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包まれる安心感と、飲み込まれる恐怖。|大巻伸嗣 地平線のゆくえ

休日、ふと美術館に行きたくなったので、少し足を伸ばして弘前れんが倉庫美術館に向かった。その名の通り、以前倉庫として使われていたという煉瓦造りの建物の中では、アーティスト・大巻伸嗣 による東北地方初の個展が開催されていた。
大巻伸嗣の世界と、彼が青森県内をリサーチする中で見つめた自然、人々の記憶はどのように融合したのか。
拙い言葉ではありますが、見たこと、感じたことを綴ります。

作品は全て、撮影可の部分のみ撮影しています。
ネタバレ等ご容赦ください。


始まりと終わりの繰り返し

よく晴れた日だったので、展示室の暗さに目が慣れるまでにはなかなか時間がかかった。スタッフさんに足元を懐中電灯で照らしてもらいながら進むと、黒い空間の中で、光の玉が天井からゆっくりと落ちてくる光景が目に入る。
光の玉はシャボン玉にドライアイスの気体を閉じ込めたものなのだろうか?と思っていると、地面に着いて玉は割れ、中から気体がぼわぁっと出てきて霧散していく。しばらく待つとまた光の玉が落ちてくる。地面に着くと、割れて消える。この繰り返しが行われていた。ぼーっと眺めていると、この世は生命の始まりと終わりの繰り返しで、生き物が死んだらまた新しい生き物が生まれる、この繰り返しなのだということを考えさせられる。
耳を澄ますと、光の玉が割れる音が微かに聞こえる。虫の鳴くような小さな音と共に割れて消える光の玉の儚さに、宇宙の歴史から見たら、我々人間の命もこんなもんだよな…なんて考えたりしていた。繊細で美しい作品だった。

次の部屋に進むと、大きな一枚の白い絵が暗闇の中で輝いている。

Echoes Crystallization:Horizon

白く輝く絵は、神秘的な美しさを感じさせる。水墨画のようなタッチで山が描かれており、その山が地平線で反射している。よく見ると、山は菊の花や草が咲き乱れており、極楽浄土を彷彿とさせる。わずかな明かりを頼りにパンフレットに目を落とすと、解説には桃源郷にある蓬莱山を彷彿とさせる、と記載されていた。
確かに。

見えやすいように、コントラスト等調整しています。


後ろを振り向くと、この絵と呼応するように、壁に窪みが生まれていた。この窪みは錐体状になっていて、名前の通り最奥は点となって消失している。

Depth of ShadowーVanishing  Pointー

美しい風景と、それに呼応する消失点の関係は、始まりと終わり、天国と地獄、光と影など、相対する二つの存在を表しているように見えた。どちらか一つだけでは成立しないこの世の常理が、無彩色で鮮やかに表現されていた。
個人的には、この消失点と名付けられた点から放たれた光が、向かい側の壁に絵として投影されているかのように感じられた。消失と出現が同時に表現されているのでは?

包み込まれる安心感と、飲み込まれる恐怖

KODAMA

次の部屋に進むと、突然、森の中に迷い込んだ感覚に陥る。キツツキが木を叩くような、人間が金槌か何かで釘を打つような、そんな音がこだまする空間に、恐怖を抱きつつも安心感を覚えるという不思議な感覚を味わった。

恐怖を抱いたのは、森の中に1人迷い込んで、遭難したかのような感覚に陥ったから。
安心感を覚えたのは、雄大な自然に包まれる、居心地の良さを感じたから。
人間が文明社会に腰を下ろしてからかなりの時間が経ってしまったが、元はと言えば自然界で生きていた生物だ。文明社会と自然界の狭間で、「私はどちらに還るべきなのだろうか」と迷う感覚を覚えた自分がいた。

Liminal Air Space-Time:事象の地平線

次の展示は、大きな薄布が風で畝り、たなびく様子を光で照らした「Liminal Air Space-Time:事象の地平線」だ。それは、波が寄せて来る様子そのもので、一緒に聞こえる、波のような音は、津軽の人々の声なのだそう。これも、母なる海に包まれるような感覚と同時に、波に飲み込まれるような恐怖、雄大すぎる自然への畏怖を感じる作品だった。ぼーっと波の様子を眺めながら、海と共に歩んできた青森の人々のいとなみに想いを馳せる。
数分この部屋で過ごしただけで、海に飲み込まれるような感覚に襲われるが、果たしてこの部屋にずっといる美術館のスタッフさんは怖くならないのだろうか?

Echoes Infinity -trail-

無彩色の空間が続いていたが、カーテンをくぐった先に、突如として明るく鮮やかな空間が現れた。カラフルな曼荼羅のようで、先に紹介した《Echoes Crystallization:Horizon》が極楽浄土の山ならば、ここは極楽浄土にある花畑のような場所のように感じられた。

本展は、「地平線のゆくえ」と題されているが、この世にも様々な景色や風景があるように、あの世にも様々な地形があって、場所によって様々な景色が見られるのだろうな、と想像したりもした。あの世の地平線の向こう側には何があるのだろうか?

行ったこともない世界の想像が膨らむ。


展示を見終えて

海や山、あの世など、様々なところに思いを巡らせ、考えながら展示を見て回った。
青森の自然と、そこに住まう人々の息遣い、繋いできた歴史など、様々な物語が重なり合った、重厚さを感じる展示だった。
面白いと思ったのが、美術品という人工物を通して、青森の自然界の力強さを逆説的に感じさせられた点だ。
確かに、青森には霊場として有名な恐山、世界遺産の白神山地など、大きな力を秘めている場所が多い。
そうした、青森の自然が秘めている内なる力をうまく美術に落とし込んでいる作品たちであった。

たとえ私が考えたこと、感じたことが作者の意図とは全く違うことだったとしても、少なくとも私自身が感じ取ったものは、私にとっての答えだ。

ぜひ足を運んでみてほしい。


ちなみに…

弘前れんが倉庫美術館の駐車場は、美術館から徒歩5分ほどの場所にあるコインパーキングです。
美術館の目の前に病院とコインパーキングがあるのですが、そこのパーキングは病院に用のある方優先で、確か30分につき500円くらい取られてしまいます。
私も最初うっかりそこに停めてしまいました。美術館の親切な警備員のお兄さんに教えてもらわなければ、大金を取られてしまうところでした。
そのため、事前に提携駐車場を確認してから行ってみてくださいね!


お詫び

この展示を見に行ったのが、6月29日。
この記事を公開したのが、9月28日。
この展示は、10月9日まで。

足を運んでみてほしいと書いているくせに、記事を寝かせすぎました。
本当に本当に、ごめんなさい…。
書くのに相当エネルギーが必要だったんです…。
ずっと何回も下書きを書いては消し、書いては消してたんです…。

行こうかな〜って迷ってたりする方がいたらぜひ…!

それでは!ころもでした!!!

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