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#オリジナル小説
【連載小説】『晴子』7
気が付いたら、リビングのソファーの上でクッションを抱いて眠っていた。
西日のまぶしさに目覚めた私は、ソファーのひじ掛けの所に背をもたれさせて、半分身体を起こした。テレビを見る気にもなれず、窓の外を見るともなく眺めた。夏の夕方は、まだまだ明るい。
飲食店の仕事は、休みの日が世間の休日と一致しないことも多い。今日も仕事は休みだが平日で、だから休みの日にただでさえ数少ない友人と会う約束を取り付ける
【連載小説】『晴子』10
Electric Light Orchestraが流れている。人が通り過ぎて、その都度微妙に空気が鈍く動くのを肌が感じ取る。音楽は多分、私の横にあるCDショップからだ。最近ではCDショップも経営が厳しいと聞くが、それでも何とか持ちこたえている店もあるのは、根強い音楽ファンと最近確立されたアイドルのビジネスモデルの賜物なのだろうか。私は経済には疎いから、どれだけ考えても正解にたどり着くことはなさそ
もっとみる【連載小説】『晴子』11
その日は日曜日で、休日でも起床時間はほとんど変わらない私だが、なぜか昼過ぎあたりで眠気に襲われた。いつも仕事をしている時は、こんな時間に眠くなったりしないのに。仕事中の緊張感が(あるとしても、もうすっかり慣れっこになっているだろうが)、本来であれば来るべき眠気を遠ざけていたのかもしれない。
日曜日が休日になるのは久々のことだった。休日の店はかき入れ時という事もあり、大概仕事に出ている。仕事がな
【連載小説】『晴子』14
寒くなったわけではないが、日中でも汗をかくことがすっかりなくなった。風が乾いていくのを日に日に感じる私の肌に今、窓から差し込んだ和らいだ日差しが落ちている。暖色の照明が落ち着いている喫茶店で、あの人を待っている。
秋の休日だが、それは私にとってそうなのであって、街やあの人にとっては平日だ。外を見ると、通りの行く人の顔は仕事中の顔で、街全体が緊張感に満ちている。まだ昼頃だから、当たり前と言えば当
【連載小説】『晴子』16
女?
電話の向こうから、女の声がした。いや、女と呼べるほどその声に色気もアンニュイも感じなかったから、女の子と呼んだ方が適切だろうか。けど、声が聞こえてすぐに電話は切れてしまった。それに、声が遠くて何を言っているのか、いまいち聞き取れなかった。
今夜は、なんとなく寝付けないでいた。外で雨がさらさらと降っているのが分かる。秋の真ん中で、鳴いていた虫も息を潜めつつある。どこかで、枯葉だろうか、軽
【連載小説】『晴子』17
どうして俺が今、島田と一緒にホテルのベッドで寝ているのかを説明することは、当事者にとってもかなり難しい。
井川を放置して、島田と一緒に駅に向かって歩いていた俺は、この上なくムシャクシャしていた。井川に散々振り回され、男女関係なく参加者には顰蹙を買われ、彼の友人(ということになっている)の俺と島田が忙しなく立ち回らなければならなかった。
雨?そうだ、雨だ。駅まで歩いている途中で、雨に降られたの
【連載小説】『晴子』19
Bill Evansの音楽は、私にとって理想の生活の比喩だと思う。
彼の音楽は、一つ一つ水滴を落とすように音が並べられていると思う。大胆さと繊細さ、すなわち伴奏とメロディーの対比ではなく、ポツリポツリとしたメロディーが曲全体を導いていくような。「神は細部に宿る」なんて格言を信じているわけではないが、繊細さが全てを構成していくような生活に憧れているのは誰の影響なのだろう。
あの人が教えてくれた
【連載小説】『晴子』20
Sonic Youthは、80年代のオルタナロックシーンを語るにおいて、やはり欠かすことはできない。彼らの登場はもはや事件と言っていい。ステージではパンク的精神を彷彿させるスタイルを貫く一方、LSDなどのドラッグによる幻覚の連想させるサイケデリックな世界観を体現している。サーストン・ムーアの過剰ともいえる歪みをのせたジャズマスターのサウンドは、シューゲイザーからの影響をうかがわせるが、シューゲイ
もっとみる【連載小説】『晴子』21
あの人にとって、名前は願いではなく記憶だったのだ。
それを聞いたとき、私は妙な納得と満足の感覚があった。あの人が私に付けた名前に、過不足がなく、私にピッタリな感じを受けたのは、その名前があの時あの人と出会った私と何もかもが等しかったからだ。名前とその時の私という存在が一切の均衡を保っていたからだ(ちなみに、例えば名前負けとかそういう類の現象は、この不均衡から生じるのだろう)。
仕事が終わった