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すきま時間の3分で読める-エッセイ

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身近な存在がいなくなるということ

身近な存在がいなくなるということ

いつも隣に居て当たり前だと思っていた存在が、

急に、いなくなる。

こんなご時世だからこそ、

今はそんな話がしたい。

2020年4月1日。

明日、私は社会人になる。

そんな門出を控え、学生最後の日をただなんとなく過ごすはずだった今日、

奇しくも“その日”は訪れた。

3月30日。

住み始めて1週間の社宅の片付けを昼過ぎに終え、ベッドでゴロゴロしていたそのとき、突如電話が鳴った。

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ホットミルクとかけがえのない嫌悪感

ホットミルクとかけがえのない嫌悪感

私はホットミルクが嫌いだ。

5年程前、まだ私が高校生だった頃の寒い冬の日。

寝坊して慌てて家を出て行こうとする私に、父が決まって玄関で差し出したのは、大嫌いなホットミルクだった。

ただでさえ猫舌なのに、表面に張り付いた膜が追い討ちをかける。

“何故熱くした?”

そんな思いを牛乳と一緒にグイッと飲み込む。

そして、明け方の痺れる空気で舌を冷やしながら、よく学校へ向かった。

そんなこんな

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ぜいたくなんて日常だ【新聞掲載】

ぜいたくなんて日常だ【新聞掲載】

私にとって、ぜいたくは日常だ。

どんなに裕福な暮らしをしてるかって?

家にプールがある大豪邸で……

なんて言えたらいいけれど、現実は6畳間に住む貧乏大学生である。

週に1回、自作の茄子の煮浸しをつまみに、1本130円の発泡酒を飲む。

こんな些細なことが、私にとってはぜいたくである。

何を隠そう、日常のレベルが高いのではなく、ぜいたくのハードルが極端に低いのだ。

少し前までは、大人数で

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私が私であるために

私が私であるために

私のことなんて、何にも知らないくせに。

そう思ってしまうことが多々ある。

そんな風に、苦しい思いも、悔しい思いもしてきた。

でも、そんなことなんて、思ってくれるな。

入学試験、就職活動。

そんな、人生を左右する大切なことでさえ、ほんの二、三十分、ましてやほんの数回顔を合わせただけで結果が決まってしまう。

私のことなんて、何にも知らないくせに。

そりゃ、そうだ。

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大きなミミの木の下で

大きなミミの木の下で

やっと会いに行けた。

誰かにとっては早朝のジョギングコース。
子供にとっては毎日の通学路。
犬にとっては存分に駆け回れる散歩道。

そんな日常の背景のひとつに過ぎないけれど、なんとなく心が穏やかになる川沿いの道。

その道を見守るように立つ1本の木の側が、私の特別な場所になりました。

今から5年と半年前。

ペットショップの眩しすぎる光の下、手のひらに包まれて震えながらも、唯一じっとし

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降り止まぬ雨の中、スクリーン越しにこう悟った

降り止まぬ雨の中、スクリーン越しにこう悟った

「表裏一体」この四字熟語が脳内で踊り出す、『天気の子』はそんな映画だった。

作中、駆け巡る感情に幾度となく振り回されながらも、心の奥底には間違いなく世の中の確信が芽生えていた。

晴れを望む人も居れば、雨に病まないでと請い願う人も居る。

自らの幸せは、気付かないところで他の誰かを痛めつけているかもしれない。

あの子の笑顔を支えているのが、地球の裏側の涙だったら?

「表裏一体」
幸せを選ぶ

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ばかやろう

ばかやろう

「箸の持ち方が違う」、「行儀が悪い」

幼い頃、父にはよく叱られた。
時には手を挙げさえしてくる父を、私は少し疎ましく思っていた。

中学生のとき、小さな事が原因で私は家出をした。
しかし、案の定行くあてもなく、父に連絡を入れて迎えにきてもらった。

「また怒られるのか……」

しかし、父が発したのは意外な一言であった。

「ありがとう」

後になってわかったことだが、この日父は会社を早退し、必死

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