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愛してるよどんな時も、


彼女と広島に旅行に行ったのはもうたしか、7年ほど前のことです。
台風が直撃して、行けるかどうか分からないと思っていたら嵐のあとは快晴で予定通りの新幹線に乗って広島旅行に行ったのは7月の三連休だったと思います。


宮島で牡蠣をこれほどかと言うくらいたらふく食べたあとに、厳島神社を観光して、鹿にエサをあげて。
そのあと堤防に座って、イヤホンを分け合って呆れるくらいエンドレスリピートしたあのメロディーをわたしはふと聴きたくなった。
それは二人が大好きなアイドルのラブソングだった。ただ黙って海を目の前に風に吹かれてずっと聞いていたあの頃、まだ今よりきっと未来に対して明るさを感じていたから愛を信じていられたし、無理に笑うこともしていなかった。

彼女とわたしは好きなものが似ていた。
仕事に対する考え方も、真っ直ぐにしか頑張れないところも、我慢してしまう癖も、好きなアイドルも音楽も同じですぐに仲良くなってたくさん旅行に行った。20代半ばのあの頃はひたすらに仕事に悩み頭を抱えて不器用に生きていた。それをいつも、わたしと彼女、彼女とわたしは共有していた。

あの頃と私たちは何が変わって、何が変わっていないんだろう。
同じ場所で働いて上司から順番にターゲットにされ理不尽な目に晒されながら励ましあってやりこなしてきたあの頃から、わたしたちは別々の場所に飛んでいって、なにができるようになって、なにができなくなったんだろう。

わたしより半年以上早く営業になって業務をこなしていた彼女を尊敬していたし、羨望していた。
彼女のお客様に接する姿勢はいつも丁寧で親切で、きっとわたしが今それを実践することを心がけているのは、間違いなくわたしにとって彼女がお手本だったからだ。

昨年の終わりに約一年ぶりに彼女と会った。
大変だということを違うところから聞いていたし、現在の彼女を取り巻く状況はほとんどわたしと同じで、「どうしてわたしたちっていつもこうなんだろうね」「わたしたち疫病神なのかな」といつの日か言い合ったことを思い出しながら待ち合わせ場所に向かった。

自分の痛みや悲しさ、傷を全てそのまま丸ごと誰かに分かってほしいと思ってしまうときもあるけど、実際はそんなすべてをわかる人なんているわけなくて。だからね、わたしあなたのこと丸ごと分かってあげられないかもしれないけれど話してくれてありがとうって、甘えてくれてありがとうってそう思ったんだよ。

確実にあの頃よりも、わたしたちは仕事ができるようになった。急に告げられる異動、毎日更新される情報や知識、定期的に追加される新商品、半期ごとに区切られて提示される膨大な目標数字、デジタル化への対応、後輩への指導や数字の管理、たくさんのミスや失敗、後悔、理不尽や不条理な目に遭遇しながら、やりきれない切なさを感じながら、気づいたらこんなところまできていた。
仕事においての迅速さや要領、決断、人脈、提案の幅、そんなものを得るのと引き換えにもしかしたら女の子として普通に生きていくことを考える時間をこぼれ落としていたのかもしれない。
強さと弱さの揺らぎの中にいすぎて、気づけば、それが欠けていることがこんなにも生きづらくて行き止まりだなんて知らなさすぎた。

理不尽さにぶつかるたびに、時代の変化による自分たちの待遇に弱音を吐いた。もう少し早く生まれていたら、わたしたちだって最短で駆け上がって役職につけた。もう少し遅く生まれていたらリーマンショック時代に就活なんてしなくてよくて、もっと大企業に入社できた。そんな絵空事をよく話していた。わたしたちきっと、いろんなことが悔しかった。

嘆いても涙をこぼしても過去は変えられないし、今の自分が持ち合わせている手持ちのカードの中から出来る最善の手段や方法を考えて進むしかないことを彼女もわたしも嫌と言うほど理解しているせいで、全部まとめて「色々あるけどほどほどに頑張ろうね」というセリフに落ち着いた。

「僕らの未来なんて、形もなくて」
だって未来は可動式でしょう?
もしかしたら明日、いや一年後、五年後に奇跡が起こるかもしれない。

「君との違いのこと気がつくたび 心はすり減ってく」
みんな違ってみんないいという標語は資本主義社会のこの日本には言葉として存在するだけで、誰も本当の意味なんて理解していないんだろうと思う。

あの日聞いたラブソングがわたしに伝えてくる。あの頃の気持ちを忘れないで、と。
愛を探すことをやめないで、と。
どうしてあの曲を二人で聞いていたのかよくわからない。きっかけも思い出せない。でも気づいたら一時期呪いのようにリピートしていた。
大好きなグループの、二人が一番興味がない人が歌うソロ曲のラブソングだったのに。あんなベタなラブソング、どちらかというと嫌いだったのに。どんな時も愛してるだなんて、信じられるわけもないのに、それでも信じたかったんだね、わたしたち。

二人で愚痴を言いながら、わたしは泣きそうになった。でも、わたしはひっそり誓ったの。溢れ出る感情全てを受け止めて、たまにあの頃を振り返って、逃げ出さずに頑張ろうね、と。


いちいち落ち込んでたらキリがないから、笑い飛ばしながら進んでいけたらいいなと心底思う。彼女には彼女の、わたしにはわたしにしか似合わないメロディーがあるはず。
出来るだけ笑っていたいと思うことに嘘はないから。

明日からもまた頑張る、それだけだ。




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