宮本さな(もちうさ)

小説、エッセイ、実用書や漫画などジャンルは問わず気になった本は何でも読みます。普段はゆ…

宮本さな(もちうさ)

小説、エッセイ、実用書や漫画などジャンルは問わず気になった本は何でも読みます。普段はゆるめの社会人。趣味は音楽鑑賞。猫は憧れ、うさぎは崇拝

最近の記事

【読書感想文】 薬指の標本

本日は、『薬指の標本』(小川洋子 著)をご紹介します。 この本は、表題作と『六角形の小部屋』の2編が収載されています。 『薬指の標本』 仕事中の事故で左手の薬指の先を失ったことをきっかけに、偶然たどり着いた標本室で働き始めた21歳の女性と標本技術士との特別な関係を描いた物語。 静謐で透明感のある美しい文体から紡ぎ出されているのは、濃密で官能的な非日常の世界。 標本室という謎めいた特別な密室で進行する歪んだ愛と究極の恋に、背筋がぞくりとしつつも惹き込まれてしまいました

    • 【読書感想文】 52ヘルツのクジラたち

      本日は、『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ 著)をご紹介します。 2021年本屋大賞受賞作 壮絶な人生を生きてきた女性が、すべてを捨てて移住した海辺にある田舎の町で、母親に虐待されている少年と出逢い、自らの過去の痛みと向き合う物語。 ふと、今の私は52ヘルツの声を聴くことができるだろうか、私が52ヘルツの声を上げたならば、その声に気づいてくれる人がいるのだろうか、と思ったら泣けてきました。 主人公や少年の人生に次々と押し寄せる苦難は、世に蔓延る社会問題のすべてで心

      • 【読書感想文】 四畳半神話大系

        本日は、『四畳半神話大系』(森見登美彦 著)をご紹介します。 四畳半の下宿で暮らす大学3回生の主人公が、夢見ていた薔薇色のキャンパスライフとはかけ離れた奇妙奇天烈な日々を4つの並行世界で繰り広げる物語。 結構早い段階で、私は一体何を読まされているのだろうという思いが、胸の奥からふつふつと湧き上がってくるのを感じました。 主人公はどの世界でも、結局は、出逢う人に出逢い、手に入るものは手に入れ、意味不明な馬鹿馬鹿しい目に遭います。 私はいつの間にかこの珍妙な面白さに呑み込

        • 【読書感想文】 本日は、お日柄もよく

          本日は、『本日は、お日柄もよく』(原田マハ 著)をご紹介します。 密かに片思いをしていた幼なじみの結婚披露宴で伝説のスピーチライターと出逢い、衝撃を受けて弟子入りした普通のOLがその仕事を通して成長していく物語。 この本を手にした時に想像したストーリーとは違う展開で驚かされました。 もし私がほんの数ヶ月でこんなに人生が劇的になったなら、戸惑うどころじゃないだろうな、と思わずにはいられません。 まさに運命の出逢いです。 しかしながら、スピーチライターという仕事とスピー

        【読書感想文】 薬指の標本

          【読書感想文】 西の魔女が死んだ

          本日は、『西の魔女が死んだ』(梨木香歩 著)をご紹介します。 学校に行けなくなった中学生の女の子が、田舎に住む"西の魔女"ことイギリス人の祖母の家で暮らすようになり、祖母の指南で魔女修行を始め、大切なことに気がつき、成長していく物語。 何らかの理由で居場所が無くなってしまい、どうしたらいいか分からなくなった時に、安心して駆け込めて、無条件ですべてを受け止めてくれる人と場所があったならどんなに心強いことでしょうか。 この物語の主人公のその存在と場所が、祖母と祖母の家であっ

          【読書感想文】 西の魔女が死んだ

          【読書感想文】 陰陽師

          本日は、『陰陽師』(夢枕獏 著)をご紹介します。 平安時代、陰陽師の安倍晴明が親友の源博雅と京の都で起こる様々な怪異事件に立ち向かい、解決していく物語の第1巻 現代は何かしらの明かりが一晩中灯っていますが、電気が無い平安時代の夜は本当に闇夜だったでしょう。 そして、科学の概念がない時代ならば、人々が神々の存在を尊み、目には見えない力を強く信じ、不可解な現象に敏感であったと思うので、怪異と思われる事象は今よりも遥かに恐ろしく、故に身近なものだったのだろうと想像します。

          【読書感想文】 陰陽師

          【読書感想文】 猫のお告げは樹の下で

          本日は、『猫のお告げは樹の下で』(青山美智子 著)をご紹介します。 神社で出逢った不思議な猫から葉っぱの「お告げ」を受け取った7人の連作短編集。 この作品自体が私に授けられたお告げのように感じ、登場する主人公たちとは境遇がまったく違うのですが、それぞれの物語に気づかされるものがありました。 もしかしたら、私だけではなく、誰もが抱いている絶望感や悩み、望みをこの7人が体現しているのかもしれません。 人間は弱いもので、いつも無意識のうちに自分で自分の視界を狭めてしまったり

          【読書感想文】 猫のお告げは樹の下で

          【読書感想文】 夜は短し歩けよ乙女

          本日は、『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦 著)をご紹介します。 第20回山本周五郎賞受賞作 京都を舞台に、後輩である意中の彼女を振り向かせたい大学生が、偶然の出逢いを装って彼女を追いかけるその先々で、2人それぞれに珍妙な事態を巻き起こしたり、遭遇したりする恋愛ファンタジー。 久しぶりに奇人変人しか出てこない小説を読みました。 これぞ本当のファンタジーなのではないでしょうか。 古風で独特な文体と想像の斜め上を行くどころの騒ぎではない展開にいつの間にか魅了され、夢中に

          【読書感想文】 夜は短し歩けよ乙女

          【読書感想文】 かがみの孤城

          本日は、『かがみの孤城』(辻村深月 著)をご紹介します。 2018年本屋大賞、他多数受賞 似た境遇の学校に通えない7人の中学生たちが、ある日突然鏡の中にある城に集められ、願いを叶える鍵を探す物語。 中学生たちの心情の綴り方が巧みで、それぞれの事情に胸が痛んだけれど、終盤で怒涛のように解き明かされる謎に驚き、感動で涙しました。 もし私が主人公たちと同じ年頃にこの作品と出逢っていたら、そのリアリティに打ちのめされていたかもしれません。 子供の世界は家と学校だけになってし

          【読書感想文】 かがみの孤城

          【読書感想文】 七つの会議

          本日は、『七つの会議』(池井戸潤 著)をご紹介します。 大手企業の子会社である中堅メーカーと取引先で繰り広げられる不正と正義の8編からなる企業小説。  読み進めていくうちに、自分もとんでもない企業の闇に足を踏み入れている感覚がしてきて、後戻りできない恐怖に身震いしました。 でも、最初は点だったものが、次第に線になり、どんどん想像を超えた結末に向かっていく様はスピード感があって面白かったです。 しかしながら、8編すべて主人公が違っていて、それぞれの家族関係や生い立ち、事

          【読書感想文】 七つの会議

          【読書感想文】 祝祭と予感

          本日は、『祝祭と予感』(恩田陸 著)をご紹介します。 『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ短編小説集。 本編の補足的な感じで各編が短いですが、コンクール前後に起こっていた登場人物たちの知られざる秘密がドラマチックに描かれています。 この作品を読むとより本編に深みが感じられ、文章から奏でられる音楽がさらに美しく聴こえてくるようです。 その中でも私が特に感動したのは、コンクールの課題曲の誕生秘話が描かれた切なくも優しい物語「袈裟と鞦韆」と、ピアノの巨匠とまだ幼かった主人公との運命的

          【読書感想文】 祝祭と予感

          【読書感想文】 蜜蜂と遠雷

          本日は、『蜜蜂と遠雷』(恩田陸 著)をご紹介します。 第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞 受賞作 国際ピアノコンクールを舞台に、若き天才ピアニストたちの葛藤や音楽への愛情を描いた青春群像小説。 クラシック音楽は詳しくないのですが、文章から音楽が聴こえてくるという稀有な体験をしました。 兎に角、表現力が凄い。 かなりボリュームのある文章量にも関わらず、自分もピアノコンクールに参加して、観客として聴いているような心地良さを終始感じ、さらりと読めてしまいます。 ピ

          【読書感想文】 蜜蜂と遠雷

          【読書感想文】 たゆたえども沈まず

          本日は、『たゆたえども沈まず』(原田マハ 著)をご紹介します。 19世紀末のパリ。 まだ無名の画家だったフィンセント・ファン・ゴッホとその兄を献身的に支え続けた弟、テオドロス(テオ)、そして、彼らと親交を深め、寄り添った2人の日本人画商の物語。 別々のようで一心同体だったゴッホ兄弟の、お互いを強く愛するが故の激しい苦悩が哀しく、胸が痛みました。 フィンセントが命と心をすり減らし、それを叩きつけるように描き、テオに送り続けた絵画の数々はフィンセントの死後、世界中の多くの

          【読書感想文】 たゆたえども沈まず

          【読書感想文】 緊迫感の中に家族愛と友情が溢れている 『AX』

          屋根から煙突が出ているお宅が近所にあります。 敷地の隅に薪がストックされているところを見ると、暖炉か薪ストーブがあるようです。 今年のゴールデンウィーク、ふと見るとどこから入手したのか駐車スペースに大量の薪が山積みになっていて、オレンジ色のツナギを着たご主人と思われる男性が薪割りを始めました。 しかし、量が多すぎて1日では終わりません。 そして、山積みのまま放置されること数日、突然それが綺麗に消えてなくなっていました。 見える限りですが、ストックの量はそんなに変わっ

          【読書感想文】 緊迫感の中に家族愛と友情が溢れている 『AX』

          【読書感想文】 まったく予想がつかない怒涛の展開に圧倒 『マリアビートル』

          東北新幹線は1982年に開業しました。 以来40年、毎日たくさんの人を乗せて走っています。 私が初めて新幹線に乗ったのは10代の頃でした。 当時はお菓子を食べるのに忙しく、景色を眺めたり、感慨に耽ったりすることはまったくありませんでした。 しかし、頻繁に乗るわけではないせいか、大人になった今の方が乗車すると何となくワクワクするので不思議です。 まったく予想のつかない怒涛の展開が繰り広げられる様に圧倒 本日は、『マリアビートル』(伊坂幸太郎 著)をご紹介します。 東

          【読書感想文】 まったく予想がつかない怒涛の展開に圧倒 『マリアビートル』

          【読書感想文】 息づかいが聴こえてきそうな描写と後半の伏線回収が見事 『グラスホッパー』

          私は虫が苦手です。 夏の夜に窓を開けるとたまに飛び込んでくる謎の虫に何度絶叫したか知れません。 別に何の悪さもしないと言われても、同じ空間に居るのは恐怖です。 子供の頃はカブトムシを飼っていたことがあるのですが、今となってはよく飼えたものだと不思議に思えます。 克服するのはもうとっくに諦めているので、せめて害がないものとは、なんとか上手く交わしながら共存していけたら良いと考える今日この頃です。 「今まで書いた小説のなかで一番達成感があった」 本日は、『グラスホッパー

          【読書感想文】 息づかいが聴こえてきそうな描写と後半の伏線回収が見事 『グラスホッパー』