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Y2Kファッションとは? くわしく考察してみる【2】

目次

  1. Y2Kの言葉の由来

  2. Y2Kで定義されるスタイルとは

  3. Y2K≠2000sファッション?

  4. リバイバルしたY2Kファッション(ネオY2K)

  5. ファッションサイクルからトレンド予測

Y2K≠2000sファッション?

前回の記事で、Y2KというIT用語をある一定の特徴を有するファッションを含むポップカルチャー(海外ではaesthetics)を指す言葉として提案したY2K Aesthetic Instituteの定義とそこから想定されるY2Kスタイルのファッションについて触れたのですが、実際に今流行していると感じられるものはもっと広義な感じがします。

Y2Kファッションとは? くわしく考察してみる【1】

ちなみにグーグルトレンドでざっくり検索してみると欧米では2019年から、日本では2022年から一気にY2Kという言葉が検索されているようです。

また、急激増加の関連キーワードをみてみるとほぼ、ファッション関連ということも読み取れました。以下の記事でもY2Kというとファッションがメインの話題と認識されてるようすが見受けられます。
再発見!! 「Y2Kデザイン」に気をつけろ

今現在、Y2KはY2Kバグよりも、Y2K Aesthetic Instituteが定義したY2Kスタイルよりも、大雑把な2000年代スタイルのファッション、として捉えられているようです。

ちなみに2000年代ファッションをY2Kと称する以前では、2000年代はaughtsやnoughtiesと表現されていました。
17 noughties trends you don’t want to come back into fashion
The 50 Craziest, Most Cringe-Worthy Outfits Celebrities Wore In The Early 2000s
どちらも今から見た2010年前後頃のトレンドのように、これはもう復活することはない、ひどいファッショントレンドだった、というような論調の記事です。2010年代後半まではこういうムード感だったことを考えると、2000年代ファッションの振り返りはまだ始まったばかりという感じがしますね。


ではなぜ、前回記事でみていったY2K Aesthetic Instituteが定義したY2Kスタイルとは微妙に異なり、よりざっくりとした2000年代のファッションとして広まってしまったのか?さまざまなトピックに触れてみていきたいと思います。

・ファッションに関して、Y2K特有のスタイルといえるものはあまりない
いきなり否定、かつ前回Y2Kファッションで挙げられそうなものを提示しておいてあれなのですが…

(1)ミニマルスポーティー、未来的でシンプル、比較的普及したスタイル
(2)ストリートや音楽・ゲームカルチャー由来のサイバーパンクスタイル

上記のような、2パターンが大きく考えられるかな、と挙げましたが、
(1)に関しては2010年代を通して90sリバイバルの一種としてすでにY2Kの言葉を介さずに流行していたともいえるし、(2)に関してはよりマニアックでマス的に普及したスタイルとは言いにくい側面が強い+単に90sサイバーパンクとして独立して指し示すことができそう(日本ならばシノラーなんかも内包しそう、FRUiTSストリートスナップの世界観)
→となるとY2Kとして新たに提示できるスタイルってかなり限定的になるのでは?、と。
デバイスポケットやジップによって袖やパンツの丈を変えられるあしらいなどのユーティリティ系のデザイン、タクティカルなモチーフなんかはY2K的といえるかなぁ…くらい?(この年代以外ではそこまで人気の意匠にみえないため)

・Y2Kはファッションスタイルを指す言葉としては実は向かない?
上記のようにY2Kはファッションで捉えるよりも、どちらかというとそのテーマと親和性の高い、プロダクトや建築・インテリアなどの商業デザインにより強い影響力をもったスタイルといえます。これらのカテゴリーでは2000年代を通して、後続のFrutiger Aeroと呼ばれるスタイルにもその要素が生き残っているとみれます。

Frutiger Aero / CARI | Consumer Aesthetics Research Institute
Frutiger Aero / Aesthetics Wiki
Y2KからFrutiger Aeroへ くわしく考察してみる
別記事にて書いてます。

事実Y2K Aesthetic Instituteが上げている具体例はプロダクトデザインや建築、グラフィックデザインが多数を占めています。
一方サイクルの早いファッションのカテゴリーにおいては、Y2Kスタイルのもつ先進性という側面が新鮮さを失い、2000年に突入するとほぼ上記で挙げたような要素もあまり推されなくなっていきます(=最新のトレンドとしてのかっこよさは薄れている)。

・Y2Kは90年代後半のトレンドの一種でしかない
Y2K Aesthetic Instituteの定義したY2Kスタイルは90年代後半から2000年代初めまでに特有のポップカルチャーの一種でしかなく、当たり前ですがその当時他の影響力をもったポップカルチャーのスタイルも存在していました。
よく混同されるスタイルとして、McBlingという2000年代の中心的なスタイルもY2K Aesthetic InstituteはY2Kとは別で定義しましたが、リル・キムなどの90年代ブラックカルチャーの中には既に見受けられるため、混在することはありえました。

McBling / CARI | Consumer Aesthetics Research Institute
McBling / Aesthetics Wiki
Y2Kとよく誤解されるMcBlingとは?
別記事でつくりました↑

Vogue US September 1998
Tumblrより
Lil Kim / The Notorious K.I.M.
Wikipediaより

リル・キムの2000年のアルバムジャケットはあからさまに想像にたやすい、今みて2000年(代)らしさ、を感じさせるものだが、このアルバムに収録されている曲の2000年制作のMVにはY2K的な要素もみられる(3DCGの使用方法、一部のビジュアル、ロゴフォント)。

Lil' Kim / How Many Licks? [Official Video]
Lil' Kim ft. Lil' Cease / Crush On You {Official Video}

こちらは1997年のMVですが、逆にあまりY2Kの要素は感じられません(先取りして2000年代的、ともいえませんが)。70年代ディスコリバイバルのMillennium Discoが近い?ちなみに90年代後半から00年代初め頃のリル・キムは現在のファッショナブルでハイパーフェミニンなフィーメールラッパーの先駆け的な存在とも言われていて、McBling的なアイコンととらえられそうです。

・2000sスタイルの取り入れやすさと印象の強さ
上記のように90sリバイバルの拡張もしくはより限定的な側面のあったY2K Aesthetic Institute本来のY2Kスタイルに比べて、よりファッションフォーカスなMcBlingスタイル(=2000sファッション)は完全に目新しい、もしくは世代によっては懐かしくも思い出したくない黒歴史的時代だったため、ビジュアルコミュニケーションを重視するSNSにおいてより目をひきつけてしまったがゆえにY2Kといっしょくたにされて広まったのでは、とも考えられます。

右 : Vogue / Paris Hilton Remains the Ultimate Aughts Muse
右 : The FACE / FRUiTS: a look-back at the greatest Japanese street style hits

Y2Kの印象に強く残るスタイルはほぼ90sサイバーパンクのため、上記で書いた通り万人が日常的に取り入れやすいスタイルではないのに対し、ラグジュアリーなアイテムをカジュアルダウンしてセクシー&ワイルドに着こなすスタイルは比較的挑戦しやすい、そしてこれみよがしにフェミニンでセックスアピールするスタイルが回帰してきた流れからもMcBling的感性が好まれているようにみえます。

・Y2Kの名称のややこしさ
本質的にはY2Kという表記自体は、2000年問題を指す言葉だったので、2000年を迎えるまで、という側面が強かったのですが、この表記のややこしさゆえに定義されたスタイルへの理解や認知の差や誤解などを通して2000sリバイバルをY2Kと称してSNSに投稿する例が普及してしまったというのが一番大きそうです。それに加え、2000sファッションリバイバル、よりもY2Kという表記が一見わからないが説明されればすぐに理解ができるという、ビジネス・マーケティング的にも非常に使いやすい見た目をしていたことも2000sファッション=Y2Kファッションとして広まってしまった所以かな、と。
またその一方2000sファッションの特徴を示すMcBlingという言葉が直感的に感じにくい(特に日本では)、というのもあるのかもしれません。

・Y2Kを2000年代ファッションとして使いたい層もいる
海外でも本来のY2Kが指し示すスタイルと2000sファッションが異なっていることを理解しながらも、あくまで2000sという意味でY2Kという言葉を使いたい層もSNS上ではそれなりに見受けられました。
HYPERFEMININITY ISN’T A TREND — IT’S A MOVEMENT
考察: ダサい服に惹かれるのはなぜ?
そういう意味では、近年使用されているY2Kという言葉には3~4年ほどの歴史が海外の場合ありますが、まだ上記でも触れたようにビジネス的に有用だと思われているのかな、とも思えました。
そういった場合、Y2Kを2000年代ファッションを宣伝する言葉として積極的に使用するため、目にする機会も増えてそれで理解してしまう人も多くなると思います。

・トレンドイン/アウトの捉え方と誤解
その一方で、Y2Kファッション=2000sファッションという誤解した前提をもちつつ、現在回帰しているY2Kファッションは2000年代のファッションではない、と当時を知る世代からの意見もSNS上では見受けられます。特に2000年代後半のファッションは本来のY2KともリバイバルしたY2Kとも異なっているのでその感覚自体は納得がいきます。

そもそも、当時の記憶をもつ場合でも、10年以上前の記憶は平気で5年くらいのギャップをいっしょくたにしてしまうことも多いのではないかと思います。しかし実際は現在からみて2018年頃のトレンドが一緒ではないように、通常5年差あるとトレンドのムード感は移行しています。

非常に微妙な差に見える場合もあるし、そもそも提案されてから裾野の方まで波及するのにも場合によっては5~10年くらいはかかるので当時を知っている年代と一口に言ってもどういった世界を見ていたかで印象は異なると思います。

左上からMadonna / Rain [Official Video] Michael Jackson, Janet Jackson / Scream [Official Video] M2M / Everything You Do [Official Video] Blaque / 808 [Official Video] DREAM / He Loves U Not [Official Video] Eiffel 65 / Too Much Of Heaven [Official Video] IMx / Stay The Night [Official Video] O-Town / Liquid Dreams [Official Video] Will Smith / Men In Black [Official Video] George Michael / Fastlove [Official Video] *NSYNC / I Want You Back [Official Video] A*Teens / Upside Down [Official Video]
1992~2001年の間のY2Kビジュアルを含んだMV。細かいトレンドこそ1年で変化するがムードはある程度継続する。1995年をY2Kの核とするか2000年を核とするかで期間としては5年も空く。

・そもそも年代のひとまとまりの捉え方に差がある
ファッション関係者であっても必ずしも共通の時代感覚の区切りを持っているわけではないので、リバイバルファッションを考えるときにはそれぞれのみてきた世界や捉え方で区分が大きくずれるな、という印象があります。
Y2Kファッションといって、いつの時代のファッションリバイバルを意味するんだ?という捉え方についてどのようなパターンがあるかというと、

①90年代の流行として捉えている
グランジやヒップホップなどの音楽、スケートボードやバスケットボールなどのスポーツ、サブカルチャーを通したストリートファッションも含めてY2Kと捉えているパターン。
②2000年代の流行として捉えている
SNSを通してBimbocore/BarbiecoreとしてのMcBlingを2000年代を代表するファッションとして理解しているが、それを2000sを指す言葉としてY2Kと称している、または称したいパターン。把握していない場合、本来のY2Kが指し示していたスタイルのほうが違和感がある、と思っている可能性もあり。
③1995年~2005年頃の流行として捉えている
トレンドサイクル的に5年区切りのほうがしっくりくることが多いのでそういった意味で区切った場合この10年間をY2Kと称するパターン。実際にはほぼ本来のY2Kの指し示す期間を含んでいて、Mcbling的な側面も含まるので、広義でY2Kを捉えるなら一番多くの人との印象の乖離が少ないように思う。
④90年代後半から2000年代を通しての流行として捉えている
本来のY2Kの時期も含んでいるが、どちらかというと軸足が2000年代にあり、90年代後半と00年代後半は共通点がほとんど感じられないため、大きく捉えすぎのきらいがある。日本だとギャル文化として当時の現役世代が連続的に捉えるとこのパターンになりがちか?
⑤90年代から2000年代の流行として捉えている
ひとつ上よりもさらに大雑把に捉えたパターン。日本的な感性でいうと90年代前半にはすでにギャル的な側面は現れ始めているので、いわゆるギャル、的な文化全般をひとまとめにした場合にこのパターンになるかもしれない。

上記のようなパターンがあるかなぁ、と思います。

私個人の意見ですが、やはり本来のY2Kの要素をきちんと含んでいるところが重要だと思うので、本質的なムード感が変わってしまっている2000年代後半を含んでいるパターンはちょっと違和感があります。厳密にいえば2000年代にはトレンドとしての力をやや失いつつ存在している感があるので、90年代後半のビジュアルカルチャー一般に使うのが一番よいかなぁと。Y2KらしいITと近未来感、の要素を含んでいなくても、同時代としてのムード感という部分ではY2Kはややこしいですが90年代後半のスタイル一般といえます。



最近になって伝わってきた日本においては、90年代と00年代のファッショントレンドがいっしょくたになってしまっていることが多いです。ルーズソックスが2000年代に流行ったとしてY2Kファッションで取り上げられたり、2000年代のトレンドだった、と思っていて実は90年代のトレンドだった、というような例がけっこうあるなぁとSNSを眺めていて感じました。場合によっては、2000年代と思っていて90年代だった、という本来のY2Kスタイルのファッションに合致するという不思議なねじれ現象が起こったり。

2000年代後半の80sリバイバルと同様、リバイバルファッションの最初期は実際ごちゃ混ぜになるし、非常にシンボリックで限定的なイメージがビジネス目的で消費される傾向にあるため、今後はY2Kを含んだ90sリバイバルが浸透&深化、2000sファッションが新鮮な新潮流として着想&提案されるかなぁと思います。

私としては、前回記事で捉えたような特有のポップカルチャーを指し示す言葉があってほしいと感じるので、Y2Kと言わず、2000sリバイバルは2000sリバイバルと表記すればいいかなぁ、とは思ってしまいますが…


【3】では、ファッション関連の記事だと既に多く取り上げられていると思いますが、今現在、Y2Kファッションとして取り上げられているトピックについてやこれからさらにリバイバルの着想源になりそうな過去のトレンドについて書こうと思います。

ヘッダ画像:Y2K的なロゴフォントとMcBling(2000s)的なロゴフォント


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