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小説ですわよ第3部ですわよ3-4

※↑の続きです。

 綾子は、愛嬌もなければショッキングピンクですらない異形の武装トラックを『初代ピンキー』と呼んだ。カーナビ画面に映る『それ』を、イチコが片眉を上げながら目を凝らす。
「私と姐さんは、こんなイカついトラックに乗ってたの?」
「言っとくけど、悪趣味な装備は後付けよ。元々の見た目は普通のトラックだったし、色もピンクだったわ」
 綾子によれば、再返送するために必要な衝突エネルギーを魔法だけで捻出するのが難しく、車体の質量と馬力で補う必要があったという。魔法の改良によってハイエースのサイズでも再返送が可能になったというわけだ。
「ウラシマとの戦いで跡形もなく吹っ飛んだと思ってたけど……修復されていたのね」
「…………」
 綾子が懐かしさと悲しみを声に滲ませる一方、当時の記憶を失ったイチコは真顔で画面の初代ピンキーを見つめる。
「ですが、どうして『先輩』を……?」
 現ピンキーが矢巻たちの企みを気にかける。初代を魔改造して何をしようというのか。おそらくウラシマ絡みの、ロクでもないことなのは間違いないだろうが……

 そんな話をしていると、工場の方からケダモノの唸り声が轟く。その衝撃は空気を震わせ、数百メートル離れた現ピンキーの窓を振動させた。初代ピンキーのエンジンが起動したのだ。イチコと舞は表情を凍りつかせたが、すぐに衝撃は止まった。ふたりは顔を見合わせ、安堵のため息をもらす。
「すごい、これが『先輩』のパワー……!」
 ピンキーから初代に対しての畏敬が感じられた。その反応が嬉しいのか、綾子は通話越しでもわかるドヤ声で語る。
「あんなもんじゃないわ。初代が本気を出したら、エンジンが稼働する衝撃波だけで、周りの建物なんか吹っ飛んじゃうわよ」
「自慢してる場合じゃないでしょ、社長。だったら初代を放置してちゃまずいじゃないですか」
 ご高説を舞に邪魔され、綾子は露骨に不機嫌そうな声で応える。
「ちっ、わかってるわよ! だけど初代は、私が魔法をかけなければエンジンが停止するようになっているから。ほら、今みたいに」
 取り繕った直後、綾子は「でも……」と付け加える。今になって初代を修復しているということは、エンジンを稼働させる別の方法があるのではないか。綾子はゴールドに、工場内の音声を盗聴するよう命じる。

「盗聴はいいよな~。情報が映像より少ない分、想像で楽しめる」
「気持ち悪いこと言ってないで、早くなさい!」
 ゴールドは綾子に怒鳴りつけられ、事務所からの遠隔操作でドローンを工場に接近させた。男たちの会話が、カーナビのモニターを通じて聞こえてくる。最大ボリュームにしても蚊の羽音程度しか聞こえないので、舞たちは耳をモニターに近づけた。

「やっぱガソリンだけじゃ無理だよな~」
「吸血鬼の魔法が必要だってんなら、そいつを拉致ってくりゃいいだけじゃね?」
「できたら苦労してねぇよバカ。迂闊に手を出してみろ、世界中の吸血鬼が報復しにくるぞ」
「ヤクザや半グレよりタチ悪ぃな」
「だから矢巻さんは、魔法の代わりに――」

矢巻の部下たちの会話より

 ゴールドの「やべ」という呟きと同時に、工場内の会話が途切れた。
「ドローン壊れたっぽい。このままだと工場内に墜落する」
「おい!!」
 舞、イチコ、綾子、ピンキーの怒声がハモった。
「姐さん、どうする? ドローンが見つかったら、ウチらが動いてることバレちゃうよ?」
 綾子の代わりに応答したのはゴールドだ。
「このドローン、矢巻たちと敵対してる半グレからパクったヤツだから大丈夫。自爆させるよ」
「なにが大丈夫なのよ! それに自爆って――」
 焦る綾子が聞き終える前に、工場の上空で赤い閃光が上がる。直後、さきほどまで盗聴していた声が荒ぶり、静まった夜の工場地帯に反響する。
「すぐにそこから撤退して! あとゴールドは来月お小遣いなし!」
「うっひひ~っ!」
 綾子の怒りと、危機感が全くないゴールドのキモ笑いをよそに、イチコはサイドレバーをバックに入れてピンキーを急速発進。勢いのままスピンターンで車体を180度方向転換させ、岩苦月いわくつきの工業地帯を弾丸のように抜け出していった。

「昨夜20時ごろ、岩苦月市の工業地帯にて爆発が発生しました。岩苦月警察署は爆発について、いわゆる半グレと呼ばれる準暴力団『不流珍ふるちん』と『万愚理返まんぐりがえし』」の抗争によるもので「いつもはロケット弾が飛び交っているので、今日は可愛いもの」と発表しています。近隣住民も当局の聞き込みに対して「物足りない」「子供が花火で遊んでいると思った」と答えています。尚、この爆発による死傷者はないとのことです。

ちんたまテレビ 朝の情報番組『起きろ、バカ市民!』より

つづく。