高校時代★3【10冊読むまで帰れま10・7月⑥】何者でもない自分を認めて
「高校時代」三田誠広【評価★3】
※評価は独断と偏見、5段階
芥川賞作家・三田誠広の自身の高校時代をモチーフにした小説。何年前かに古本屋で買って以来、本棚で眠っていた。僕は何度も公言しているように、この手の自伝的小説が大好きである。
あらすじは、進学校に入った主人公が自身のアイデンティティに悩み、休学するまでを描く。実際に三田氏も休学している。
あらすじを書いてしまうと非常にあっさりはしている。
だが、それが物足りないわけでもなく、淡白でもなく、それはそれで成立している。ズバリ書き手の力と言える。華美すぎる文体は読んでいて疲れるが、三田氏の文体は静かであり、且つ内に秘めたパワーを感じ取ることができる。
誰もが高校時代、「自分は何者になのか」と考えたことはあるだろう。三田氏は学園闘争の黎明期を高校時代に過ごし、悶々とする。
悶々とした先に行動として、何が待っているのか。勉強以外の「勉強」に精を出し始め成績が急降下していく。これは、勉強のできなかった僕らには当然のイベントだった。
「俺は人と違うんだ!」ということを証明するために、勉強じゃないフィールドに流れていく。
三田氏の場合は、レーニンやトロツキーの本を貪り読み、僕の場合はエマーソン・レイク&パーマーやピンクフロイドなど聞き狂い、サブカルに熱を出したもんだ。
ただ、主人公=三田氏と凡人の私が違ったのは、休学してまで、物事を突き詰めようとしなかったこと。たとえサブカルで洋楽や映画に精を出していたことが理由でも、休学して何かに膨大に時間を使っていいじゃないか。
仮に休学しても、変わらなかったとも思う。僕にそんな勇気も決断力もなかったし、そもそも在学中に1秒足りともそんなことは考えてこなかったから。
たいした成績でもなく、何かに打ち込みもしなかった僕はその後、たいした大学にも行けず、今はただひたすら凡庸な人生を送っている。「自分は何者だろう」と、今でも考えながら。
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