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昔話 ライター修行外伝 11

ナナ、お供を連れて実家にご帰還③


 さすがにいたたまれなくなったのだろう。ママ同様、ふてくされた態度で黙りこくっていたナナも哀願口調で謝りはじめた。

「ごめんなさい、ママ。ナナ、今度こそいい子になるから、おうちにいさせてください。高校にもちゃんと行く。夜遊びもやめる。ママにも口答えしない。いい子になるから」

 それでもナナの方を見ようともせず、ママは言う。
「あなた、もう何度目だと思ってるの。ママはこれまであなたがゴタゴタを起こすたびに、アチコチかけずり回って頭を下げ続けてきたわ。でも、もうダメ。この前、出ていくときいったでしょう? もうあなたはうちの子じゃないって。第一、あなたがココに出入りするだけでご近所のウワサになるんだから。高校もまともに行ってない、服装も派手な娘がうちにいるって。モデルのバイトでもなんでもして、ひとりで暮らせばいいでしょ」

「ママ……」
「あなたは我が家のトラブルのタネなの。迷惑なのよ。パパのお仕事に差し障ったらどうするつもり?」
「ナナ、寝る場所もないんだよ? なのにママは私を追い出すの?」
「なにいってるの。無断で外泊して何日も戻ってこなかったのはアナタでしょ? それこそ品の良くない友だちか、ほら森下さんのところにでもごやっかいになって、暮らせばいいじゃない」

 え? え? えええええええええ? 実の母親が、そこまで言うかぁ? びっくりするとともに、ナナが "素行不良娘" になり果てた原因はママにもあると確信し、腹の底から怒りがこみ上げる森下。私の憮然とした表情に気がついたママは、あわてて(ほら、外面いいから)言い直す。

「そ、それがムリなら、お金は出すからひとり暮らしすればいいじゃない。森下さんみたいにしっかりした方に保証人になってもらって。アパートを借りるお金と家賃ぐらいはあげるから、あとはバイトでなんとかしなさい」

 娘が部屋を借りることになっても、保証人にすらなりたがらない母親……。無責任な言葉の連発に、とうとう私もキレてしまった。

「未成年の娘に向かって、それはないんじゃないですか!? 失礼ですけど、ナナさんに今、一番大切なのは、おうちでキチンと生活するっていうことだと思います。朝ちゃんと起きて、学校に行って、家に戻って夕食を食べるっていうあたりまえの生活が。ひとり暮らしをするには、ひとりで生きて行くなりの "常識" ってものが必要だと思うんですが、お母さん、これまで彼女にしつけってなさってますか? 一緒に暮らしていて、とてもそうは思えなかったんですが」

 ハタチちょい過ぎの小娘にこう言われたら、普通の母親なら激しく反論するだろう。当然、私もそうくるだろうと思っていた。ところがナナのママは、私のキレようにおそれをなしたのか、黙り込んでしまったのだ。

 母親の言葉に調子づき、大喜びでひとり暮らしの提案を受け入れるかと思ったナナも、さすがに自分のだらしなさには自覚があるらしく(たぶん生活費は自分持ちっていうところが、厳しいと思ったんだろう)、家に戻る方向で、懇願を続ける。

「ママ。ナナ、ほんとに心を入れ替えて、いい子になる。約束するから!」
 するとママは力無く言った。

「ナナ、先週、高校から "退学してください" って通知が来たのよ。あなたが戻ってきても、もう通う学校がないの。あなたが学校をクビになるたびに、何度も頼み込んで学校を探したけれど、もうムリでしょう。高校にすら行かずにフラフラしてる娘が家にいるって、マスコミやパパのスポンサーに知れたら、パパのイメージはがた落ちなのよ。あなたが家に寄りつかなければ "海外の学校に留学している" とでも説明できるのに」

 とことん娘を厄介者扱いして切り捨てようとする母親。いつもの強気な姿勢を引っ込めて、お願いしまくっていたナナも、ついに逆上した。金切り声で、母親に向かって絶叫するナナ。

「じゃあいいよ、ママのいう通り、ひとり暮らしでもなんでもする! でもあたし、復讐するからねっ! プロスポーツ選手の○×△の娘として、雑誌のヌードグラビアとか、AVビデオに出てやるから! パパとママの評判、ズッタズタにしてやる~!」

 ものすごい発想だ。娘が母親に向かって言う台詞じゃない。しかしこの母親に対して、これ以上の復讐はないだろう。
 案の定、母親は動揺した。一瞬で、さっきまでとは立場が逆転。今度は、ナナのママが懇願する番だ。

「ナナ、なんてこというの。わかった、家に戻ってきてもいいから、そんなことだけは考えないで。お願い。家に戻っていいから」

 (ほんの少しだけれど)反省して謝る娘の言葉には、耳も貸さなかったくせに、脅迫まがいの逆切れで、とたんに家に戻ることを許す母親。たぶん、ずっと小さいころから、ナナはこうやって親に育てられたんだろう。こんな母親に育てられたナナが、とっても不憫な娘に思えた。不覚にも、涙が出てきた。(つづく)

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