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避難階段

モダンなマンションの廊下の隅にあるドアを開けると、質素な避難階段がある。憂鬱な時、特に外出したい天気や時刻でもない時、私はそこに行く。無心に上り下りして息切れする頃には、僅かに気分が晴れる。それでも未だ帰りたくなくて、階段に座ってオーディオブックを聞いたりする。自動の電気は消え、暗闇が心地良い。時々、私の動作で電気がついては、また消える。しかし、数十分後にはもう戻らなくちゃと立ち上がり、再度ドアを開けて派手な廊下に戻る。深呼吸をして、部屋の鍵を開ける。

さっきまで私をクタクタにしていた騒がしさは、再び子供らしい可愛い声として私の耳に届く。それでも、出来る限り独りの時間を引き延ばそうと、暗い寝室の窓辺に座ってビールを飲みながら外を眺める。数分も経たないうちに、嬉しそうなちびちゃんに見つかって、現実に戻る。

子供達と荷物両手では、エレベーターが不可欠な階に住んでいる。しかし、どちらかひとつ選ぶとしたら、非常時でも使える階段だろう。簡素が一番だ。度々助けてくれる、心の非常階段。自分も、いつも飾らずそこに居る避難階段のようでありたい。

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