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昔話 ライター修行外伝 14

手のひらで転がされる


 自分の抱えているトラブルを人におっかぶせ、まるで人ごとのように処理するというのはナナの特殊能力かも知れない。ナナに関わるとろくなことにはならないとわかっていても、台風のようにナナが押し掛けてきて、そのまま巻き込まれる(またその巻き込み方がうまい。ナナに目星をつけられたら簡単に逃げだせるもんじゃない)。

 ところが張本人のナナは、誰かを巻き込んだとたん涼しい顔。台風の目が晴天なのと同じ事だろうか。気がつけば巻き込まれて被害を受けた周囲が目の前にあるトラブルを解決してくれて、ナナは涼しい顔でいつものお気軽な生活に逆戻り。だけど巻き込まれた方はといえば、傷だらけ、という寸法だ。

 部屋にやってきたナナは神妙そのものだった。ナナだけじゃない。今回最初に巻き込まれたケンはまるで、ナナを妊娠させた張本人といった様子でしおれきっている。

「あかねさん、ナナ、どうしていいかわかんなかったの。今さらあかねさんに相談できるわけないってわかってたんだけど(そりゃそうだ。ナナは実家に戻って以来、一本の電話すらよこさなかったんだから)、ほかに誰も頼る人がいなくて。

 でも近くまで来たら、直接あかねさんとこへはどうしても行けなくて、それで、それでケン君のところへ行ってみたの。ケン君の彼女が私のことを嫌ってるのは知ってたけど、どうしようもなくて。ケン君、ごめんね。彼女、怒ってたよね」

「……いいよ、そんなこと」

 部屋に残してきた怒り狂っている彼女を思いだして、ますますしおれるケン。

「それより、ちゃんと話せよ、あかねさんに」
 う、来た。いよいよ本題だ。

「そいでナナ、赤ちゃん本当にできてるの?」
「……うん。昨日病院に行ったの。3ヶ月だって」
「ふうん。それでどうする気?」

「彼にね、あ、3ヶ月前から一緒に住んでるんだけど(つまり半年前の騒動でやっと家に帰したっていうのに、たった3ヶ月でまたまた家出というわけ)、赤ちゃんができたっていったら "オレは関係ない" っていうの。ナナ、彼以外とはそういうことしてないのに」

「ふうむ」

「病院にもついていってくれなくて、本当に妊娠してるってわかったら "おろすしかないだろ。でもオレ、金ないよ" っていうの。それにね "親にばれたらまずいから、とりあえずここから出てってくんないか" "第一、オレの子かどうかわかんないじゃん" って。あんな人だとは思わなかった……」

 よくあるドラマの展開にそっくりだ。でもそのあまりに出来過ぎ(というより、最低すぎ)な筋書きに、かえって冷静になってしまった。

「それで……、ナナはどうしたいわけ?」

「ナナのお腹の中には命が宿っているんだよ! 殺せるわけないじゃん!」

 わっと泣き出すナナは、悲劇のヒロインそのもの。でも、ちょっと考えれば18歳で職ナシ(しかも家出中)、頼みの綱の彼氏にも捨てられそうになっているナナが産めるはずはないことはマヌケ代表の森下にもわかる。

「じゃ、ナナがひとりで産んで育てるの? 彼氏は結婚してくれそうにないんでしょう?」

「(号泣)」

「第一さ、産むお金はどうするの? 赤ちゃんと一緒にどこに住むの? ママに謝って、実家に住まわせてもらう? でもあのママじゃ、絶対にむりだと思うけど?」

「(大号泣)」

「それに、ナナはまだ18じゃない。高校を卒業したいとか、プロ意識を持ってモデルをやりたいとかの夢はどうするの? 意地で赤ちゃん産むのはナナの勝手だけど、そうやって生まれた赤ちゃんは幸せかな?」

「(絶叫大号泣)」

「と、とにかくさ。彼と話し合わなくちゃ始まらないよね。ナナひとりじゃ赤ちゃんは作れないんだし。その彼以外の相手は絶対考えられないの?」

「(うなづきつつ、号泣)」

「じゃあなんで、彼氏は "自分の子じゃない" なんていうんだろう。ね、あんたたち、避妊はしてたわけ?」

「(激しく首を振って号泣)」

 まるでお話にならない。いいかげんな暮らしやつきあい、Hを繰り返しておいて、妊娠したとわかったとたん、泣くばかりのナナにも呆れるけれど、大学2年生を3度も繰り返しているという(学校に行かないから、進級できないんだそうだ。そのくせ退学になったら親に叱られるとおびえているらしい)彼氏は、いったいナニモノなんだろう。なんだかモーレツに腹が立ってきた私は、頭の中で "さらにドツボにハマるそ" 危険信号が点滅しまくっているのにもかまわず、こういってしまった。

「ちょっとナナ、彼氏、呼び出しなよ。ココに」

 この言葉でピタリと泣きやんだナナは、待ってましたとばかりにこういった。
「うん。あかねさんならそういってくれると思ってた!」

 し、しまった。やっぱりナナにハメられた。結局のところ、ナナは彼氏に責任(この場合はお金? とりあえず出産して結婚する気はなかったように感じた)を取らせたいがために、私のところへやってきたのだ。

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