監督★4【10冊読むまで帰れま10・6月④】野球小説の金字塔
監督・海老沢泰久【評価★4】
※評価はmoaiの独断と偏見で、5段階
沢木耕太郎氏のスポーツノンフィクションを主戦場にしてきた自分としては、スポーツのフィクションを読む機会が今までなかった。というか、遠ざけてきたというのが本音だ。
ノンフィクションの方が事実に基づいており、「事実は小説より奇なり」という言葉があるぐらいだから。
でも今回手に取った「監督」はある革命的手法をもってして、リアリティに満ちたフィクションを完成させた。
それは、実在の名前を主人公にして、そのままフィクションに登場させたことにある。
その名は広岡達朗。
現実世界では元巨人のスタープレーヤーで、監督としてはヤクルト、西武を日本一に導いた名将である。
その広岡が同性同名で「監督」に出現する。
ドンケツ・エンゼルスと言われるドアマットチームの監督として。
小説では、78年に日本一に輝いたヤクルト・スワローズを元にしており、実際広岡が日本一に導いている。
この小説内で展開される広岡監督の行動は、ほぼ実際の広岡監督の近似値と言えるだろう。
勝てるチームのメンタリティは、こうやって導かれるのか!と非常に興味深い。
チームの負けが込んでいる時に投げかけた言葉がこちら。
フィクションでも、現実でも広岡監督はこうやって、チームの指揮を上げたのだろう。
この「監督」がさらに秀逸なのは、エンゼルスのメンバー以外の登場人物が、現実世界と一緒に設定してある点。ジャイアンツは出てくるし、江川は出てくるし。この設定によって、名前だけで登場人物の想像ができてしまうこと。この手法を思いついた海老沢泰久氏は天才である。
道中、世界で広岡と宿敵だった、川上哲治もしっかり登場する。悩む広岡が川上に相談するシーンが興味深い。
巨人V9時代を支えた川上哲治氏の勝負哲学。
「迷った時は何もするな」
この境地に至れるのが素晴らしい。僕みたいなサンピンだと、ドタバタしがち。勉強になります。
またこの小説に海老沢氏が託したのは、球界の盟主、打倒ジャイアンツが成された時の痛快さだろう。
元巨人の広岡がジャイアンツを倒していくサクセスストーリー。これが、アンチ巨人にはたまらない。
ジャイアンツを下野したコーチに対して、広岡が声を荒げるシーン。
「ジャイアンツよりいいチームをつくって、それを証明するんだ」
人生で一度でいいからこんな格好いい言葉を吐いてみたい。
野球小説の金字塔です。ぜひご一読を!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?