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デザイン思考とアート思考(再考)

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これまでnoteで執筆した「デザイン思考とアート思考(再考)」関連の記事を集めています。
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2022年8月の記事一覧

デザイナーと創作ビジョン

デザイナーと創作ビジョン

 本編⑯では、アーティストにとって必須とされる創作ビジョンの構築は、ほとんどのデザイナーにとってはあまり必要のないものである可能性について述べた。しかし、ここで「ほとんどの」と但し書きを付けたのは、例外が存在する可能性があるからである。特に作家性の強い一部のスターデザイナーには、そのような傾向が見て取れる。

 例えば、ルイジ・コラーニ(Colani, L.)氏やシド・ミード(Mead, S.)

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デザイン思考と起業行動 PARTⅣ

デザイン思考と起業行動 PARTⅣ

 前回はデザイン思考の概念拡張に伴い、その理論的な性格も従来の問題解決から学習プロセスへと変質する可能性があることを述べた。ただ、先行研究の中には、狭義のデザイン思考をイノベーションのプロセスに埋め込むことで、それを学習プロセスに変換することができると主張するものもある。Backman and Barry(2007)は、デザインと学習は共に「経験」を鍵概念とし、親和性が高いと述べている。また、デザ

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デザイン思考と起業行動 PARTⅢ

デザイン思考と起業行動 PARTⅢ

 前回述べたように、狭義のデザイン思考とリーン・スタートアップやアジャイル開発はそれぞれ考え方の一部分を共有するものの、基本的には別物として捉えることができる。そのため、Dell’Era, Magistretti, Cautela, Verganti and Zurlo(2016)が行ったように、それらを足し合わせることは形式的には可能なように思われる。彼らは、狭義のデザイン思考にリーン・スタート

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デザイン思考と起業行動 PARTⅡ

デザイン思考と起業行動 PARTⅡ

 前回述べたように、欧州勢の先行研究にいうスプリント(以下、広義のデザイン思考とする)とは、創造的な問題解決(以下、狭義のデザイン思考とする)にリーン・スタートアップやアジャイル開発などの考え方が足し合わされた拡張された概念であるが、そもそも狭義のデザイン思考と、リーン・スタートアップやアジャイル開発との関係はどのようなものなのであろうか。先行研究には様々な見解が見られる一方で、それらの関係性につ

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デザイン思考と起業行動 PARTⅠ

デザイン思考と起業行動 PARTⅠ

 今回からは起業行動との関係について考えてみたい。本編⑧のところで述べたように、欧州ではデザイン思考にはスプリントの実行が含まれるとする論調があるが、そのような理解の仕方は本当に正しいのであろうか。

 ここでいうスプリントとは、短い期間内に高速でアイデアの実証や実験を繰り返して開発を加速させ、新しいソリューションを迅速かつ効率的に市場に投入することで、不確実性に対処しようとするアプローチのことで

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