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図書館のおはなし

香水を購入したの。また性懲りもなく。
人生の楽しみは世界に未知のものが溢れていると認識する事で広がると思っているのに、未知のものを想像する事にこそ楽しみがあると思っているのに、過ぎた好奇心は私の楽しみを急かしてしまう。これからはもっと想像すること、出会いを待つことに重きを置こうか。

それはそれとして、今回は図書館の匂いを手に入れたのです。ウィスパーインザライブラリー。

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だから今日は、図書館のおはなし。


図書館。
足音を消してしまう床材。日よけから僅かに漏れる陽光。白い埃がきらりと光って静かに漂うの。
不思議に甘いインクと紙の匂い。大事に大事に仕舞ってある、少し古くなった本たちの。


小さい頃、図書館はとても身近なものだった。働き出した母は夏休み、小学生の姉妹を子ども室に連れて行って、私たちは本と過ごした。昼には近くにある母の職場でごはんを食べて、また図書館に戻る。本が好きだったから、これはとても有意義な夏休みだった。何といっても涼しい。
大きくなると利用することはめっきり減ったけれど、高校の夏、宿題をやっつけるために通った。学校からも近かったし。


大きな宇宙図鑑開いて、ノートに一生懸命書き込んでいるお爺さんがいたこと。
私が数学の青チャートと睨めっこしていた対角線上で。
彼が無性に羨ましくて、憧れて、ただただ格好良いと思った。私が微分積分して、英文を分解して歴代の内閣を暗記して構造式を書く、という事に一日の大半を費やす斜め前で宇宙を眺めていたお爺さん。彼を見つけることが日課になった。



勉強なんかして何になるの、というのは10代のうちに何回も繰り返す問だ。答えなんて知らない。知らなくて良い。私はいつか、あのお爺さんのように勉強がしたくて、あの頃は青チャートに向かっていた。与えられる、大学受験のための勉強。センター対策、二次対策。残念ながら大学でもカリキュラムに追われる日々で、結局目的のための勉強を繰り返してしまった。
私はその先にある、自由な勉学に憧れている。
生活の糧にならないような、ただ好きなだけの勉強をいつかしたいな。宇宙でも、歴史でも、料理でも何でも。興味のあることを。



久しぶりに地元の図書館に行った。離れていた間に失効していた貸出カードを再発行して、いくつか本を借りてみた。まだ真新しい本ばかりを選んでしまったので、不思議な甘さは香らない。いつかこの真新しいインクの匂いも甘くなる日が来るかしらん。


私たちを脅かすウイルスの影響が図書館にもひたひたと押し寄せている今、中高生の自習は出来ない。閲覧するにもソーシャルディスタンス。
心なしか少ない利用者の中にあの人は見つからない。それでもいいの。



何年たっても、冬でも秋でも、あの人は夏の陽が少しだけ差す窓際でページをめくっている。



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