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短編小説

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2020年5月の記事一覧

短編小説。 ビー玉。



きれいなビー玉を買ってもらった。百円ショップにあったそれは量産物であるにも関わらず、僕の心をとてもワクワクさせた。透明感の溢れ出るその玉は水色や緑色や青色があってまるで宝石やダイヤモンドを持っている気分になった。中でも一番綺麗なのが金色っぽいビー玉で、特にそれを大事に机の中にしまい、たまにみるのが楽しみになっていた。

その頃、僕は中学生になって、遊ぶことが仕事だった小学生があっという間に

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短編小説。 『ひまわりへ。』

あの日、僕たちはドライブに出かけた。2日前に別れた君が突然現れた。家に忘れ物をした君が物を取りにきて、でもなんか寂しくて2人で最後にドライブに行った。もちろん、友達として。僕はなぜかあの時、2人でいたいって思った。というよりも2人でいなければならないと思っていた。僕たちは2人でなければ意味がなく、1人だったらダメになってしまう。実際、僕はこの君がいなかった間、死んだような生活だった。具合も悪くない

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短編小説。 『かけっこ。』

感謝。後悔。

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私は、もうすぐ死ぬ。この老人ホームに入ってもうすぐ2年になる。人の死期はわからぬが、自分の死期は案外わかるものだ。だから、ここの施設の感想でもここに書いておこう。

環境はいい。毎日3食、美味いご飯が出てくる。孤立した生活が送れる。世間からも、家族からも。家族とは、もう何年もあっていない。妻が亡くなったあと、私は家族に迷惑をかけたく

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