『阿保の一幕』 短編小説
殺す。綺麗に透き通った山の空気を肺に入れた後のような、程度の低い快楽とは異なる汚れの一切ない恍惚感に包まれて私はkを殺すことにした。kは悪人なのだ。kの一番の罪は自身の罪を自覚していないことだ。これは最も恐ろしいことであり、最も幸福なことでもある。私はkに対して怨念や悪意を持って殺すのではない。ある意味で私はkを殺すとによってkを救うのだ。人を殺すことは悪、つまり罪だと多くの人は考えるのだろうが私はそう思わない。その理論なら、人助けをする人は善人になる。物事はそう簡単には出来