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世界的ホテリエのエイドリアン・ゼッカ氏が惚れた町、瀬戸田の魅力に迫る【後編】

モノクロームの屋根一体型太陽光パネル、Roof-1を設置している施設や住居に訪問し、太陽光発電が支える人々や彼らの営みにクローズアップ。
今回の訪問先第2弾は、瀬戸内海に浮かぶ生口島瀬戸田町にある複合施設「SOlL Setoda」

前編では、エイドリアン・ゼッカ氏の手がけた国内初の旅館ブランドAzumi Setodaから、SOIL Setodaまでの宿泊施設と、その仕掛け人を、瀬戸田の歴史に触れながらご紹介した。

今回は後編として、瀬戸田のグルメご紹介とそれを支える人々を通して、瀬戸田の魅力をご紹介する。

前回の記事をご覧になっていない方は、是非こちら(前編)をご覧下さい。

多様な人が交わる港の食堂 -MINATOYA

隣の宿泊棟のSOIL Setoda1階は、地元の食材を使用した創作レストランMINATOYA(ミナトヤ)。朝8時からオープンしており、モーニング、ランチ、ディナーと1日を通して利用することができる。奥はワークスペースとして利用することも可能で、日中仕事をしている人々もいた。

ディナータイム限定で、薪火を使った創作料理を楽しむことができるということで夕食にMINATOYAへ。どれも美味しそうで決められなかったのでおすすめをオーダーする。カウンター席に座り、暗めに落とされた照明の中で煌めく薪火を背景に、テキパキと動くシェフの目の前に料理を待つのもまた楽しい。待っている間に、地元のお父さんがコーヒーを買いに現れた。聞くと、朝食に毎日欠かさずくるお客様もいるとのこと。宿泊客だけではなく地元のお客様も利用しているというのが、MINATOYAが地域に愛される食堂になっていることの証明ではないか。

特に面白かった1皿は、隣の大三島で狩られたイノシシの薪焼き。農作物を食べてしまうために駆除されたイノシシを活用したジビエ料理だ。初のイノシシ肉に、好奇心と緊張で胸が高鳴る。よく、ワイルドな味と聞くが一体どんな味なのかと少々怖気づきながらの一口目は、想像を良い意味で大きく裏切り、しっとりとした肉質に上品な甘みと旨みが口の中に広がった。その他広島ならではの牡蠣のグラタン、直接シェフが漁師さんから仕入れた鯛のカルパッチョ、地元のレモンを使った檸檬焼売などとお皿の紹介を続けたいところだが、美味しい以外の自身のボキャブラリーの無さが故に、食レポはここまでとしようと思う。

話していると、ここで働くスタッフのほとんどが、一度瀬戸田を旅で訪れてから移住して働こうと決めたそうだ。大阪出身のシェフ寺田さんに、ゆったりとした瀬戸田に移住してどのように過ごしているのかを尋ねてみた。

寺田さん:「他のスタッフと他県にドライブに行ったりもしますが、仲良くしてもらっているのは、地元の農家の方々です。友達というより、ただただお世話になっている感じですが。明後日、柑橘農家さんへお手伝いへ行くので、よかったら一緒にどうですか?」

ということで、後日寺田さんに地元の柑橘農家さんの畑へ案内していただくことになった。こういった自然な会話から生まれる、まるで日常の延長線のような体験が、まるでこの町に住んでいるかのような追体験となり、瀬戸田を第二の故郷と思わせるのではないだろうか。

本日も宿であるSOIL Setodaの部屋に戻り、未来のHEMS Home-1(
ホームワン)のタッチパネルから照明を暗めに調整。日が落ちたあとでも、蓄電池がクリーンなエネルギーを蓄電しているから、肌寒い夜も暖房が使えて安心だ。前編で記載の通り、この部屋の電力は全てRoof-1からの太陽光発電からまかなっている。

エネルギーをモニタリング、日没後も蓄電池からの電力自給率は98%

しまなみ海道の橋が繋いだ、国際色豊かなサイクリストたち

翌朝、1日の始まりは、朝8時からオープンしているMinatoyaでコーヒーを。フランス、オーストラリア、アメリカ、カナダと、全員外国からの旅人たちが先に朝食をとっていた。日本に住んでいる私ですらよく知らなかった瀬戸田という地を、何故選んだのかを尋ねた。すでに瀬戸田を訪れた友人からの紹介という方もいれば、旅本で体を動かすアクティビティを探していて、サイクリングに適しているからと知ったという方もいた。アメリカからのカップルは北海道から自転車で日本を縦断している途中だという。全員の共通点はサイクリングだった。しまなみ海道の橋は、新たな人々の流入が生んだことを決定づける瞬間だった。

自然と寄り添う土壌づくりが肝- 皮まで食べれるしまなみレモン

前日にお会いしたMINATOYAのシェフ寺田さんに、瀬戸田の柑橘農家のセーフティフルーツさんへ連れて行っていただいた。ここでは島の名産レモンやみかんだけではなく、ブラッドオレンジ、ベルガモットなどの希少な品種まで、多様な柑橘類が化学肥料・化学合成農薬や除草剤を使わない、いわゆる有機農法で栽培されている。

寺田さん:「セーフティフルーツさんにご飯をご馳走になったり、飲み会にさそってもらったり、お世話になっている人はたくさんいます。僕はこうやってオフの日は彼のお手伝いをしてます、海を見ながら、自然の中で体を動かすっていうのもリフレッシュになりますし、純粋に楽しいので。」

と、SOILの多くのスタッフが慕うのが、セーフティフルーツの能勢賢太郎さん。この日はお知り合いの発酵料理研究家とその生徒さんたちがみかん狩りに訪れていた。彼に愛情を込められて育てられたかんきつは多くの人気パティシエや料理人から信頼を得ている。実り豊かなみかんが広がる畑を目の前に、能勢さんの有機農法でのかんきつ作りについてお話を伺った。

能勢さん:「 僕は、愛情をかけて無農薬やってます。土づくりをしっかりやる。きちんと草を刈る。何もせず植えてほっといてればそりゃ無農薬と誰でも言えますけれど、それだけじゃダメなんです。土を肥やすためには草が大切で、 それを枯らすともったいないんです。そして楽をしようと除草剤を使うと強い外来の厄介な草ばかりが残ります。でも草刈りをすると草の多様性が増え、土も豊かになり、微生物が増える。そして畑の中で生態系のピラミッドが出来上がる。 その結果に美味しい果物ができる。調べたら同じ面積くらいの畑に除草剤を撒いたら年間14日しかかからないけれど、うちで草を刈っている日数、大体100日くらいですよ(笑)」

「人間は、宇宙や地球という自然の中ではちっぽけな存在でなんです。例えば僕らは太陽のように発光して光合成させることもできなければ、雨を降らせることもできない。だから僕らができることって自然と寄り添って、自然がうまく回る手助けをするようなことしかできない。だからこそ、人間が自然をコントロールしようとするだなんて、とても傲慢な行為だと思うんです。」

そう語る能勢さんは、常に自然に生かされているという謙虚な姿勢で、自然に敬愛を持って作物を育てている。糖度計を通して、規格に沿ったものだけがコンテナに詰められていく、そんな甘さだけがあれば良しと機械に仕分けられてしまった流通のかんきつ類たちは、きっと寂しい思いをしているだろう。

「パティシエの方がアップサイドダウンケーキに僕のブラッドオレンジを使ってくれるんだけど、それなりの酸味や香りが強いものがないと、味が締まらないんだって。パティシエにとっては甘味なんて砂糖でいくらでも後でつけられるけど、酸味と香りはつけられないっていうからね。」

能勢さんのブラッドオレンジを使用したケーキ。幡ヶ谷のsun day bake shopのInstagramより

能勢さんの作る美味しいかんきつは、自然に寄り添った良い土壌づくりから生まれる。だから、自然のサイクルに沿い、旬なものだけを出荷している。1月や2月はみかんが終わり、八朔やブラッドオレンジなどが出荷される予定だ。気になる方はセーフティフルーツのホームページから予約を。

”農法から見直す”元塩蔵の焙煎所 - Overview Coffee 

MINATOYAの道を挟んで正面にある蔵は、元々堀内家の塩蔵だった歴史の外観をそのままに、ポートランド発スペシャルティコーヒーOverview Coffee(オーバービューコーヒー)の焙煎所として生まれ変わった。土壌の再生と気候変動問題の解決へ寄与することをミッションに、他のコーヒーブランドとは一線を画すアプローチをしている。最近千葉県一宮市にオープンしたOverview Ichinomiyaはもちろん、その他の都内では日本橋のパークレットなど、日本全国のパートナーへもコーヒー豆を提供している。ショップマネジャーの瀧澤さんに、Overview Coffeeのミッションについてお話を伺った。

瀧澤さん:「環境再生型有機農法(リジェネラティブ・オーガニック農法)で栽培された一杯のコーヒーを通して環境負荷を減らすことに寄与したいということです。環境再生型有機農法で植物を育てることで、二酸化炭素を炭素として土壌中に隔離することができ、現在の農地全てがこの農法に移行すれば、地球温暖化は解消されると考えられています。現在も進行する地球温暖化の影響で、今後2050年にはコーヒー1杯が5000円くらいになってしまう可能性があると言われております。それに対してシンプルな思いで、大好きなコーヒーをこれから先の未来も楽しめるようにという想いがきっかけで辿り着いたのが私たちのアプローチです。」

また、外国人のお客様へ華麗に英語で案内をする瀧澤さんは、こう言う。

「東京にいるより、ここに来てからの方が100倍英語を使うようになりましたよ。外国人のお客様が多く、とても国際的なところです。田舎のはずが、面白いですね、瀬戸田は。」

みんなの健康をおいしく守る - 街のお惣菜屋「ひ、ふ、み」

SOIL Setodaのレセプションのある棟の1Fにある「ひ、ふ、み」では、地元の生産者から直接買い付けた新鮮な食材を使用したお惣菜やお弁当、お土産類を販売している、いわばしまなみエリアの食のアンテナショップだ。お惣菜を座ってゆっくり楽しみたい方は、MINATOYAの朝食とランチでもオーダーすることができる。「ひ、ふ、み」を切り盛りする店長の木村ゆうこさんは、元々東京富ヶ谷でお弁当屋さんをしていたが、「ひ、ふ、み」のオープンに合わせて瀬戸田に移住した。

木村さん:「季節を感じてもらうのに、野菜が1番わかりやすいと思っています。みなさん忙しいと、季節を分からず過ごしていくじゃないですか。例えばいちじくが出てきたらもう秋なんだとか、 ゴーヤが出てきたらもう、じゃあ夏がもうすぐ来るねとか、単純にそうやってお野菜を通してみなさんが楽しんでくれたらいいなと思って、季節の野菜を取り入れたお惣菜を作るように心がけてます。大人も子供も苦手なものも食べれるようになったと聞くと、良かったなと嬉しく思う瞬間です。」

急いで空港へと向かわねばならなかった私たちは、この後お惣菜を持ち帰り運転の合間に食べることに。ゆうこさんの作るお惣菜を一口食べて、今すぐにあったかい白米を何口でも放り込みたい気持ちになった。お野菜の旨みを活かした味付けは、ほっとする優しい味わいで、胃も心も満足した。

心地の良い空間は、自然なおもてなしの心から生まれる

瀬戸田のみんなの健康は、木村さんに守られていると言っても過言ではないと語るのはSOIL Setodaのレセプションの坪井さん。ホスピタリティ業界にずっと携わってきた彼女の、まちづくりを担うスタッフとしての意見が印象的だ。
坪井さん: 「この街で暮らすんだったらっていうのを自然と考えてしまうような体験があって、移住を決めました。みんなそれぞれナチュラルに暮らしながら働いてる雰囲気があり、そういった自然なおもてなしを受けたから、”よし、旅だ!”っていうよりかは、ちょっとこう、場所を変えた暮らしの体験のような雰囲気で過ごせたのが大きかったかなと思います。」

そして彼女の考える宿の役割と、SOILの役割をこう語ってくださった。
「私の中で宿の存在というのは、どういう人たちを呼び寄せるかというような、街の中を交通整理をする重要な存在だと思います。だからこそ、その宿のコンセプトや外観、どういうスタイルでスタッフが接客をしていくかなど、そういったこと次第で街に影響を与えてしまうと思います。価格帯も然りで、Azumi Setodaというラグジュアリーな宿がある中で、 SOIL Setodaはもっと開かれた、交流ができるような空間を備えてるからこそ、スタッフの役割が大切だと思うんです。そこでカッコつけたようなクールな接客をしてしまったり、交流が得意じゃない人は多分(ここで働くのは)難しいとおもいます。ここで働いている皆さんがもともと瀬戸田をナチュラルに好きな人も多いと思う。 会ってすぐにそれを感じさせるような空間作りって、やっぱりなんかこう、意図しちゃうと無理だと思うんですよ。だから自然とそれができる人が大切だと思います。人だけではなく、それこそデザインや建築設計からも想いを伝えることもできると思います。 隣のOverview Coffeeがある蔵も、元々、お塩の蔵だったという歴史をそのままの外観に残していたり、 街の人からも馴染みがありつつ、外から来た人にとってはまた街のことを感じられるような、そんな場所にSOILがなったらいいなと思っています。」

地域に深く根ざすための”土壌”を作る”SOIL”


外から来たものを温かく迎え入れる地元の人々と、それに惹き寄せられ新たに住むや訪れる人々が地域に活力を与える。それらすべての人々が、瀬戸田の”なぜかまた行きたくなる場所”という言葉にし難い魅力を生み出しているのであろう。

その地にあるものを、その地で使うことで、”その土地らしさ”という唯一無二の魅力的な場所にする。そこで交わる多様な人々が新たな文化を耕す。そうやって、地域に深く根ざすための”土壌”を作っていくために”SOIL”と名付けられたのだろうと、この複合施設の名前に込められた意味について、今回の取材を通してスッと理解することができた。

この地に降り注ぐ太陽の光を屋根に受け電力に変える、地産地消のクリーンなエネルギーを作りだすモノクロームのRoof-1もこうやってStapleの活動に力添えすることができて嬉しく思う。

さよなら瀬戸田、もう、また行きたくなったよ。


SOIL Setoda
〒722-2411
広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田254-2
HP:https://soilis.co/locations/setoda/
Instagram:@soil_setoda


モノクロームについて
モノクロームは、創業者の梅田優祐が自宅を建設する際に、理想の住宅用太陽光パネルと、つくられた自然エネルギーを効果的に制御するためのソフトウェア(HEMS)が存在しない問題に直面したことをきっかけに、その問題を解決するため2021年7月に設立された会社です。

HP: https://www.monochrome.so/
Instagram:@monochrome.so
X(Twitter):@monochrome.so

屋根一体型太陽光パネルRoof-1についてもっと知りたい方はこちら
家をシンプルにするHEMS、Home-1についてもっと知りたい方はこちら


Text&Edit:Miko Okamura Ellies
Photo&Video:Christopher Ellies



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