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#2 公共事業の公共性

公共事業

「公共事業」と聞いて、どのようなイメージを抱くだろうか。
騒音、渋滞、無駄、癒着など悪い印象を抱く人がいるかもしれない。
山梨県の公共工事発注額は平成初期がピークであり、その後減少傾向にあったが、近年、ゲリラ豪雨や大雪などの自然災害や笹子トンネルの崩落事故のような老朽化を原因とする事故の多発により、公共事業の公共性たる部分に改めて焦点が当たる中で、国では国土強靭化を図るため令和3~7年度にかけて大規模地震への備えや老朽化対策に15兆円もの予算を配分する予定である。

こうした公共事業を取り巻く環境が変化する中で、今回は「公共事業の公共性」をテーマにサロンを開催した。

第2回地元企業の魅力発見サロン日時:令和4年7月4日(月) 18時~
場所:studio pellet(山梨県甲府市上石田3丁目8−6)
ゲスト:丸浜舗道株式会社 代表取締役社長 小林 育也 氏
聞き手:山梨県中小企業家同友会 理事 笹本 貴之 氏
    公益財団法人山梨総合研究所 調査研究部長 佐藤 文昭

第2回地元企業の魅力発見サロンの様子 @studio pellet

昭和4年に創業した丸浜舗道㈱は、道路のアスファルト舗装をメインに手掛ける会社である。また、同グループの出羽建設㈱ではトンネル工事などの土木工事、丸浜興業㈱では、舗装のためのアスファルト合材の製造や販売を行っている。

舗道工事現場(丸浜舗道提供)
昭和時代の様子(丸浜舗道提供)


「結構ね、知らない間にやってるっていうような仕事がうちは多いかもしれないね。」

と代表取締役の小林氏は語る。舗装工事は、交通量が少ない夜間に実施されることが多い。
そこで、国道の夜間作業の様子を、同社オペレーターのヘルメットにGoProをつけ、撮影いただいた。

舗道工事現場(丸浜舗道提供)上記動画切り取り画像


ところで、「公共事業」というと、皆さんはどのような印象を抱くのであろうか

サロンの参加者に聞いてみたところ、「社会インフラの整備」、「必要性が世の中の人に伝わっていない」、「年末に予算を使い切らなきゃいけない」、「本当に必要な工事なのか考える機会が必要」などといった様々な意見を頂いた。また、最近では、官製談合などのニュースが取り沙汰される一方で、一生懸命真面目にやっている会社のことが知られにくいということを、小林氏は感じている。


公共工事の減少

国土交通省の公共工事のデータによると、公共工事の発注額は、バブルがはじけた平成初期がピークだった。

公共工事の効果はとても裾野が広い。たとえば、建設工事では元請業者を通じて、多くの関連業者など社会全体にお金を広く行き渡らせる効果があるため、政府はバブル崩壊後の数年間に多くの公共事業を発注し、景気を回復させる思惑があったと思われる。 ただ、結局景気は回復せず、公共工事の発注量もしだいに減少していく中で、建設業者が淘汰されていったという。

実際のところ、山梨県内の公共工事の発注は、平成7年に件数が6千件弱、金額が約1700億円あったが、近年は金額が500億円ぐらいに激減している。

このような時代の中で、丸浜舗道もバブル崩壊後の企業の存続をかけて、環境関係のビジネスやパラオの舗装工事、規格住宅やガーデニング事業などを専門とする舗装工事以外の様々なビジネスを手掛けてきた。

しかし、ストリートプリント工法という舗装に色をつけて模様をつける工法を取り入れたり、ATTAC工法という浸透性の舗装工法などを手掛けるなど、最終的に同社が最も得意とする舗装工事やその周辺事業へと原点回帰してきた。

ストリートプリント工法@甲府市中心街の錦通(丸浜舗道提供)
ATTAC工法@武田の杜(丸浜舗道提供)



自然災害やインフラの老朽化

近年、千曲川の堤防決壊などの自然災害が多発したり、笹子トンネルの崩落事故などの社会インフラの老朽化問題が顕著に表れてきた
こうした状況は土木業界にとって転機となった。国の国土強靭化政策は五か年計画で、風水害や大規模地震などへの対応で12.3兆円、予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策で2.7兆円、合わせて15兆円もの予算が配分される。平成初期は経済的な波及効果への期待という側面が強かった公共工事であったが、近年においてはその本来の目的であるインフラ整備の必要性という面が見直されてきている

その中で、同社もインフラの老朽化への対応のみならず、自然災害時には、土砂・がれきの撤去や除雪作業などを行う他、備えとして防災倉庫への備蓄や災害時トイレの常備、防災組織による訓練などに建設業界の一員として取り組んでいる。

(左上)備蓄倉庫、(右上)災害時トイレ、(下)災害想定訓練 (丸浜舗道提供)

こうした備えは、日本中どの建設業協会も組織として取り組んでおり、いざ災害が発生すると、各社に割り当てられた役割に従って行動することとなっている。
 
「こういうのは皆さん知らないもんね。災害時は消防隊やレスキュー隊、警察車両がみんなで誰か助けてますって報道されるじゃないですか。実はあの後ろにユンボが見えたりするじゃないですか。がれきを撤去してるのは建設業界ですからね。」
 
例えば、平成26年の大雪時の除雪作業の際には、同社の割り当てである甲府市川大門線や甲府玉穂中道線、環状道路の除雪を、重機が置かれた施設に雑魚寝しながら毎日毎日一生懸命行った。

除雪作業(丸浜舗道提供)
 重機が置かれた施設でのひととき(丸浜舗道提供)

すると、SNSを通じて住民の方から、

「大変ですね!よろしくお願いします。」
「さすがですね、地域貢献宜しくお願いします。」
「ありがとうございます!」
「お疲れ様でございますm(__)m 小林さんもくれぐれもお気をつけて!!!」
「みんなのヒーローね!」
「現代の交通は、やはり日々の皆さんの業務によって支えられていることを改めて痛感します。」

といった感謝の言葉が山のように届いた。 

「こんなことは、いままで仕事をしてて言われたことがなかったから、もう本当に嬉しくて、これほど役に立ってるんだって感じたことはないです。社員にも、みんな頑張ったことが報われているんだよって伝えました。」

「地域とともにうちの会社がある」「地域の皆さんのお役に立ってなんぼなんだ」という、地域との結びつきがいかに同社にとって、大きな柱になっているのかを強く感じた出来事だったと振り返る。

小林育也氏@studio pellet

公共事業の原点

また、同社グループの出羽建設(株)では、身延町の山の上にある墓地までの道を住民の寄付などを頼りに長年かけて整備し、行政の手が行き届かない地域のニーズに応える道造りも担ったことがある

身延町大炊平地区(旧下部町)では、高齢化が進む限界集落の山の上に墓地があるが、そこまで車で行ける道がない。昭和54年ほどから行政に道路整備をお願いしていたが、墓地に行くだけの道に税金は使えないとの判断であった。

そこで、地区の住民が少しずつお金を出し合い、地元業者の出羽建設にお願いし、同社の寄付も含みつつ、40年以上かけて、ついに大炊平線(墓地道整備事業)のコンクリート舗装が令和3年11月6日に開通した。完成式では、表彰状をいただき、感動したという。

大炊平線開通記念冊子(丸浜舗道提供)
道路完成式(丸浜舗道提供)

「公共工事の原点ってこれだったんだよね。結局、道を整備するのに自分たちでお金を出して、道を均すのが得意な人とかが、じゃあ俺がやるよとか言って、みんなも手伝えしみたいな。そういう原点がここにあったのかなって思いました。 」

サロンの参加者からも、
「道路整備に困ってる地域は、県内に多くあると思うが、中山間地域だから、行政も業者さんにお願いして道を作るというより、事業者さんが関わって材料支給で地域内外の人を巻き込みながら道造りのワークショップをやってみるという新しい道の作り方というのは、都会の経営とは違う面白い取り組みだったり、それを通じて会社が地域に浸透することが起こるのではないか」
といった意見もあった。 


建設業の人が持つ”DNA”

 「いただいた税金で山梨のインフラを整備できることに誇りを持っている。誰かの役に立ち、喜んでくれることを感じられる仕事だからこそ、災害や老朽化から生命・財産を守るんだという“DNA”を、建設業の人は持っている。」
と小林氏は話す。

小林育也氏@studio pellet

ある参加者から、こんなコメントを頂いた。
税金制度を使って公共事業をやることに利便性はある。ただ、その分、国や行政のものさしのように感じるため、地域性をあまり感じられない一方で大雪が降るとか、地震が起こるとか、お互いが助け合うなかで、自分たちが同じ地域に住んでいるんだ、といった感覚が出てきた時に、地域のものさしが出てくるのではないか
道路に雪が降って、それを除雪するという不便な状況が生まれると連帯感が出て、地域のものさしを考え始める。例えば、工事で迷惑かけたら目立つ。だけど、迷惑かけないように夜やったり、知らないところで目立たないようにそっと舗装を直しておく。それも一つの美学なのかもしれないし、目立たないところに意味がある。しかし、こうした私たちには分からない専門のものさしを、みんなに分かるようにしていくことで、公共事業がもっと身近になっていくのではないか」との参加者からの意見もあった。

公共工事の業界と日々の私たちの暮らしに共通するものさしを見つける必要があり、今回のサロンを通じてそれが見えてきた気がする。

編集後記

地域における公共事業は、地元住民が多く従事し、地域で生産される地場産業という経済性の側面を持つとともに、広く私たちの生活を支える公共性のあるものであるが、整備がされていて当たり前のような生活を送るなかでは、災害が発生しないと気づきにくい。
それゆえ、冒頭に述べた負のイメージを公共事業に抱くのだろう。公共事業について、地域住民・行政・建設業界等で考える機会があれば、より身近に感じられるかもしれない。そして、公共工事に携わる人々の“地域を守る”という想いを込めたDNAをつなぐ地場産業があるからこそ、私たちが生活できていることを忘れてならない。
 


次回の地元企業の魅力発見サロンは8月8日。ゲストは(株)DEPOT宮川史織氏。詳細は山梨総合研究所HP(https://www.yafo.or.jp/)まで。

(執筆:山梨総合研究所 主任研究員 廣瀬友幸)


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