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なぜ"無料のキャラメル"より"1円のキャラメル"の方が売れるのか?|社会規範と市場規範

学生が利用する売店でキャラメルを販売する際に

①1個1セント(約1円)という張り紙をした場合(有料条件)
②"無料"という張り紙をした場合(無料条件)

どちらの方がキャラメルを多く消費されたか?という実験があります。

皆さんはどちらの方が、キャラメルが多く消費されたと思われるでしょうか?

1.有料のキャラメルの方が売れる

"無料"ということは好きなだけキャラメルを持って行っていいので、無料の方が多くキャラメルを消費されそうであるが、実験の結果は以下の通りである。

①1個1セントという張り紙をした場合(有料条件)
キャラメルが消費された数:平均3.5個/人

②"無料"という張り紙をした場合(無料条件)
キャラメルが消費された数:平均1.1個/人

つまり、"無料"より1個1円にした場合の方が、学生がキャラメルが売れたということである。

この実験の結果から無料はなんとなく怪しいから、とか、品質が悪く見えたのではないか?と思われる方もいるかもしれませんが、用意されたキャラメルは量販店で手に入るフルーツ味のよく目にするキャラメルであり、売店も学生がよく利用する信頼のおける店である。

ではなぜ、有料条件の方が無料条件よりもキャラメルが消費されたのか?

実験の結果から、以下の2つの価値観が影響しているのではないかと考えられています。

2."市場規範"と"社会規範"という価値観

この現象を紐解くひとつの尺度として、我々が無意識に"市場規範""社会規範"という二つの価値観で消費行動を行っているということがポイントになる。

■市場規範:その名の通り賃金、価格、利息、などお金がからむ価値観であり、支払ったお金に見合うものが手に入るルールである。
■社会規範:私たちの社交性や共同体を軸として形成される価値観であり、お金を介さずに価値をやり取りするルールである。

キャラメルの実験から言えることは、緊急性に乏しく金銭が絡まないやり取りをする場合、我々はあまり自分の利益を追求せず、必要な分だけ消費をするということを意味する。

値段が無料であれば多くの人にとって、魅力的なものになると同時に、他の人のことを考えたり気にかけたりするようになるということである。

無料であれば他社のことを考えるということに関して、以下の事例で考えると分かりやすいかもしれません。

3.最後の唐揚げは社会規範の領域

皆さんも経験があると思いますが、大人数で飲み会などをした際に大皿に最後に残った”唐揚げ”を目にすることがあるのではないでしょうか。

いわゆる"遠慮のかたまり"です。

もし自分がお金を払って唐揚げ定食を頼んだのであれば最後にひとつだけ残すということはあまりしないのではないかと思います。

しかし、全員が消費可能なお皿に乗った唐揚げはなぜか最後にひとつだけ残る。

これは大皿に乗った時点でこの唐揚げが、全員の共有財産となり、自分が金銭を払って手に入れたという感覚が薄れ市場規範の領域から社会規範の領域へ移ったためだと考えられます。

つまり、大皿の唐揚げと、無料のキャラメルは、社会規範における共有財産という観点で近い存在であり、他者の利益を考えるべき財産となるため、自分一人がたくさん消費するということに関して遠慮がちになってしまうということです。

一方、自分だけが消費できる定食の唐揚げ、1セントのキャラメルは自分が金銭を支払うということで、権利を獲得したという感覚から、他者を気にすることなく商品を消費したとも考えられます。

4.まとめ

"キャラメル実験"結果

①1個1セントという張り紙をした場合(有料条件)
キャラメルが消費された数:平均3.5個/人

②"無料"という張り紙をした場合(無料条件)
キャラメルが消費された数:平均1.1個/人

2.人はお金のやり取りをする重視する"市場規範"と社交性、共有性を重視する"社会規範"という2つの価値観を持ち合わせている。

無料のキャラメルは、他者の利益を考えるべき財産となるため、自分一人がたくさん消費するということに関して遠慮がちになってしまう。

一方、1セントのキャラメルは自分が金銭を支払うということで、権利を獲得したという感覚から、他者を気にすることなく商品を消費したと考えられます。

"社会規範"、"市場規範"にという二つの価値観の使い分けは個人事業主やアーティストにとって非常に重要な観点とも言えます。

自分が提供しているサービスが市場規範の領域であるにも関わらず、共同体を意識するあまり、社会規範の領域でサービスを提供してしまい、相手から相応の対価を受け取ることができなかったり、

逆に相手が社会規範の領域における価値の提供(お見舞いやホームパーティー)をしてくれたのにも関わらず、金銭のやり取りに変えてしまうような振る舞いをすれば、相手の気分を害すことになります。

今後、社会規範と市場規範がそれぞれ活用できる場面についても機会があれば、お話ししたいと思います。

5.参考文献

今回お話した内容は『予想どおりに不合理』の中に掲載されている実験で、行動経済学という心理学と経済学を組み合わせた学問の分野のお話です。

このを行動経済学という分野が発展する以前は、"人間は合理的な生き物であり常に経済的に正しい行動をする"ということが前提経済学が発展してきました。

しかし、実際の人間が如何に不合理な判断をするか、ということは皆さんも承知の通りであり、この不合理を体系化して経済学に応用した学問が行動経済学です。

顔の見える相手と直接やり取りをするのであれば豊富な情報から相手の趣味趣向を判断することが可能ですが、オンライン上でのやり取りや、大衆に向けての広告戦略などを考える場合は、大衆の不合理な無意識を考慮する必要があり、現代において人間の心理が消費行動にどのように影響するかを知ることは不可欠です。

このような行動経済学の入門として、おすすめの本が以下の2冊ですので興味をもたれた方はぜひ読んでみてください。

個人的には、入門編としては『予想どおりに不合理』、より詳しく知りたい方は心理学者の観点から行動経済学を論じている『ファスト&スロー』がおすすめです。

①『予想どおりに不合理』(ダン・アリエリー)

「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」
「頼まれごとならがんばるが安い報酬ではやる気が失せる」
「同じプラセボ薬でも高額なほうが効く」
人間は、どこまでも滑稽で「不合理」。でも、そんな人間の行動を「予想」することができれば、長続きしなかったダイエットに成功するかもしれないし、次なる大ヒット商品を生み出せるかもしれない!行動経済学ブームに火をつけたベストセラーの文庫版。

内容(「BOOK」データベースより)

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②『ファスト&スロー』(ダニエル・カーネマン著)

伝統的な人間観を根底から覆し心理学者にして、ノーベル経済学賞に輝いた著者の代表作。待望の邦訳。私たちは日々、無数の意思決定をなかば自動的に行なっている。カーネマンは、直感的、感情的な「速い思考(システム1)」と意識的、論理的な「遅い思考(システム2)」の比喩をたくみに使いながら、意思決定の仕組みを解き明かし、私たちの判断がいかに錯覚の影響を受けているかを浮き彫りにしていく。

内容(「BOOK」データベースより)

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