タマビ講義#05 デザイン(プロモーション)って何なん? 「社会にデザインの本質を伝えるには?」講師:秋元 淳
かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、多様なプロモーションを通じてデザインにできることを広げることがデザインプロモーションです。デザインは一般に見た目のものとして捉えられがちですが、社会が複雑化する中でデザインに求められる機能や領域は広がっており、課題解決や新たなテーマの発見こそが“デザイン”の本質とされています。
デザイナー(専門家)だけの問題ではない“デザイン”を、広く一般に伝える上で最も大切なことは「明るく・楽しく。希望を伝えること」です。
講義のアーカイブは下記です。
今日のキーワード
デザインプロモーション
グッドデザイン賞
デザイン思考、デザイン経営
前回の講義レポート
今回の講師は日本デザイン振興会 秋元淳さんです
1998年に日本デザイン振興会に入社後、20年以上一貫してデザインプロモーションを歴任してきた方です。デザイン専門媒体の編集業務、グッドデザイン賞の運営、展覧会の企画運営などの活動があり、多摩美術大学や法政大学での非常勤講師もされています。
デザインプロモーションをする上で大切なこと
今回の講義では、デザインプロモーションをする上で大切なこととして、01 一般性と専門性のバランス、02 デザインを万能薬にしない、03 「デザインをする人」を伝える、04 デザインプロモーションは、明るく・楽しく。希望を伝えて。(近年のグッドデザイン賞金賞・大賞の受賞事例)が紹介されます。
01 一般性と専門性のバランス
一般的なデザインに対する認識・理解と、デザインの専門層・プロフェッショナルの間には“デザイン”に対する理解のギャップがあり、デザインプロモーションの際に伝える情報のバランスを考える必要があります。日本デザイン振興会の「デザインに対する認識の調査」によると、デザインは一般的には造形や装飾といった見た目のことと見られていて、専門的には構想や計画、課題解決といった広い意味のことと見られています。
現在のデザインを専門的に区分けすると、すでに十分デザインされてきた対象をさらにデザインによって価値を高める「上乗せ」と、これまでデザインされていない対象にデザインの手法や効果を活かして価値をもたらす「掛け合わせ」があります。「上乗せ」の例は、『デザイン家電』『デザインマンション』『デザインホテル』があり、「掛け合わせ」の例は、『デザイン思考』『デザイン経営』『行動デザイン』です。
一般的なデザインに対する認識・理解とデザインの専門層・プロフェッショナルのあいだの差異の存在をつねに前提としながら「共通言語」を見出していく必要があります。デザインという言葉の認識が違う中で、丁寧なコミュニケーションとプロモーションは大切なことです。
02 デザインを万能薬にしない
デザインは課題の解決や課題の発見に貢献できますが、社会にはデザインだけでは解決できない課題の方が圧倒的に多いです。『スタンフォード式 人生デザイン講座』の販促の帯文で「デザイン思考」で行き詰まりを解消! の文章がありますが、デザインは万能薬ではありません。
デザインに備わっている本質的な要素が課題の解決に必要とされているのであって、必ずしも手法としてのデザインが課題の解決を図れるわけではありません。デザインの本質的な要素は3つに分けられ、『人を軸に成立する「人間中心」の姿勢』『見えないことを具現化する可視化』『一過性・一方的でない「継続性・互恵性」の形成』があります。
デザインの力があればこれまで解決できなかったことが必ず解決できるといった、デザインが万能薬のような印象を与えてはいけません。デザインができることと、しなければならないことを謙虚に示していく必要があります。
03 「デザインをする人」を伝える
私たちを取り巻く無数のデザイン、デザインをする人を審査を通じて発見し、プロモーションする取り組みがグッドデザイン賞です。かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、その質の評価・顕彰をしています。
単に「デザインをする人」が専門職のデザイナーとは言えません。デザインを担う人材の多様化、デザインを成り立たせている目的性・指向性の多様化の中で、デザインの概念や定義や手法は、時代や状況の変化とともに変動しています。
デザインに可能性を見出す人びとを支援し、デザインにできることや領域を広げ、社会に生きる人々ひとりひとりが、豊かに生きられる社会をめざすのがグッドデザイン賞の取り組みです。「私はデザインをしている」と考える当事者の意志と姿勢を伝えることで、デザインが持つ力やその可能性を伝えることができます。
04 デザインプロモーションは、明るく・楽しく。希望を伝えて。(近年のグッドデザイン賞金賞・大賞の受賞事例)
台湾の学校の教育環境を再構築(リデザイン)した事例で、行政とデザインのプロフェッショナルとユーザー(教師・生徒)の協業での取り組みが特徴です。社会へのデザインの浸透・定着に向けた実践事例、実効的な取り組みであると点で評価されています。
「おてらおやつクラブ」は、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動です。従来、寺院が地域社会で行ってきた営みを現代的な仕組みとしてデザインし直し、寺院の「ある」と社会の「ない」を無理なくつなげる優れた取り組みとして評価されています。
2つの事例はデザインの本質的な要素である『人を軸に成立する「人間中心」の姿勢』『見えないことを具現化する可視化』『一過性・一方的でない「継続性・互恵性」の形成』を備えており、「明るく・楽しく。希望を伝える」活動であることが評価の要因となっています。
まとめ
かたちのある無しにかかわらず、人が何らかの理想や目的を果たすために築いたものごとをデザインととらえ、多様なプロモーションを通じてデザインにできることを広げることがデザインプロモーションであり、行う上で最も大切なことは「明るく・楽しく。希望を伝えること」です。
講義を終えて
デザイナーとお客さん(クライアント)との対話においても、制作物を受け取るユーザーにおいてもデザインの伝え方は問題になりやすいところです。この講義シリーズは全50回ありますが、この回が一番「今までデザインに触れてこなかった方々」に伝わるデザインの話になる気がします。
専門的なデザイナーとお客さんとの関わりの本で以下を挙げつつ……
では!
書籍代となります!