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今はない、いとしい場所

NZの首都ウェリントンに数ヶ月だけ暮らしていたとき、大好きな場所がいくつかありました。そのひとつが、小さな公園の片隅にある小屋“THE SHARE SHACK”(以下シェアシャック)。

残念ながら、2020年になくなってしまったそうです。
それでもわたしがその場所について誰かに伝えたいと思ったのは、そこが今はもうない場所だとしても、心に残る場所だから。


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それはウェリントン市内中心部からほんの少し離れた公園の中にあり、周りは商業施設よりは住宅が多く立ち並んでいました。
一体何の小屋かというと、いらないもの、余ったものを、捨てずにシェアするための小屋。いらないものを誰かが持ってきて、欲しい人が持っていく。とてもシンプルな循環が成り立っていた場所なのです。

わたしもよく、宝物探し感覚でものを貰いに行っていました。
ものがタダで手に入るなんてことが、この消費社会で有り得るなんて!なかなかミラクルですよね。食べものを廃棄せず、欲しい人に無償で提供するというのも素敵。日本でもフードロスを減らすためのアプリなどが増えていますが、「企業の」ロスをなくすという意味合いがほとんど必ず込められています。それとは違う観点から成り立っていた、新しいーと言うよりも古いー「もったいない」のシェアの形です。

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実際にものが溢れる小屋の中から貰ったものは、近くのパン屋の売れ残り商品。大きなパーティーの余ったスイーツ。炊き出しのようなベジカレー。引っ越した大学生のクロゼットいっぱいの洋服。もう読まなくなった本。などなど。
それから、鋸や金槌などの貸し出しもしていました。こういうカーシェアリングのようなもののシェアリング、いいですね。DIYに凝っている人や、広い家でなければ、一家にひとつはいらないですし。

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卒業後引っ越しで処分したのか、大量の綺麗な衣類に出会いました。
ファッション好きの学生だったらしく、質も状態もいいものばかり。



こんな場所があれば人はものを買わなくなるんじゃ…なんて経済の心配をしてしまいそうですが、それはないと思います。当然、わたしもこれだけで生活していたわけではありません。食べものがない日もありますし、ここだけに頼って生きていくのは不可能。
ただ、ここ以外にも無料で食品配給(店舗の余ったパンから炊き出しのスープみたいなものまで、色々)をしている場所はあり、食べ物や衣類はほとんどお金がなくてもどうにか繋いでいけそうなのがすごいところだと思いました。
都市部はホームレスが多いのですが、それだけ貧困が見える化されている(社会的問題として認知されている=企業も協力姿勢にある)ということでもあるのかもしれません。ちなみに、救済活動で食糧を貰いに来ている人は、ホームレスだけでなくワーホリや学生などの若者、外国人労働者なども多くいました。

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夕方になるとカフェやパン屋などから廃棄を集め、無料で配布する慈善団体



日本だと、「いらないものは売る(少し前までは捨てる)」という意識が当たり前に感じます。もちろんNZにも、そういう店舗やwebサイトはありました。
だけど、NZで暮らしていた間に、いらなくなったものを「誰かやどこかに寄付・シェアするーそして循環させる」感覚を学びました。

資本主義社会であれば、ものに値段がつくことは当たり前。たとえいらなくなったものでも値段を付けられます。だけど、それって本当に自分にとって納得のいく健全な値段でしょうか。

わたしはNZに渡航前、ひとり暮らしの家を引き払うために大量のものを処分しました。買って日の浅いまだきれいなもの。自分では気に入っていたけど手離そうと思ったもの。質のいいもの。だけど、それらも流行でないから、年数が経っているから、在庫が多くあるから…などの理由で、わたしが考えていたような値段ではないことがほとんどでした。これなら、欲しい人にタダで貰ってもらって、喜んでもらえる方がよっぽどいいな。そう思うこともしばしばありました。
実際に、食器は当時勤めていた職場に持っていき、同僚たちにタダで引き取って貰いました。同僚たちは貰って嬉しい。わたしも喜んでもらい、しかも捨てずに済んで嬉しい。その感覚の延長線上に、このシェアシャックという小屋はあったのではないかと思います。


もちろん金銭のやり取りを含むシェアリングエコノミーが悪いわけではありません。日本では普通、赤の他人からタダで服や食糧なんか貰いませんから、当然わたしも今はモノを買っていますし、所有物を売ることもあります。
だけど、「ああ、欲しい人が近くにいたらタダであげるのになあ」と思うこともしばしば。そういう資本主義社会とグローバリゼーションの枠から飛び出し、狭い地域によりコミットしたこんな場所が、身近にある喜びと楽しさを多くの方に味わってもらう機会があれば、と思います。

ちなみに、一般市民がものを寄付し、売り上げはそれぞれの慈善団体で使用or寄付されるタイプのセカンドハンドショップがNZでは一般的だったのですが、似たタイプのものが近所にできていました!
シェアシャックは金銭のやり取りもない代わりに管理者が在中していないことも多かったので、日本ではなかなか難しい※と思うのですが、比較的取り組みやすい、この寄付慈善事業タイプも今後増えることを期待しています。



※…実はサスティナビリティで有名な徳島県の上勝町がこれと同じようなことにすでに取り組んでいます。まだ見に行けていないので全貌はわかりませんが、食糧以外は似ている印象です。





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