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老いと旅役者②/それでも舞台で生きていく

旅芝居・大衆演劇界で人気があるのは若い役者さんです。
でも私はずっとオッサンとジーサンにばかり注目をしていました。
人生を旅回りの舞台で生き、歳を重ねてゆく旅役者。
だから舞台に人柄や生きてきたすべてが滲むようにすら見える彼らだから、こそ。

専門誌にかかわっていた頃、掲載する写真の「修正」にやたらこだわる座長が居ました。
女形で売ってきたその人は人一倍「美」へこだわる。
老いてから目の整形もした。
でもそれでも毎日化粧のために鏡を覗く自分の顔が気に入らない。
公演する劇場に貼るポスター。雑誌に掲載されるグラビア。
舞台の口上でよく言っていました。
「綺麗でしょ~。今はね「修正」っていう技があるんですよ。ホホホホ~」

某美意識の高い大御所役者もずっと愚痴っていました。
日々の化粧の際の鏡をみる瞬間が嫌だと。
きっかけは、女形。
元々立ち(男)姿のキザさを売りにしていた人だったのもある。
けれど、50前、まだそれほど老いていないしまだまだ綺麗だと客席は言うのに、
「もう女形はやめる」宣言を何度もし、本当にしなくなりました。
「しないとサボってるとかお客さん言いよるもんね。見たくもないくせに」
「きついやろう。やってるこっちが一番わかってる」
でもゲスト出演の際など、どうしてもしないといけない時、
舞台に登場した彼はド派手なカラー鬘、青と白、ツートーンの鬘での女形でした。
「なんであんなドラえもんみたいな鬘なんすか?」
周りの取り巻き(熱いファン)のおねえちゃんが教えてくれた。
「先生、気にしてるの。若く見えるように、って」

別の大御所役者。プライドの鬼。
「若いやつは芝居をわかっていない」が口癖のようになりました。
そうしていつも取り巻きのねーちゃんファンたちを大奥のように連れていた。
(※ねーちゃんといってもギャルではありません)
劇団に入団した若くて人気ある役者にイラついていた。
結果、若い彼はドロンしました(逃げた)。
間接的に、いや、直接的に追い出したのだと後々知りました。
「あんたみたいなのは芸じゃない。ホストと一緒だ」とねちねちと。
いや、本当に元ホストだったのです。
笑顔のかわいい、おばさまキラーの、でも、芸にも真剣に向き合う子でした。
でも、だから、潰しました。

とある役者。フリー。
「50歳になったら辞めようと思ってたの」
でも50を過ぎても居る。
「若いのに、太ってる子。もろ肌脱いだり褌姿になる芝居とかあるのに、なんで気にならないんだろうって思うよ。若いからかな」
よく呑む人でしたが、若い頃からずっと毎日筋トレを欠かさない。
これ見よがしにではないけれど、舞踊の際にキメのポーズをした際、
「鍛えている」からこその腕や足がわかりました。

アホで、若かった私は、
それ故、オッサンやジーサンに近づきすぎたりしたこともあります。

ある50過ぎの役者。役職なし。自称「自分に正直」。
過去の栄光が忘れられない。
貢いでくれる若い女性ファンは居たのだけれど、金銭的に苦しかった。
それより何より日々大きな役もつかず、精神的にしんどくなったのでしょう。
とある夜、ちょっと酔っておられた時、打ち明けられました。
「俺、明日の座長大会が終わったら〝ドロン〟しようと思う」
いざその日。なんと、別の役者がドロンした。嘘みたいなホントの話です。

嫌われ者のジーサン役者からもいろんなことを聞かせてもらいました。
嫌われ者とは言葉が違うね。
芝居をつくる作家として演出家としてすごい才能を持った人で、
豊富な知識と才能で常に時代の先を歩いていた。
でも、あまりにもこだわりと我が強かった。
さまざまな事情と年齢ゆえにもう舞台にはあまり立っていないけれど、
日々考えることも、寝ている間の夢も、芝居のことばかり。
舞台に立つ時は毎回「これが最後かもしれない」
でも、他人にそう言われると烈火のごとく怒っていた。
ある時、言われたことがあります。「遺影を撮って欲しい」
いや、まだ生きるって! うん、生きている。生きてて。

毎日人前に、舞台に立つ職業。それも笑顔で。
人に揉まれる仕事。それも、たくさんのお客さんに。
ストレス、不規則な生活、食生活、酒。
意外と呑めない役者さんも多いけれど、
付き合い酒、ひとり酒、楽しい酒じゃなく、
ストレス発散のためが習慣となっている深酒や
メンタルや年齢で、睡眠導入剤をはじめとする薬が手放せなくなっている人も少なくない。
驚くような睡眠導入剤の飲み方をしている役者さんも居れば、
そんな飲み方はとうの昔で、もはや効かない寝られないという役者さんの話も聞きました。
とにもかくにも「明日の舞台」、皆が待ってる、明日の舞台。
1人欠けたら芝居が成り立たない、近年特にそういった劇団は増えている。
ケガと病気はもう隣り合わせどころかぴったりとくっついて離れない。
そうして歳を重ねてゆくと、
芝居の中ではしょっちゅう出てくる「死」は、でも、決して、他人事ではなく、身近。

……なんて書くと、なんか悲壮感いっぱいみたいに見えるけど……。

オッサン、ジーサンたちは伊達に長いこと生きてはいない。
息子座長や息子世代のファンに手を出したり!
(これが結構うまくいく。「繋がり目的」で来るファンを含め)
「渋い~」「大人の魅力!」とかいう稀有だけど稀有じゃないファンにモーションかけたり!
年配世代はやはり若い世代が好きだけれど、
でも年配世代ゆえに、若い世代のファンでも「こちらの事情」をわかって、少しでもよくしてくれたりする。
……とわかって、「優しい人」として振る舞ったり。
そんなこんなで、なんだかんだで、楽しいことや、
「俺、まだイケるんちゃうん?」を思ったりもする!
でも、やはり、また元に戻る……。日々みる鏡にうつるのは、今の己の姿。

「生老病死」は誰にとっても他人事じゃない。
日々を「明日」とりあえずその「明日」と言う風に
刹那的に生きている旅芝居の役者さんはそれこそ遠い先のことなんて
自分事として考えたりする時間や余裕すらなく、
それより「今日」「明日」と追われているうちに歳を重ねていっているのでしょう。
でも、だから、どうぞ、無理かもしれへんけど、それでも、
どうか、体に気を付けて、体こころ、気を付けて。
舞台ですべてを晒す、それ以上に滲んで見える彼らに対し、いつも思います。

私は、旅芝居の世界で、この世代の役者さんたちは、やっぱり、「宝」だと思うのです。
「呑む打つ買う」「セックス・ドラッグ・ロックンロール」
昔と比べてちょっと「ちゃんと」した時代になりつつある今(善悪両方の意味でね)、
今よりも(あかん意味で、でも素敵な意味で)自由奔放に生きてきて、
自由奔放に生きてきすぎたから? !
その滲みすらも役者としての味や個性、生きる武器として舞台に立つ彼らは
やっぱり、うん、やっぱり、若ぇやつらには出せない色気と、トホホさと(これ褒め言葉)があるように見えてなりません。
まさに、「生きることそのものの舞台」である旅芝居の「宝」だと。

そう、今の若手も、きらきら最前線の座長も、皆、皆、歳を重ねてゆくんだ、老いてゆくんだよ。

それも、それすら、その過程も含めて、旅芝居の舞台には、すべてが、出るんだよ!

だからね、それでもね。
そんなオッサンやジーサンたちが、舞台に居るうちに、
1回でも多く観ておけたらな、皆で観られたらな、と思ったりもします。

ほら、「トイレタイム」とか言わんと! さ!

さらに……。
私、書き屋としての私、オッサン・ジーサンの好きな、いや、好きじゃないけど、彼らに泣き笑い・笑い泣きする私は、
やはり、彼らの想いを、生きてきたそれを、残したり出来たらな、いや、残さねばならない、とも思っています。

ずっと思ってきたけれど、より思う、もう若くはない最近の私です。

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とにもかくにも、どうぞ、どうか、皆、あなたも、体だいいち、元気でいてね。


ちなみに、前編(?)、その①はこれ。「はじめに」なお話、でした。

追記)
あ、これ、旅芝居のオッサン・ジーサンたちについて書いたけど。
うん、そうなんだけど。
でも、それだけじゃない、それだけの意味じゃないな。ってことも。
ね、noteもおっちゃん・じーちゃんネタ多いでしょ、この頃(笑)

◆◆◆

てか、何年も前からblogにも同じテーマで書いてる(笑)

【今日も笑顔で毎日「ワッショイ!」-大衆演劇、それは人生の旅人達の毎日の祭-】
https://momo1122.at.webry.info/201311/article_7.html

【素顔 -続く毎日続く舞台続く人生…本当の≪美しさ≫、その魅力-】
https://momo1122.at.webry.info/201407/article_4.html

【旅役者とは、旅芝居とは-オヤジたち&ジジーたちの舞台から-】
https://momo1122.at.webry.info/201703/article_1.html

noteにも書いてた。笑

◆◆◆
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大阪の物書きでございます。
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
下町・大衆文化も好きです。
女2人の立ち呑み旅も、連載中。現在第8回まで更新中。

そしてそして新連載もどうぞよろしくお願いします!

普段はラジオ番組やらCMやらの構成作家やライターです。
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