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【読書記録】日の名残り/カズオイシグロ

本のこと

日の名残り

カズオイシグロ

ハヤカワepi文庫

カズオ・イシグロ/Kazuo Ishiguro
1954年11月8日長崎生まれ。

1960年、5歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。

その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イーストアングリア大学大学院で創作を学ぶ。

1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。2017年にはノーベル文学賞を受賞。2018年に日本の旭日重光章を受章し、2019年には英王室よりナイトの爵位を授与された。

ほかの作品に、長篇『充たされざる者』(1995)、『わたしたちが孤児だったころ』(2000)、『わたしを離さないで』(2005)、『忘れられた巨人』(2015)、短篇集に『夜想曲集』(2009)、ノーベル文学賞受賞記念講演『特急二十世紀の夜と、いくつかの小さなブレークスルー』(2017)がある(以上、すべて早川書房刊)。

2021年発表の『クララとお日さま』は、6年ぶりの新作長篇でノーベル賞受賞第一作にあたる。

https://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E3%81%AE%E5%90%8D%E6%AE%8B%E3%82%8A-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AFepi%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%82%AA-%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%82%B0%E3%83%AD/dp/4151200037

印象的な言葉

旅が始まったかどうかもわからないうちに最上のものを見てしまっては、竜頭蛇尾ということになりかねません。

p37

序盤、旅が始まったばかりのときの言葉。
旅をしているときはアレコレと目移りしてしまうけれど、全体を通して見てみると、「これ最後に持ってくれば良かったなあ…」と思うこともあったりします。
スティーブンスは旅を楽しむ気なんだな、と微笑ましくなった言葉。

偉大な執事は、紳士がスーツを着るように執事職を身にまといます。公衆の面前でそれを脱ぎ捨てるような真似は、たとえごろつき相手でも、どんな苦境に陥ったときでも、絶対にいたしません。それを脱ぐのは、みずから脱ごうと思ったとき以外にはなく、それは自分が完全に一人だけのときにかぎられます。まさに品格の問題なのです。

p61

スティーブンスの「品格」に対する考え方。
本書を通して語られる一つのテーマが、品格。
仕事へのこだわりを感じます。
また、古き良きイギリスの紳士がこうあったのだろうとも思わせてくれます。
自分は仕事に対してここまで突き詰めて取り組んでいないな、と思った言葉でした。

父はまだ手を見ていました。自分の手に、何やら腹を立てているようにも見えました。

p140

スティーブンスの父が、衰えていく自分を受け入れられないのかも、という描写。
「引き際が大事」と色んな場面で聞きますが、実際にその時がきたら、上手く引けるんだろうか?
そんなことを考えました。
「俺はまだやれるのに」とか思ってしまいそう。

より良い世界の創造に微力を尽くしたい

p166

スティーブンスの仕事に対しての考え方。
自分の仕事で、少しでも世界が良くなったり、誰かが喜んでくれる。
そんなことを実感できたら、仕事は楽しいものになるはずです。
私はそんな風に考えていて、この言葉には共感できました。

「転機」とは、たしかにあるものかもしれません。しかし、振り返ってみて初めて、それとわかるもののようでもあります。いま思い返してみれば、あの瞬間もこの瞬間も、たしかに人生を決定づける重大な一瞬だったように見えます。しかし、当時はそんなこととはつゆ思わなかったのです。

p255

とても共感した言葉。
最近仕事で転機を迎えましたが、思い返せば「あの時のアレが」というのがたくさんあります。
そのときは必死で目の前のことに打ち込んでいましたが、結果的には、それが自分を思いもよらないところに運んでくれている気がします。

何かが時代遅れになっても、この国では気づくのが遅すぎる。ほかの偉大な国々を見てみるといい。新しい時代の挑戦を受けて立つには、古い方法を投げ捨てねばならん。

p285

会社経営をイメージして読みました。
最近は本当に世の中が目まぐるしく変わっていて、すぐにブームが生まれては去ります。
古いやりかたにこだわっていてはいけません。

執事の任務は、ご主人様によいサービスを提供することであって、国家の大問題に首を突っ込むことではありません。この基本を忘れてはなりますまい。国家の大問題は、常に私どもの理解を超えたところにあります。大問題を理解できない私どもが、それでもこの世に自分の足跡を残そうとしたらどうすればよいか・・・?自分の領分に属する事柄に全力を集中することです。

p288

自分が置かれた場所で全力を尽くす。
私が仕事てま大切にしていることのひとつです。
だからこのスティーブンスの言葉にはとても共感しました。
それぞれの立場で、仕事への考え方はちがいます。
だから、みんながそれぞれの場所で全力を出すことが、よりよい社会にしていくことになります。

どうあがいても、私のサービスは昔の水準には遠く及びません。過ちばかりがふえていきます。いまのところは、幸いなことに些細な過ちですんでおりますが、昔の私には考えられなかったことでございます。それが何を意味しているかも、私にはわかっております。いくら努力しても無駄なのです。ふりしぼろうにも、私にはもう力が残っておりません。私にはダーリントン卿がすべてでございました。

p349

倒れた父と同じように、スティーブンスにも引き際が来てしまいます。
自分の人生、仕事を振り返るスティーブンスのこの言葉に、胸がギュッとなりました。

人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんびりするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ。

p350

夕方。
なんとなく、この言葉は本書の中では、人生の後半、という意味で読めました。
それまで必死で走ってきて、至らないことや、後悔もある。
けど、それでもまだ続く人生の楽しみを見つけて前向きに生きる。
そんな風になれたらと考えていました。

感想

自分の仕事に誇りを持ち、全力を投じて、少しでも世界をよくしたいと願う、スティーブンスの生き方に感動しました。

人生を仕事に捧げるというのは、周りから見ればなんだかかっこよく見えます。

しかしそうして走り切った後に、何が残るんだろう?

満足感を得るためには、どんな走り方をしたらいいんだろう?

そんなことを考えました。

スティーブンスは、最後に自分の人生を振り返って、夕方の桟橋で涙を流しました。

それでもその後、また別の楽しみに向けて、前向きに考え始めます。

人生を一日に表すなら、35歳の私は今、昼間かもしれません。

自分の人生も、いい「夕方」を迎えられるだろうか?

そうなるように、一所懸命に生きていきたいと思います。



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