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地球帝国(著:アーサー・C・クラーク)【本は長くない。長いのは読書感想だ】

SF大作家クラークの作品群の中で、
唯一、選べるのならこれは止めとけ。
と言われちゃう作品。

いや、つまんないとかじゃなくて。
圧倒的に地味。
クラーク成分も足りないし。

学生時代の私はタイトルに一目ぼれして買って読んだのだけど、
なんというか、退屈だった。
内容も印象に残らない。
書評を観ても、クラークの中でいちばんパッとしない作品、
とか評されている。

でも表紙がキレイだったんだ・・・

内容としては、

タイタンの大統領の息子、ダンカン・マケンジー3世は、
生まれて初めて地球に外遊する。
タイタンは、いわゆる大統領の一族が王位継承する王朝共和国だ。
(最近はこの手の国が多いよな)

しかもただ単に息子に譲位するとかじゃない。
マケンジーの一族は、遺伝子異常があり、子どもを作れない家系なのだ。
だからクローン技術を使って、次世代の王子を設ける必要がある。
主人公は3世であり、3代目である。
(祖父はマルコム、父はコリンという名前ではあるけど)
独裁者っていう規模ではなく、自治体の長くらいなのかな。

地球への外遊は、クローン出産サービスが地球にしかないから。
つまり、そろそろ王位継承が近いプリンスとしては、
自分の仕事としてマケンジー4世をもうけておく義務があるのだ。

がしかし、
若い3世は外遊先の地球で思いっきり羽を伸ばす。
はじめて王族ではなく、ひとりの人間として振舞ってしまう。
友だちや女の子と遊んだり、
宇宙生命の探索に思いを馳せたり。

ふつうの生活にあこがれていた王子さまは、
いっそ逃げてしまおうか、と何度も考える。
逃げられたら。
作中でそんなシーンあったっけ?
いや、でも考えると思う。
サリンジャーと違ってダンカンは逃げたりしないけど。

いや、もう違う。
違った。それは地球に留学した時の話だった。
今回の外遊ではそこまで遊んではいられない。
だが昔の記憶が沸き起こってきて、
アメリカ伝統のロストジェネレーション文学になってくる。

かつて愛していた彼女はいま、どうしているだろう?
友人はいま、どうしているのだろう?

******

なにより吹けば飛ぶような小国のタイタンと比べると、
地球帝国の存在はデカすぎる。
地球帝国というのは、作中でも別に実際の国名ではなく、比喩なのだ。

宇宙は小さい。大きいのは惑星だけだ。

ロバートクラインマン土星に出発する前に語る。

という警句が入って来るくらいに、圧倒的な存在だ。

今で言うと、人工200人の絶海の孤島から、
東京やNYのような大都市に出てきたような感じ。
いくら島で権力者の一族と言っても、桁が9つくらい違う。

田舎出身の青年にとって、地球はさだめし、宇宙の中心なのである。

田舎のインテリあるあるの話だ。

でも結局のところ、彼は自由への渇望や、
青春の郷愁に征服されることなく、
小さな息子を連れてタイタンに帰っていく。
これは長い人生の一幕に過ぎなかった。
通り過ぎていく他人には退屈なエピソードのひとつ。

SFというより、
ヨーロッパのアート系映画みたいだ。

当時は表紙に騙されて、変な本を買ってしまったとは思った。
しかし、こういう地味な本を限りなくピュアだった時に読めたことは、
もしかしたらラッキーだったのかもしれないと、
思うことにしている昨今。

まあでも、こんな書評があるからって、別に読まなくてもいい。
そんなにエキサイティングな展開とかない。
地味な作品なのだ。
これを読むくらいならもっと別なものを読むべきだ。
だが。

今でもちょこっとは覚えているのだ。
この表紙の絵だけで、インパクトの99%を持って行った、
戦争も冒険もない秘密のロスジェネ物語を。

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