森下あかね

大学生だった1980年代、雑誌ライターになりました。依頼で書く原稿ではなく、今まで自分…

森下あかね

大学生だった1980年代、雑誌ライターになりました。依頼で書く原稿ではなく、今まで自分で書き溜めてきた雑文をここに置いておこうと思います。もしよかったら、読んだ感想をぜひ教えて下さい。

最近の記事

昔話 ライター修行 その67

幻の編集長賞 [注釈]これは本シリーズの に書いた「コーシツ記者」編でのエピソードです。 コーシツ記者として悪戦苦闘していた当時のことである。 ある日、私は友人とそのころ熱中していたビリヤードをしに近所のあるボーリング場にでかけた。 そのころは、1986年に公開されたトム・クルーズ出演の「ハスラー2」という映画の大ヒットが火付け役になって、街のいたるところに "プールバー" なるおしゃれなビリヤード場ができていた。人気の店では2時間、3時間待ちがあったりまえというフ

    • 昔話 ライター修行 その66

      就活失敗 電話はかかってこなかった②  8月20日、解禁日。初めてM社の会社説明会へ。ほかの出版社では、いかにも「オヤジ」って感じなスーツ姿の男性が説明に立っていたのに(周囲にいた女性社員はみなスカートで厚化粧)、M社の説明では、パンツスーツにすっぴん(ひょっとしたらすっぴん風かもしれない。でもそれだけ、ナチュラルメイクだったということだ)の女性が、颯爽と登場。あまりのカッコよさに、私の「本命感」はますますヒートアップしたのだった。  説明会と同時に、簡単な作文があり、次

      • 昔話 ライター修行 その65

        就活失敗 電話はかかってこなかった① [注釈]ナナ話は完結したので、またつらつらと、ライター昔話を。これは私の超短かった就活体験です。 ――電話はかかってこなかった。夜まで、夜中まで電話の前でひたすら待ってみたが、電話は鳴らなかった。とても図々しい物言いだけれど、なぜ、かかってこないのかわからなかった。私が唯一入りたい出版社なのに、どうして?どうして?どうして?  眠れない夜を過ごした翌朝、速達で薄っぺらい封筒が届いた。開けなくても結果はわかっていた。 「大変残念です

        • 昔話 ライター修行外伝 エピローグ

          ナナからの最後の忠告  それから4年ほど経ったある日。ナナからまたまた電話がかかってきた。 ナナとの直接の連絡はとだえていたものの、彼女がモデルの仕事をすっぽかしまくってとうとう事務所から出入り禁止にされてしまったことや、ゲッソリやせてやつれた姿で、テレビの深夜番組の水着のお姉さんとして出ているのを見かけたという目撃談、さらには六本木のあやしげなパブ(ランジェリーパブ?)で働いていたが、店の女のコとつかみ合いの大げんかをして、店を飛び出したなどと言う物騒なウワサだけは耳に

        昔話 ライター修行 その67

          昔話 ライター修行外伝 15

          見事すぎる結末  「そだよね、ナナひとりじゃ、子供なんか育てていけないもん。でも彼も学生だから結婚はまだできないし。ちゃんと話し合うしかないよね。ナナと彼だけじゃケンカになるだけで、きちんと話せないんだ。あかねさんがいてくれたら、彼もちゃんと考えてくれると思うの」  家出のときの出戻り騒動とそっくり同じパターンだと気がついて、青ざめる森下。それとは逆にすっかり肩の荷が下りた様子で、バッグからいそいそと彼氏の連絡先を書いた手帳を取りだし、期待に満ちた目で、私に電話番号を告げ

          昔話 ライター修行外伝 15

          昔話 ライター修行外伝 14

          手のひらで転がされる  自分の抱えているトラブルを人におっかぶせ、まるで人ごとのように処理するというのはナナの特殊能力かも知れない。ナナに関わるとろくなことにはならないとわかっていても、台風のようにナナが押し掛けてきて、そのまま巻き込まれる(またその巻き込み方がうまい。ナナに目星をつけられたら簡単に逃げだせるもんじゃない)。  ところが張本人のナナは、誰かを巻き込んだとたん涼しい顔。台風の目が晴天なのと同じ事だろうか。気がつけば巻き込まれて被害を受けた周囲が目の前にあるト

          昔話 ライター修行外伝 14

          昔話 ライター修行外伝 13

          2度あることは3度ある… 「もう2度と、金輪際、ナナとは関わるものか」  うんざりした気分をひきずりながら、ナナの家から帰ってきて半年。ちょうど忘れかけたころ、それはやってきた。台風ナナの再々来である。  しかし、私だってバカじゃあない(ちょっとマヌケだけど)。もしもナナが、直接、私のところにやってきたら、今度こそ 「悪いけど、帰ってくれないかな」  って、門前払いができたと思う。きっと。  でも、やっぱりナナは一枚上手だった。そのあたりのことをナナはすっかり察知して

          昔話 ライター修行外伝 13

          昔話 ライター修行外伝 12

          ナナ、お供を連れて実家にご帰還④  ところがナナはただの不憫な娘じゃなかった。さすがこの母親に育てられただけのことはある。形勢が逆転したとたんに "いい子になる" 宣言は、どこかにすっ飛んでしまい、わがまま混じりの条件提示が始まった。 「んー。通信制の学校で、大検の資格を取れるところがあるのね。週に1,2度スクーリング(学校に通って授業を受ける)もあるんだけど。ナナ、そこに行けばいいと思うの。そうすればほら、高校卒業の資格だって取れるし(厳密にいえば、違うのだが)。でも電

          昔話 ライター修行外伝 12

          昔話 ライター修行外伝 11

          ナナ、お供を連れて実家にご帰還③  さすがにいたたまれなくなったのだろう。ママ同様、ふてくされた態度で黙りこくっていたナナも哀願口調で謝りはじめた。 「ごめんなさい、ママ。ナナ、今度こそいい子になるから、おうちにいさせてください。高校にもちゃんと行く。夜遊びもやめる。ママにも口答えしない。いい子になるから」  それでもナナの方を見ようともせず、ママは言う。 「あなた、もう何度目だと思ってるの。ママはこれまであなたがゴタゴタを起こすたびに、アチコチかけずり回って頭を下げ続

          昔話 ライター修行外伝 11

          昔話 ライター修行外伝 10

          ナナ、お供を連れて実家にご帰還②  ナナの母親に会えば、ますます状況が悪くなるのは、さすがの森下にも手に取るようにわかった。できることなら、ナナだけを地獄の入り口に押しやって、逃げ帰りたい。  しかし、こういう展開になるのは先刻ご承知(ナナひとりでは、追い返されていたと思う。確実に)だったナナは、私の左腕に自分の右腕を巻き付け、左肩にかけた大きなバックを揺すって、じいっと私の表情を観察している。 「あんた、ココで逃げるんじゃないでしょうね!」  ナナの視線はそういいなが

          昔話 ライター修行外伝 10

          昔話 ライター修行外伝 9

          ナナ、お供を連れて実家にご帰還① 「あかねさん、ナナ、おうちに帰りたい」  涙に濡れた長いまつげをパチパチさせながら、訴えるナナ。 「そうだよね。帰った方がいいね」 「でもママ、ナナひとりで行ったら、家に入れてくれないよ」 「ちゃんと謝れば大丈夫だよ」 「ちゃんと謝る! でも、ナナひとりじゃ、うまくママと話せないんだもん。きっとまたケンカになっちゃうよ」 「……………」 「あかねさん、お願い。一緒についてって」 「う、うん」  あああああああ、とうとう巻き込まれてしまっ

          昔話 ライター修行外伝 9

          昔話 ライター修行外伝 8

          うそつきナナ、大号泣。作戦大成功  当時 "フリーター" という言葉が、ぼちぼちと使われるようになっていたが、それは大学中退や大学を卒業したナナよりも少し年上の人たちの生き方だった。 「ナナは、やっぱりおうちに帰るのが一番だと思うよ」  私の考えをつたない言葉で説明したあと、こういうと、ナナがポツリとつぶやいた。 「私だって、おうちに帰りたいよ。本当は……」  ナナが自分を「私」と呼ぶのを、このとき初めて聞いた。 「そかそか。じゃ、帰りなよ」 「でも……。ママはきっと家

          昔話 ライター修行外伝 8

          昔話 ライター修行外伝 7

          うそつきナナ 再襲来!②  ナナは、勝手にうちから持っていった化粧品やアクセサリーを私の前に積み上げると、土下座して謝り続けた。 「ごめんなさい。ナナはホントに悪いコだよね……」  我に返った私は、なんとか落ち着きを取り戻し、こういった。 「そか。返しに来てくれたなら、もういいよ。そこに置いといてくれれば、あとで片づけるから」 「ううん、ナナが片づける!」  なぜか突然、元気になったナナは、奥のリビングに入っていくとせっせと片づけをはじめた。さっきまでの "ごめんなさい

          昔話 ライター修行外伝 7

          昔話 ライター修行外伝 6

          うそつきナナ 再襲来!① ――これまでのエピソードで済んでいれば、あれから十数年経った今、ナナのことを覚えてはいなかったかもしれない。  どういうわけか、うちには居候がしょっちゅういたから。でも、ここまでのことは、実はほんの序盤だったのだ。これだけなら、タイトルに「うそつきナナ」と書くほど、森下もいじわるじゃない。そう、その1週間後、ナナは帰ってきたのだった。とても、とてもドラマチックに!  いつものように部屋に戻ると、部屋に明かりがともっていた。でもそのときは "友だ

          昔話 ライター修行外伝 6

          昔話 ライター修行外伝 5

          うそつきナナの「スタイル」と居候の潮時  手帳ひとつでなく、ナナには自分の「スタイル」というものが、18歳とは思えないほどガンコにできあがっていて、経験値も知恵も知識もまるで足りない若輩者の私ごときには決してそれを崩すことがなかった。  そのほとんどが常識はずれの「スタイル」なので、いつの間にか周囲からハジかれてしまう、という感じ。 ――どこかへ出かける前には、必ずシャワーをあびる――  というのも、ナナの譲れないスタイルだった。当時は『朝シャン』という言葉が大流行してい

          昔話 ライター修行外伝 5

          昔話 ライター修行外伝 4

          うそつきナナは手帳をご所望  そのころのナナは、高校を自主休学状態。その代わりに本業ではないものの、雑誌のモデルやナレーターコンパニオンとして小遣い稼ぎをしていた。  私以上に朝に弱く、ねぼすけのナナは、翌日仕事がある日は徹夜することに決めていた。もちろん私にも同じような経験があるのだが、ナナの徹夜方法は過激そのもの。  薬局でカフェインの錠剤やドリンクを買ってきて、それを何錠も何本も飲み、目が血走るような興奮状態で必死で起きているのである。 「ナナ、私がけっ飛ばして

          昔話 ライター修行外伝 4