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昔話 ライター修行外伝 7

うそつきナナ 再襲来!②


 ナナは、勝手にうちから持っていった化粧品やアクセサリーを私の前に積み上げると、土下座して謝り続けた。
「ごめんなさい。ナナはホントに悪いコだよね……」

 我に返った私は、なんとか落ち着きを取り戻し、こういった。
「そか。返しに来てくれたなら、もういいよ。そこに置いといてくれれば、あとで片づけるから」
「ううん、ナナが片づける!」

 なぜか突然、元気になったナナは、奥のリビングに入っていくとせっせと片づけをはじめた。さっきまでの "ごめんなさいナナ" は、跡形もない。ものすごく元気だ……。

 手慣れた様子で、部屋のステレオのスイッチを入れると、お気に入りのディスコミュージックのカセットをかけて、リズムを取りつつ洋服をハンガーに掛けたり、アクセサリーを箱の中に戻したりしている。

 その様子を見ているうちに、いやあな予感が胸の中を走った。ひょっとしたらナナは、またうちに住みつくつもりなんだろうか?

「ナナ……。うちを出てからドコに泊まってたの?」
「いろいろ。前にモデルの仕事でいっしょになった人とか、ね。でも、黒服とかディスコの知り合いはダメ。女のコは絶対、泊めてくれないし、黒服はもし泊めるとしたら "Hさせろ" っていうしね。やっぱ、あかねさんとこが、一番安心♪」

 や、やばい。やっぱりナナは、またうちに居候しようとしている。「ふうううん」
 あいまいに答え、黙り込むこと数十秒。ここでナナに負けて、また居候させたら、前回の二の舞だ。ココは、心を鬼にするしかないだろう。

「ナナ……、聞いて。ナナがアタシを頼ってくれるのは、すっごく嬉しいよ。だけどアタシ、ナナと暮らしていけない。ナナとは年も違うし、考え方も違いすぎるもん」

「ナナ、今度こそバイトする。ちょびっとだけどお金、あかねさんに渡す。あかねさんがダメっていったことはしないよ。それでもダメ?」
「あのね、ナナ。お金の問題じゃないんだよ。ん~、なんていったらいいんだろう……」

 いいカッコしいの私は、ハッキリ "私はあんたを信用できないから" とはいえなかった。もちろん "友だちだとは思っていない" とも。そこで、作戦を変更することにした。

「ナナ、あんた今、家出中でしょ。それに未成年。本当に独立して暮らしたいなら、一度、おうちに戻って、ちゃんと親に認めてもらわなくちゃ」

 私が親の話を持ち出したので、ナナはにわかに顔を曇らせた。夜中にうちにやってきた翌日、ナナから無理矢理、家の電話番号を聞きだし "私の家でおあずかりしています" と報告したときも、ナナはかなり不機嫌になった。

 とはいえ私もナナの親には、実は不信感を持っていた。いくら家出の常習犯とはいえ、私の電話を受けた親の反応はそっけなさすぎたから。
「あ、そうですか。お願いします」
 とだけ言って、電話を切ろうとする。

 警察に捜索願いを出すほど大騒ぎした様子もなさそうだし、娘を迎えに来る気もないらしい。それでも娘の居所くらい、ちゃんと知りたいに違いないと思い
「一応、私の住所と連絡先を申し上げますね」
 と、電話番号や住所を告げたのだが、お母さんは、メモを取っている様子すらない。あげくに
「ちょっとお客さんが来ていますので、また」
 と、一方的に電話が切れた。

 ナナを家に連れ戻したところで、親はたぶん、喜びもしないんだろう。ナナだって、おとなしく家に居続けるとも思えない。しばらくしたら、きっと家を飛び出すに決まっている。

 けれど、私にはナナを家に帰す以外の方法が思い浮かばなかった。自主休学中の高校を卒業した方がいいと思って(というより、卒業するのが当たり前? そのころは今ほど、高校中退はポピュラーじゃなかった)いたし、私の感覚では、18歳で親から独立するなんて早すぎるように思えたのだ。

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