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【読書感想文】 後悔や哀しみと決別しようとする6つの家族の短編集 『海の見える理髪店』

現在、NHK BSプレミアムで再放送されている、1997年に放送された連続テレビ小説『あぐり』が、あと少しで最終回を迎えます。

作家の吉行淳之介と女優の吉行和子さん、作家の吉行理恵の母であり、洋髪美容師の草分け的存在と言われた吉行あぐりがモデルの主人公が、明治、大正、昭和、平成を駆け抜けた半生記。

平均視聴率は28.4%、最高視聴率は31.5%という大ヒット作です。

主人公・あぐりを演じたのは田中美里さん。

1997年の放送当時のバイタリティーに溢れた面白いドラマだな、という印象は、新鮮な気持ちで再放送を観ている今も変わりありません。

その『あぐり』第2話で、まだ子供だったあぐりが、"その方が可愛い"とかいうような理由で、友達のフランス人形の長い髪の毛をバッサリと切ってしまい、ちょっとした騒動を巻き起こしていました。

かく言う私も子供の頃、友達のではなく自分の物ですが、外国人のお人形さんの長いブロンドの髪の毛を、あぐりと同じような理由でバッサリと切ってしまったことがあります。

その所業しょぎょうを親に見つかり、そんなに怒らなくてもいいじゃないかと思うくらい怒られましたが、今改めて無惨に禿げはげ上がったあの寒々しい後頭部を思い出すと、あれは怒られても仕方がなかったなと反省しております。

過去と現在の後悔や苦悩、哀しみと決別しようとする6つの家族の短編集

本日は、『海の見える理髪店』(荻原浩 著)をご紹介します。

第155回直木三十五賞受賞作

過去と現在の後悔や苦悩、哀しみと決別し、清算しようとする6つの家族の短編集です。

話題になっていた受賞当時はなぜかためらいがあって手を出さなかったのですが、Twitterのタイムラインを眺めていたら、この作品の読了ツイートを度々目にしたので遅ればせながら読ませていただきました。

人との出逢いと同じように、本にも縁とタイミングがあるように私は思っています。

登場する人々の人生が好転してほしい

6つの物語の中で私が一番好きなのは、表題作の『海の見える理髪店』です。

お客さんに、しかも初めての人に、なんでこんなに深い話をするのだろう、と訝しくいぶかしく思っていたら、ラストの展開が予想外で驚きました。

そして、胸が締めつけられるような、切なくもじんわりと温かい気持ちになる結びの言葉が素敵です。

一番印象的だったのは、小学生の女の子が主人公の『空は今日もスカイ』。

子供の無力感と大人の理不尽さや先入観、固定観念がやるせなくて、心が痛みます。

でも、女の子の自らの力で前進しようする勇気と正義感が一筋の希望の光に感じられ、すぐには変わらないのかもしれないけれど、何かが報われるような、そんな気持ちにさせられました。

家族の形も人生も様々で複雑ですが、この作品に登場する人々の人生が少しずつでも好転してほしいと願わずにはいられません。

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P.S.

読んでいて6つの物語それぞれに色彩を感じました。

ターコイズブルー、レモンイエロー、テラコッタ、群青色ぐんじょういろ、グレー、アイボリー

あくまでも主観ですが、こういう感覚を得るのも乙なものです。

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