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昔話 ライター修行外伝 15

見事すぎる結末


 「そだよね、ナナひとりじゃ、子供なんか育てていけないもん。でも彼も学生だから結婚はまだできないし。ちゃんと話し合うしかないよね。ナナと彼だけじゃケンカになるだけで、きちんと話せないんだ。あかねさんがいてくれたら、彼もちゃんと考えてくれると思うの」

 家出のときの出戻り騒動とそっくり同じパターンだと気がついて、青ざめる森下。それとは逆にすっかり肩の荷が下りた様子で、バッグからいそいそと彼氏の連絡先を書いた手帳を取りだし、期待に満ちた目で、私に電話番号を告げるナナ。ハメられた……。

 しかし泥船にはすでに乗ってしまった。冷めやらぬ怒りに任せて突き進む以外に道はない。
「もしもし? ○×さんですか? 私、森下と申します。ナナさんの知り合いなんですが」
「はぁ」
「ナナが、赤ちゃんができたって家に来てるんですが、赤ちゃんのお父さんはあなたですよね?」
「え? いや、あの、オレかどうかハッキリしないんですよ」
「だってあなたのところにナナさんは3ヶ月も住んでたんでしょ? つきあってたんですよね? おまけに避妊もしないで毎日のようにHした。そりゃあできますよ、赤ちゃん」

「そ、そんなこといわれてもオレ、関係ないっすよ!」
「どう関係ないんでしょうか?」
「オレ学生だし、別に結婚する気もないし」
「だから? 妊娠したら、家から放り出して、なかったことに? 望まないことだったにしても、妊娠したのはふたりの責任でしょ?」

「それって金払えってことっすか? ないよ、金なんか。バイトもしてないし、仕送りだって、止められそうなんだから(留年を繰り返しているから)!」

 どこまでも開き直る彼が電話を切る前に、とどめのひとこと。
「わかりました。あなたが責任を取れないということなら、あなたのご両親と話しましょうか。大学に問い合わせれば、実家の連絡先なんか簡単に調べがつきますから。お目にかかってありのままをお話しして、ご相談します」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。オレ、マジでやばいんすよ。親に言うのはカンベンしてください。仕送り止まるどころか、勘当されちゃう! ちょっと、そこにナナ、いるんでしょ? 出してくださいよ」

「電話でできる相談じゃないですから。ふたりで話し合おうにも、話し合いにならないってナナが泣きついてきたんです。今から、こちらに来てちゃんと話し合いをしましょう」
「う……。ま、まじっすか。う~ん、いいですよ。行きます、行けばいんでしょ(怒)!」

 何の因果で、こんなヤツを電話でおどしたりすかしたりしながら、家に呼ばなきゃならないんだか、自分でもわからなかった。ナナとろくでなしの彼氏の間に割り込んで、仲裁したり中絶の相談をしたって、後味が悪い結果になるのは当然見えていた。しかし、ナナに巻き込まれた以上、当時の私はこうする以外になかったのだ。


 ふてくされきった様子でやって来た彼は、ナナはもちろん、私や手下とも目をあわせようともせず、開口一番こういった。
「バイク、売るから。それで金作る。これでいいんだろ」
 ところがナナは、ここで突然、寝返った。

「そうじゃないの。ナナ、お金が欲しいんじゃない! ナナ、○×君とやり直したかったの。赤ちゃんができて、○×君を困らせてるのはわかったけど、でもナナ、○×君が好きなの。でも部屋から出ていけっていわれて、どうしようもなくて、ここに来たのね。
 そしたら、そしたら、赤ちゃんはおろしたほうがいいって……(号泣)、○×君の電話番号を教えろって……(号泣)」

 私が無理矢理中絶させようとしていて、お金は彼からふんだくってやろうと、私ひとりで勝手に考えて彼をココへ呼びつけたといわんばかりだ。その様子を見て、ゲンナリする私と急にナナへの情が再沸騰したろくでなしの彼。

 いきなりナナのバッグをひっつかみ、ナナをがばっと抱き寄せると、
「ナナは連れて帰る! 病院にもちゃんと連れていく! 子供は……、子供は今はムリだけど、ナナはオレがちゃんと責任取って面倒見る。オレはナナを愛してるんだから。これ以上、オレたちの関係に首を突っ込むなよ! 今度アレコレいってきたら、ぶっ殺してやる!」
 とぶっそうな捨てぜりふを残して、

 ふたりは嵐のように去っていった。玄関のドアを閉めるとき、ナナが舌を出していたような気がするのは、腹立ち紛れにあとで私が付け加えた想像だとは思うが、実際、ナナは私たちを思い通りに利用して、お腹の中で舌をぺろりと出していたような気がしてならない。



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