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【イベントレポート】monopo session vol.22 「インハウスのアートディレクション」- サイバーエージェント 有吉 学さん-

11月29日(火)に開催されたmonopo session vol.22の様子をお届けいたします。今回のSENPAIは、サイバーエージェントの有吉学さん。ABEMA CREATIVE CENTER(ACC)に所属し、ABEMAの番組やサイバーエージェント全社に関わるクリエイティブをご担当されています。
有吉さんに、インハウスのアートディレクターが普段どのようにアートディレクションをしているのか教えていただきました。

monopo sessionとは、社内外の「SENSEI/SENPAI」をお迎えし、プロジェクトの裏側を深ぼりしながらプランニングやクリエイティブについて学ぶトークセッションです。実際のプロジェクトをもとにお話を伺う関係上、非公開のイベントとなります。そのためこちらの記事でも、一部を抜粋してお届け。「もっと知りたい!」と思っていただけた際には、ぜひご参加をお待ちしております!
(告知はTwitterFacebookにて行っております。ぜひフォローをお願いします。)

SENPAIのご紹介

有吉 学 サイバーエージェント|Art Director
1988年、福岡県北九州市生まれ。多摩美術大学大学院 情報デザイン領域卒。株式会社エウレカでWebデザイナーを経て、AID-DCC、その後現在はサイバーエージェントでABEMAの番組のアートディレクションやAbemaのブランディングに従事。カンヌライオンズ、Spikes Asia、One Show、ACC、Awwwards、CSS Design Awards、グッドデザイン賞など受賞。
Podcastが好きで、Rebuild.fmをよく聴いている。

モデレーター紹介

山口 央 monopo|Art Director
2022年よりmonopoにjoin。広告制作会社での経験を活かし、Webやブランディングを中心にmonopoのアートディレクションを担う。
音楽と炭水化物が大好き。週末は二日酔い。趣味で日刊タイポという活動をしている。

宮川 涼 monopo|Creative Director / Engineer
ブランドとユーザーをつなぐコミュニケーションの企画から、クラフト、世の中にどう広げるかまで、横断的にディレクション・制作をしている。 漫画・映画・音楽・テレビ・ラジオがめちゃくちゃ好き。

全社の仕事もABEMAの仕事も手がける

有吉さんはサイバーエージェント全社の仕事も、ABEMAの番組関連の仕事も両方手がけられています。
その全体像や両者の違いなどについてまずお話しいただきました。

有吉さん:「サイバーエージェントの仕事は、目的を設定するところから始まります。それからデザインの方向性を議論して幹部に提案し、決まらなかったらまたブレストするというのを繰り返します。クリエイティブが定まらない時は目的の設定から見直すこともあります。
ABEMAの仕事では、常に『番組の最大化』のためにチームで議論しながら進めます。番組のプロデューサーからオリエンを受ける時点で目的が明確に決まっていて、それを実現するためのクリエイティブを提案して制作に入っていくということもあるし、目的がまだ抽象的で曖昧な状態な場合はそこを詰めるところから始めることもあります。」

有吉さん:「全社でもABEMAでも、上流のコンセプトをゼロから考えるパターンと、戦術の要素を既にもらっているパターンがあります。どちらも制作に入る前の段階からアートディレクター(以下AD)がフロントのコミュニケーションを担うのですが、これはインハウスに入ってクライアントワークの仕事の仕方と違うなと思ったところですね。ビジネス職の人たちとやりとりしていくために共通言語を使ってフラットに会話していく必要があります。
サイバーエージェントには独自の言葉がたくさんあるのは、シンプルに会話のスピードを高めるためというのもありますが、組織のエンゲージメントを高めてインナーの力を強くし最終的に事業を伸ばしていくためなのもあるのかなと感じています。こういう社内の盛り上がりがサイバーエージェントのいいところなのかなと。」

Case1 「CyberAgent Developer Conference 2022」

続いて、今までに有吉さんが手がけられた事例をご紹介いただきました。
1つ目はサイバーエージェントのカンファレンス「CyberAgent Developer Conference 2022」についてです。

CyberAgent Developer Conference 2022
 AmebaやABEMAなどの代表的なメディアサービス、ゲーム開発の裏側やブランディングの取り組み、FlutterやKubernetesなど各技術分野のエキスパートによるセッション、機械学習分野での研究テーマなど多岐にわたるさまざまなセッションをお送りするオンラインカンファレンス。
 
Webサイト
YouTube

有吉さん:「カンファレンスの目的は、『日本のクリエイティブをリードするIT企業であることの認知向上+中途採用の強化』でした。これを受けてクリエイティブの目標としては、"サイバーイケてる"という印象を持ってもらい、カンファレンス自体を観てもらうことやSNS等で拡散してもらうなどの行動を促すことでした。」

クリエイティブの範囲は、Webサイト、カンファレンスで流す映像とサムネイル画像、登壇者のステージや背景画像など、多岐に渡ったそうです。
外部パートナーとして、maxillaさんや有吉さんの前職仲間も含めたチームビルディングを行ったとのこと。

有吉さん:「全体的なデザインのトーンは弊社で作ったのですが、今回音楽にも力を入れたくて音楽に強いmaxillaさんに映像周りをお願いしました。
Webサイトなどメインビジュアルに使用した緑のキューブの3DCGは前職の仲間に作ってもらいました。短納期だったのと難易度の高いものだったので、意思疎通を測りやすいメンバーとでないと難しいなと思ったんです。」

一目でサイバーエージェントのカンファレンスだとわかるように、
ブランドイメージとして浸透しているロゴに起因したビジュアルに

有吉さん:「カンファレンスって、どこの会社がやってるんだっけ?何を伝えたいんだっけ?という状態になりがちなので、今回はカンファレンスの目的とコンセプトをブレずにビジュアルに落としていくことをしっかりやろうと心がけていました。
社内外含めたチーム一体となって、上流のコンセプトメイクからVI(Visual Identity)まで作り上げていけることがインハウスの楽しさだなと実感したプロジェクトでした。」

Case2 「Purpose浸透施策」

次にご紹介いただいたのは、こちらも全社プロジェクトの「Purpose浸透施策」についてです。
Purposeを社員に浸透させるためにクリエイティブでどのように解決するか、企画から形になるまでを教えていただきました。

サイバーエージェントのPurpose
https://www.cyberagent.co.jp/corporate/purpose/

有吉さん:「2021年10月に新たに作られたPurposeを、社員が日頃意識できていないという課題がありました。まずはどうなったら『浸透している』と言えるのかを定義し、どうしたら浸透するのかを考え方向性を決めました。一発花火で終わらせたくないと思い、社員がオフィス内で日常的にPurposeに触れる機会を創出し、認知を向上させようと考えました。」

実際に常設されることになったオフィスエントランスのサイネージ

有吉さん:「公園の噴水のような、ストレスにならないレベルで接触させるものにしたかったんです。サイネージにはPurposeだけではなく、時刻やオリジナルキャラクターのアベマくんが時々表示されます。背景色が天気や時間に合わせて変わったり、ロゴとPurposeの文字の影が時間によって方向が変わったりもするんですよ。」

有吉さん:「事業会社の人たちって会社の未来のことまですごく考えているんですよね。クライアントワークの仕事と違って納品して終わりではなくて、会社やブランドがどうなっていくかのロードマップがあるんです。オリエンを聞くとクライアントワーク時代の考え方が出てきて、制約の中でできるPurpose浸透に特化した提案をしていたと思いますが、社内のさまざまな立場の人たちと話していく中で視野が広がってすごく学びになりました。
そういう意味でこのサイネージは今後も変わっていく、余白を持たせるクリエイティブになったと思います。」

宮川さん:「そういう視点は僕らも持った方がいいよね。納品して終わりじゃないとか、未来を見据えるとか。」

有吉さん:「最近はクライアントワークしている会社もそういう傾向もありますよね。インハウスとの境目はなくなってきたなと思います。」

Case3 「将棋|ABEMAトーナメント」

最後は、ABEMAのお仕事の事例で、「ABEMAトーナメント(将棋)第5回」のクリエイティブについてご紹介いただきました。

有吉さん:「ABEMAのビジョンは『新しい未来のテレビ』なんですが、これに基づき番組の方針も『新しい価値を創造する』番組と、『既存の価値をアップデートする』番組の2つに分かれます。今日ご紹介するABEMAトーナメントは、既存の価値をアップデートするものになります。
クリエイティブの方針は、第4回で優勝した藤井聡太さんを中心に、主に将棋に興味を持ち始めたライトユーザー向けに新しくわかりやすいビジュアルを作ろうということになりました。藤井さんは既に話題になっていた方だったのでそのまま採用してもつまらないと思い、プロデューサーと議論して『藤井竜王をスタイリングして見せてみよう』と決めてこのようなビジュアルになりました。」

有吉さん:「これは結構反響があって、『藤井聡太さん、芥川龍之介っぽくなる』と2ちゃんねるやTwitterで話題になったり、メディアに取り上げられたりもしました。
僕の所属するACC(Abema Creative Center)では、プロデューサーからオリエンをもらった後に、課題・目的・ターゲットを整理してクリエイティブブリーフのような簡単なビジュアルを作っていきます。最終的な成果物ができた後にそのブリーフをベースに達成できていたかどうかを振り返ります。それがKey Resultとなるのでブリーフはしっかり作るようにしています。」

宮川さん:「いいですね。すぐパクりましょう(笑)。」

有吉さん:「番組のクリエイティブには、短期と長期両方の目線が求められるんですよね。広告だと短期か長期どちらかの設定でよかったりするんですけど。番組だと、まず視聴率を伸ばさなきゃいけないので短期で成果を出す必要があるんですが、番組の今までの流れと現在地を理解して、時流に乗せたクリエイティブで半歩先のアートワークに仕上げていくということも大事だと思っています。」

社内と世の中の接着点を作るのがADの役割

後半にはmonopoのアートディレクター山口さんからいくつか質問があり、有吉さんにお答えいただきました。

山口さん:「今までインハウスのイメージって、できる表現の範囲が狭められてしまうイメージだったんですけど、今日お話聞いたらむしろ広がるというか、無限の可能性があるなと感じました。有吉さんが、今、インハウスだからこそできる、やりたいと企んでいることは何かありますか。」

有吉さん:「番組提案コンペをやってみたいですね。プロデューサーではない人が番組を作ってみたらどうなるかを試してみたいです。エンターテイメントにアートディレクターやデザイナーがコミットしていくのって新しいかなって思って。
例えば今年デビューした韓国のアイドルグループ『NewJeans』のプロデューサーは、アートディレクターなんですよ。その人が作る曲やアートワークがアートディレクターが作るものだなって感じで、アートディレクションが好きな人にぶっ刺さるなと思いました。同じようなことを番組でもやってみたらどうなるかなって。
あとは僕Podcastが好きなのでPodcastを作りたいですね。」

山口さん:「社内でやりとりするのに苦労したエピソードは何かありますか。」

有吉さん:「フロント業務をアートディレクター自らがやらなきゃならないので、プロデューサーや宣伝、広報などビジネス職の人たちと会話する時に共通言語が全然違うのはやはり大変ですね。クリエイティブの専門用語や曖昧な言葉を使わないようにしています。ちょっと齟齬が出てきたなと思ったらすぐミーティングさせてくださいって言って、なるべく擦り合わせるようにしています。
あとは、社内と世の中の接着点を作るのが自分の役割かなと思っています。それぞれの専門領域において、例えば番組を作っている人は『これって面白いのかな』とか、宣伝を考えている人は『これで本当に人に響くのかな』とかわからなくなってきてしまうと思うんです。僕は外から来た人間だし、なるべく客観的な目線を持って社内の皆さんに意見を伝えていくというのをやっていますね。」

宮川さん:「それは僕らクライアントワークもそうかもね。クライアントがここが強みや推しだって言ってても、僕らが社会やユーザーの目線になって『いや、一般的に見るとそうでもないですよ。もっとこっちから伝えていきましょう』って言うこともある。」

幅広い事業を手掛けるサイバーエージェントのクリエイティブ全般を担うお仕事は大変そうですが、社内の各部署の専門家と一緒に作り上げる楽しさを今日のお話から感じました。クライアントワークの経験がインハウスとしても活かせることも具体的にわかりました。
有吉さん、ありがとうございました!

monopo sessionは毎月開催を予定しております。
詳細はTwitterFacebookにて。フォローをお待ちしています!

執筆:石原 杏奈 freelance PR(@anna_ishr
撮影:馬場雄介 Beyond the Lenz(@yusukebaba


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