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茶室で交わる情念と哲学、彼らの生き様

伊東潤氏の最新作、『天下人の茶』が発売されたので、さっそく購入させていただきました。

まず、本編に関する色々に入る前に、登場人物について簡単に取り上げたいと思います。
この作品では、秀吉・利休・信長といったメジャーな人物だけではなく、利休七哲のような、教科書には載っていないややマイナーな人物が含まれています。

実際のところ、知らないで読んでも作中で彼らの背景は理解できますし、知らないところから作品を通して理解していくことも面白い読み方とは思います。

一通り書いてみますが、読まれるかどうかはお好みで…。

主な登場人物

・豊臣秀吉 (1537~1598)


言わずと知れた天下人。
政治・軍事・文化など各方面において類稀なる才覚を持ち、下々の身分から関白まで上り詰めた戦国~安土桃山期の出世頭です。

・千利休(1522~1591)


堺の商人であり茶人。法名は宗易。
侘び茶を大成した人物で、「茶聖」とも称されます。
今井宗久、津田宗及と共に茶湯の「天下三宗匠」と称せられ、「利休七哲」に代表される数多くの弟子を抱えた人物です。
信長、そしてその死後は秀吉に仕えましたが、後に切腹を命じられて果てます。

・織田信長(1534~1582)


天下統一を目前に本能寺で果てた、稀代の天才。
彼を死に至らしめた背景は、未だに多くの謎に包まれています。
秀吉だけではなく利休(宗易)を取り立て、秀吉を茶の湯の世界に引き込んだ張本人でもあります。


・牧村兵部
(1546~1593)

元は美濃国の豪族で、信長の家臣。そして利休七哲の一人。本名は牧村利貞.。
信長の死後には秀吉に仕えて武功を挙げ、その功もあって伊勢岩出城主となりました。
高山右近の勧めでキリシタンとなった人物でもあります。
文禄・慶長の役に参戦し、戦地において急死。


・瀬田掃部
(?~1595)

豊臣氏の家臣で、利休七哲の一人。本名は瀬田正忠。
大きな平高麗茶碗、そして後に「掃部形」と称されることとなる、大きな櫂先を持った茶杓を愛用したことでも知られます。
豊臣秀次の謀反疑惑の中で処刑。


・古田織部(1543~1615)

美濃の豪族で、土岐→織田→豊臣→徳川と仕える主君を変えた大名。
利休七哲の一人。本名は古田重然。
千利休とともに茶の湯を大成し、茶器・会席具製作・建築・作庭などにわたって「織部好み」と呼ばれる一大流行を安土桃山時代から江戸時代前期にもたらしました。
利休死後はその立場を受け継ぎましたが、反骨精神も強かったと言われており、それが災いして1615年、大坂夏の陣の後に切腹を命じられました。


・細川忠興(1563~1646)

足利氏の支流・細川氏の出身。丹波国の豪族であったが、後に豊前国の大名となりました。正室は明智光秀の娘・玉子(細川ガラシャ)。
足利→織田→豊臣→徳川と使える主君を変えています。
利休七哲の一人で、茶の湯だけではなく和歌や能楽、絵画、学問、武具の目利きにも通じた多才な人物でした。
文化人として名高かったため多くの伝手を持ち、情報戦にはめっぽう強かったといわれています。


・山上 宗二(1544~1590)

堺の豪商で茶人。
利休のもとで茶を学んだ高弟で、当初は豊臣家(織田家という説も)に茶匠として仕えました。
その後、秀吉の機嫌を損ねて出奔、北条氏に仕えるようになります。
小田原攻めの際に秀吉に面会、その際にも秀吉の怒りに触れ、耳と鼻を削がれて処刑されました。


作品を読んで

この作品は、秀吉が『明智討ち』という能を舞うシーンから始まります。
秀吉は舞いながら、自らの歩んできた過去へと思いを馳せます。

過去に現れるのは信長、丹波長秀、明智光秀、そして天下三宗匠。
秀吉は、信長を恐れる様子もない宗易(利休)という人物に底知れぬものを感じます。
彼自身、信長という人物を知り尽くし、その勘気に触れぬよう心を砕いていたのですから尚更です。さらに、宗易が信長に献じた策に驚嘆します。
そして宗易も秀吉に感じるものがあったのでしょう。その後、両者は親交を深めていくのですが…。

秀吉に仕え、利休の高弟であった牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川忠興、それぞれが秀吉とどう対峙し、利休と交わり、「己の侘び」を茶の道を通してどのように表現し、極めていったのか。
そして、信長・秀吉・利休の関係とはどのようなものだったのか。
これらの時間の流れが集まる結節点に、利休と秀吉の真の関係が浮かび上がります。

そして、これらの歴史を背負う秀吉が『明智討ち』に込めた真の思いは、最後に忠興の目を通して、そして舞う秀吉の心の声として明かされます。
しかし、現世の天下人である秀吉は、精神世界の天下人であった利休と同じく「黙して語らず」を貫き、その思いを演者が語らぬ「能」を通して全身で表現するのです。
その秀吉の姿は、後陽成帝にはどう映ったのでしょうか。

あまり色々書いてしまうと、読む際の楽しみが減ってしまいますので、私の文はこれくらいで…。


これを読まずして、茶の世界を、利休を、秀吉を、そして安土桃山を語ることができない一冊になると思います。
伊東潤氏の新刊は今後も続々と発売されます。本当に楽しみです。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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