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『小説ですわよ』第1話

あらすじ 「ホラホラホラ、轢くぞ轢くぞ轢くぞ轢くぞ」  ショッキングピンクのハイエースが、逃げる男の背中に激突した。衝撃と鈍い音が腹の底まで響く。 「マジかよ……本当にやりやがった」  水原 舞はそう呟きたかったが、口が開いたまま塞がらず、助手席で全身を固めることしかできなかった。  男は3メートルほど吹っ飛び、地面に倒れ伏したまま動かない。血は出ていないようだ。 「よーし」  轢いた張本人――森川 イチコは運転席のドアを開け、男のもとまで歩み寄っていく。舞も震える手でシー

    • 小説ですわよ第3部ですわよ4-1

      ※↑の続きです。  それぞれウネウネ棒やロープで簀巻きにされた矢巻と狙撃手2名が、探偵社2階の床に放り投げられる。戻ってくるまでの間に、猿ぐつわを噛まされ「むー、ぐー」と叫ぶことしかできない。舞はこんな光景をドラマ等でよく見ていたが、まさか自分が『する側』になるとは夢にも思わなかった。  その横では、拉致の是非を巡って綾子とイチコが口論している。 「イチコ、なんてことをしてくれたのよ!」 「こうしなきゃグリーンがやられてた!」 「グリーンだけを回収できたでしょ!」 「矢巻を

      • 小説ですわよ第3部ですわよ3-6

        ※↑の続きです。  狙撃手は複数人いるようだ。しかしプロではないらしい。上空から降り注ぐ弾丸は、舞たちを狙うものの大きく外れて着弾する。  舞はイチコと共に頭を低くしながら、一目散にピンキーへ駆けていく。ホワイトを救出して逃げるという選択肢は最初からなかった。薄情者と思われるだろう。綾子に「探偵社から、ひとりの犠牲も出さない」と誓わせておきながら矛盾しているとも思われるだろう。だが下手に動けば、舞とイチコまでやられて総倒れになる。ふたりをかばってホワイトが犠牲になるという最

        • 小説ですわよ第3部ですわよ3-5

          ※↑の続きです。  2023年4月4日(火)6:56。 「物騒ねぇ」  舞の母が、昨夜に探偵社(主にゴールド)がやらかした爆破事件のニュースを観て呟き、油揚げと小松菜の味噌汁をすすった。舞は目玉焼きを白飯の上に乗せ、醤油をひと回しかけ、半熟の黄身を崩しながら口にかきこむ。 「平気だよ、半グレといっても一般人にはそこまで手を出さないタイプみたいだし」 「舞ちゃん、なんでそんなこと知ってるの?」 「ぐほっ!」  舞は喉につまった米粒を味噌汁で流しこんでから「ネットに書いてあった

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          小説ですわよ第3部ですわよ3-4

          ※↑の続きです。  綾子は、愛嬌もなければショッキングピンクですらない異形の武装トラックを『初代ピンキー』と呼んだ。カーナビ画面に映る『それ』を、イチコが片眉を上げながら目を凝らす。 「私と姐さんは、こんなイカついトラックに乗ってたの?」 「言っとくけど、悪趣味な装備は後付けよ。元々の見た目は普通のトラックだったし、色もピンクだったわ」  綾子によれば、再返送するために必要な衝突エネルギーを魔法だけで捻出するのが難しく、車体の質量と馬力で補う必要があったという。魔法の改良に

          小説ですわよ第3部ですわよ3-4

          小説ですわよ第3部ですわよ3-3

          ※↑の続きです。  週が明け、2023年4月3日(月)19:24。  矢巻に関する最初の調査は、定時後に行われた。  イチコと舞の乗せたピンキーが、ちんたま新都心駅の西口に広がる廃墟地帯で停車する。正月に、並行世界アヌス02の尖兵である巨大先行者と、巨大ぬーぼーが激戦を繰り広げた場所だ。その結果、多目的アリーナや周辺の高層ビル群は破壊し尽くされていた。一帯はちんたま市が封鎖し、瓦礫の撤去が進められている。ライフラインも破壊されたらしく、夜になると周辺は闇に支配される。ピンキ

          小説ですわよ第3部ですわよ3-3

          小説ですわよ第3部ですわよ3-2

          ※↑の続きです。  岸田はタブレットを机に置くと、社長室を出て昼食の準備に取りかかる。  舞は画面の男と目が合った。カンムリワシを思わせるアフロヘアー。ゴボウのように痩せこけた青白く長い顔。目じりはやや垂れ下がっており穏やかに見えるが、口元を歪ませ邪悪に微笑んでいる。 「具志堅用高の並行同位体ですか?」 「アフロだけで具志堅認定するんじゃないわよ」  バカみたいなやり取りを交わしたあと、綾子が男の名前を告げることで本題を話し始める。 「矢巻 安夫。元ウラシマの人間よ」  綾

          小説ですわよ第3部ですわよ3-2

          小説ですわよ第3部ですわよ3-1

          ※↑の続きです。  2023年 3月29日(水) 08:47。  いつもならば一件目の返送者を轢きにかかっている時間だが、探偵社の仕事は毎週水曜と土日が休みだ。  舞は目覚ましをセットせず、自然と意識が覚醒した。真冬特有の寒さによる寝起き直後の倦怠感はない。まだ夜は冷えこむものの、すっかり春を迎えていた。だから、なんの後悔もなく寝室のベッドから、するりと抜け出ることができた。快眠によって、昨夜に抱えていた疲れはすべて溶け消えたことを改めて全身で感じる。  洗面所で歯を磨い

          小説ですわよ第3部ですわよ3-1

          小説ですわよ第3部ですわよ2-5

           王は眠ったイチコを部下に運ばせ、さらなる手打ちの条件を綾子に突きつけた。  あまりに一方的な要求に、綾子は残った最後の闘志で眼光を光らせる。 「ウラシマの外に出てきた返送者には容赦しないわよ」 「立場がわかっているのか?」王が声色に苛立ちを孕ませる。 「そちらこそ。貴方が手綱を握っていれば、飼い犬たちが無駄死にすることもなかったでしょうに」 「貴公らの奴隷も同じこと。球遊びだけに興じていればよかったものを」 「……」 「……」  睨み合いの間があってから、綾子は血で赤く染

          小説ですわよ第3部ですわよ2-5

          【日記】私が一文字 隼人になった日

           酒を飲んでいたら、素晴らしい思い出が急によみがえったので備忘録として記します。  かなり昔のことなので、正確には覚えていません。私が勝手に想像で補完している部分もあるでしょう。  今から三十数年前。  幼稚園に通う前か、通いたてのころでしょうか。  私は母に連れられ、近所の公園で遊んでいました。  おそらく一番好きだった砂遊びをしていたのだと思います。  夢中になっていると、背後、それも高いところから声が飛んできました。 「ショッカーめ、どこに隠れた!」  ショッカーと

          【日記】私が一文字 隼人になった日

          小説ですわよ第3部ですわよ2-4

          ※↑の続きです。  1984年 4月8日 日曜日 13時半過ぎ 仏滅。  ピンピンカートン事務所の3階。現在ではイチコと軍団が雑魚寝する居住スペースとなっているが、この時は綾子とイチコが暮らしていた。ちなみに岸田は1回の駐車場スペースにある犬小屋で生活している(彼の正体は綾子の使い魔である狼であるため、さして不満はなかった)。  春の陽光が窓から差しこみ、綾子とイチコを散歩へ誘うが、ふたりは部屋の一角に置かれたテレビにかじりついていた。流しで岸田が皿を洗う音が、少しうるさい

          小説ですわよ第3部ですわよ2-4

          小説ですわよ第3部ですわよ2-3

          ※↑のつづきです。  綾子は、後に森川イチコを名乗ることになる女を引き起こし、砂糖水が並なみなみと注がれたバケツにその顔を突っ込む。乾き切り、青ざめた肌が沈んでいく。 「んぐんぐ……」  女は本能的に、砂糖水を勢いよく喉に流しこみ始める。最初こそ『飲みこんで』いたが、徐々にバキュームカーのごとく『吸引』し始める。 「カポッ……ジュポポポポポポポポポポ!!」  下品な音を立てながら、1分も経たぬうちバケツの砂糖水は底をついた。イチコの目は生気で光っていたが、まだ肌の調子は悪そ

          小説ですわよ第3部ですわよ2-3

          【日記】仕事と創作

           新しい仕事に就いてから、約半年が経過しました。  おかげさまで今のところは順調です。  仕事をこなすための精神的な体力も、ちゃんと戻りました。  良い緊張感はあれど、嫌なピリピリ感はなし。  粛々と仕事ができています。  これから本格的に忙しさは増していきそうですが、創作をする心の余裕がやっと生まれ始め、趣味の小説執筆を再開することもできました。  今の仕事は小説とは比較的近い領域にあり、仕事で消耗した脳みそで趣味小説を書けるのか不安でした。というのも「仕事とは別の部分で

          【日記】仕事と創作

          小説ですわよ第3部ですわよ2-2

          ※↑の続きです。 「イチコの記憶と、真の名前を返す」  おっちゃんが提示した条件に、イチコは目を見開いたまま固まる。そしておそるおそる、おっちゃんに視線を移す。 「……マジでございますか?」なぜか敬語だ。 「俺がイチコちゃんに嘘ついたことあるかい? ブチ殺すぞ」 (今さっき、身分を偽造して依頼してきただろ! ブチ殺すぞ)  舞はツッコミを心の中に留めた。ここで余計なことを言えば、イチコの記憶と本名を知るチャンスが水の泡になる。  おっちゃんは、地面に落ちたイチコのタバコの灰

          小説ですわよ第3部ですわよ2-2

          小説ですわよ第3部ですわよ2-1

          ※↑の続きです。 「10年前までウラシマにいたって……」  舞は路肩にピンキーを止めて話を聞くためにハンドルを切ろうとするが、イチコに運転を続けるようにと手で制される。  以前、舞とイチコがウラシマに赴いた際、イチコは「王と10年前、一度だけ会った」と言っていた。嘘をついていたのか? ずっとウラシマにいた期間を「一度」と解釈するならば間違っていないが……  ここでピンキーがカーナビ越しに告げる。 「お話し中のところ、すみません。間もなく目的地に到着します」  ただのカーナビ

          小説ですわよ第3部ですわよ2-1

          小説ですわよ第3部ですわよ1-4

          ※↑の続きです。  『洋食 イエロー』から出ると、珊瑚は自転車で探偵社の事務所に向かっていった。舞とイチコはそのまま午後の仕事に移る。近くの駐車場からピンキーがひとりでにやってきて、舞たちは乗車した。  舞たちが所属するピンピンカートン探偵社の主な仕事は『返送者』の調査と対処だ。返送者とは、異世界に転生したが何らかの理由で、この世界に帰還した者のことである。彼らの大半は転生の際、魂が神々の腸なる異空間を通過した影響で超常的な能力を得ている。その能力を悪用し、この世界に害な

          小説ですわよ第3部ですわよ1-4