で冷蔵庫にある食材をみてつくるものを決めます。

高校のときに多忙な母に変わり家族の食事をつくるようになり、その頃からそうしていますね。一人暮らしのときも自炊していたし、もうずっとそのやりかたで料理をつづけてきているから、生活の一部になっている感じでしょうか。

ー 仕事で喜びや達成感を感じるのは、どんなときでしょうか?今後の目標などもあれば、教えてください。

レシピ本の出版はひとつの大きな目標だったので、とても嬉しかったですね。

インスタのフォローさんの人数が増えるのも、お仕事の依頼をご依頼をいただけるのも、本当にありがたいことです。でも、依頼が減ったら、時間の余裕ができてちょっと嬉しいなって思います笑。

仕事ではあるのですが、得られる収入とか達成感よりも、食や料理で悩んでいる方の力になれたら嬉しいな、という気持ちが強いかもしれません。

わたし自身の失敗談をお話すると、中学のときにダイエットにのめりこんで、摂食障害になったことがありました。一時は学校を休学し、両親や先生方に心配をかけてしまって…。

食べることが怖くて仕方なくなって。でも、病院で栄養指導を受け、自分で全部カロリー計算をした手料理ならなんとか食べられるようになり、そこからすこしずつ回復していきました。

薬膳を学び始め、「食で身体を改善する」という考えに触れたとき、当時の経験とつながり、感動しました。食材にはひとつひとつ効能があって、食べることで身体を健やかな状態に保ってくれているんだなあって。

そのことを伝えていきたいので、レシピにはかならず薬膳効果をつけています。

今回、当時お世話になった恩師の先生に連絡をとって、レシピ本を母校に献本しました。もし似たような悩みを抱えて苦しんでいる子がいたら、同じように悩んで、でもちゃんと回復して、いまは料理の道に入った卒業生がいることを伝えて欲しいなと思って。

それから、子供が生まれ家族が増えるにつれ、嬉しいことなのに家事の無限ループにはまり、どうしようもなくなっていたときもありました。

すこしでも楽になりたくて、料理の工程や洗い物をできるだけ簡略化できるよう、試行錯誤を重ねてきました。その蓄積がわたしのレシピに反映されているはずなので、家事をがんばりすぎてつらくなってしまっている方にも届けられたらいいな、と思っています。

わたしは料理しかできませんが、その料理を仕事にできたことはとても幸運だったな、と思っています。料理の仕事を通して、すこしでも食や料理で悩んでいる方のお役に立てたら、とても嬉しいです。

編集後記

画像7

「趣味の延長上」で料理をしているだけで、フォロワーが11万人もついたり、レシピ本を出版できる大人気料理家になれるのだろうか。

インタビュー前に抱いた疑問は、絵美さんにじっくりお話を伺ったあとはすっかり消えていた。

仕事にするずっと前から、絵美さんがつづけてきたこと。でも、大好きなはずの料理と食に、悩み、苦しんだ経験があること。

そのなかから学び、改善し、生み出してきた工夫の積み重ねが、いまの絵美さんの料理に凝縮されている。そして、絵美さんのレシピは、毎日の料理に悩む多くのひとたちのたすけと喜びになり、日々の食卓への彩りとなる。

仕事の根本とは、誰かを喜ばせたり、役に立ち、その対価を報酬で受けとること。

いまの絵美さんの活躍はその循環によって成り立っているのだと感じた。

絵美さんのレシピと活動をご覧になりたい方はこちら

<インスタ>

(*プロフィール画面だとうまく表示されないため、レシピ本の発売日の投稿をリンクしてあります)

<ブログ>

<レシピ本>

4児ママ・松山さんの薬膳効果つき やみつき節約めし


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?