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脳内を地図化したい:多次元の世界が「知」のあり方を変える

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、哲学・テクノロジー・歴史などについて毎週Facetimeでトークします(第17回)。

1.暑い ⇒南方熊楠 ⇒脳内地図…?

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーこんにちはー。

お久しぶりです。
はやめの夏休みはどうでしたか、コイさん。

ーもう最近日本は暑すぎて、とける。

そういえば日本の夏ってそうでしたね…
爽やかなカリフォルニアに慣れちゃったから、寒と暖、湿と乾に耐える日本人って本当えらいな、て思う。笑


ーほんとだよ。何もする気が起きない。

こちらもお店もスポットも基本全て閉まってますからね。
家出ても、何もできないですよ。

ーそうだよね。2020年の夏は、世界中みんなが散々だ。

あっ、そういえば。
全然話変わるんですけどね。

ースミさんはいつも突然話かわるよね。笑

まあまあ。
「話が変わる」ということについてなんです。

ーほう。

最近、私『坂の上の雲』にハマってたでしょう?
調べてたら、1900年代初頭、主人公の秋山真之の東大時代、植物学者の南方熊楠(みなかた くまぐす)と同級生だっていうことを知って。

『坂の上の雲』(司馬遼太郎)
日露戦争を勝利に導いた秋山好古・真之兄弟。俳句改革に命をかけた正岡子規。 伊予松山出身の3人を中心に、明治という時代の明暗と、近代国家誕生にかけた人々の姿を描く。
(Amazon本紹介より要約)
南方 熊楠(1867-1941)
博物学者、生物学者、民俗学者。生物学者としての粘菌の研究に加え、生態学を早くから日本に導入した。英、仏、伊、独、西語、ラテン語に長けていた他、奇抜で人並み外れた言動や性格から、数々の逸話を残し柳田國男から「日本人の可能性の極限」と称される。(Wikipediaより要約)

ーへー、同級生。そして南方熊楠とはまた渋い・・・
ってほら、「東京暑い」「何もできない」から、「坂の上の雲」へ。今度は「南方熊楠」に話がジャンプしたじゃない。笑

まあ、もう少し我慢して聞いてください。笑
南方熊楠は、子供のころ読んだ伝記が妙に記憶に残っていて、突然邂逅して嬉しかったんですよ。

ーほう。

それで改めていろいろ読んでいたら、こんなことが書いてあって。
私の脳内で起こっているのもこれじゃん、と!笑

熊楠の論文は、扱っている話題が飛び飛びに飛躍した。しかし思考は細部に至るまで緻密であり、一つ一つの論理に散漫なところはまったくなく、こうした傾向を中沢新一は「熊楠の文章は、異質なレベルの間を、自在にジャンプしていくのだ。(略)話題と話題がなめらかに接続されていくことよりも、熊楠はそれらが、カタストロフィックにジャンプしていくことのほうを、好むのだ。」と分析した。(Wikipediaより一部抜粋)

ー「カタストロフィックなジャンプ」。
まさにスミさんとの会話・・・。

これまで学んでインプットされたことが、わたしの脳内のいろんな階層、分野に存在しているじゃないですか。

ーそれが俺と話していると起動されて、次々と口をついて出てくる、と。

そうそう。
コイさんは色々行間を察してくれますからね。

ーだいぶ話してスミさんの思考回路が少しわかりますからね。

恐悦至極にたてまつります。
一見、無秩序に話題が飛ぶんだけど、その間にいろんなコトを飛び石のように思考して辿り着いてるから、実は秩序だってつながっている。

ーなるほど?
それが冒頭の「何もできない」にどうつながるんですか。笑

2.脳内の地図は、何次元?図23

ああ、そうそう。笑
とにかく家で時間あるから、2020年に自分が学んで脳内に残っているものを、プロットしてみた、って話なんですよ。

ーどういうこと?

私の脳内地図です。概念とか、歴史上の出来事とか、芸術とか。
ざっくり作ったら、こんな感じになった。

まpまぱま

ーうわああ。これはすごい。

材料がいろいろあるんですよ。
脳内に無秩序に散らばってる気がしてたけど、地図にすると色んなつながりが見えて面白い。

<材料の一例>
■ ロールズとその批判者たちの正義論(哲学科)
■ 古代ギリシャから近代イスラエルまでの幸福論(比較文学科)
■ 1760年ー1910年の近代史鳥瞰(歴史学科)
■ ミクロ/公共経済学(公共政策学科)など…

ー面白いね。
この地図は、左下から右上まで、ざっくりと時間軸ベースに広がってるんだ。

そう。でも、地図化してみたらちょっと悲しいこともあって。笑

ーなんですか。笑

いや、結構勉強したつもりだったんだけど、これくらいだったんだなあと。
私が開拓したフロンティア、けっこう狭くないですか?笑

ーいやいやそうでもないでしょ。

そうかな。

ーだって、「ダーウィン」、「イリイチ」、「西洋形而上学批判」とか、それぞれにミクロの小宇宙がまた広がってるでしょ。
それはここには記されてないじゃない。

確かに。それぞれに苦労して著書を読んだ深遠な世界が。

ーそうでしょう?

平面でしか書けなかったけど、本当は各キーワードが奥行をもっていて、そこに内容が展開されていく感じかなあ。

ーそしてそのひとつひとつが、また別の小宇宙と色んな形でつながっている。

そうそう、そんな感じ。表しきれないよ。

3.VR、多次元世界、新しい知の可能性

図24

ーそう考えると、これは面白いテーマだよね。
「人間の脳内がどうやって整理されてるか?」
「人間の脳は、何次元で表現できるか?」

確かに。

ースミさんの二次元で脳内地図を書く試みは、その手始めにあたるんじゃない。

ふと思ったんだけど、VRアートを使えば、3次元で私の脳内をより具現化できるかな?
私もVRアーティストになってみようかしら。

ーおー、いいね、かっこいい。笑

VRって芸術とかコンテンツビジネスとして見られがちだけどさ。
こういう三次元を表現するテクノロジーの可能性って芸術に限らず、学問の世界を大きく変えると思うんですよね。

ーほう?

いろんな「知」を、多層構造的に表現できるようになると、文書で記述していた今までの「二次元の知」が、もっと進化すると思う。
表しきれなかった知の世界が広がりそうな感じ。

ー知が二次元とは、面白いね。
ハイデガーが伝統的な西洋形而上学を批判して、コトバの限界を超えた先で「存在」を説明しようとした試みが、連想されるかも。

多分、メチャ頭の良い哲学者とか経済学者とか、歴史上の偉人が考えたことって、文章や二次元の紙の上では表現しきれないことが多そう。

ーそうね。

それを無理に論文に落とし込んでるから、われわれ凡人には理解しづらい。
「頭の良い人が言ってること」が難しいのは、同じ次元で自分の中に思考を再現できないからかもしれないな。

ー確かにね。会社の頭の切れる人とかが、脳内で展開しているいろんな思考が展開を、プレゼンに落とすのを面倒がるってことに近いかも。

コイさんのように。笑

ー笑。
しかし、スミさんまだ甘いぞ。

はて?笑

ー3年ほど前のスイスの神経学者の研究で、「脳は最大11次元で稼働する多元的幾何学的構造になっている」と解明されてるよ。

…11次元!?なんと!

ー代数的位相幾何学という数学的なツールを利用して、デジタル脳モデルの完成に一歩前進したらしいね。

私ハンドメイドの二次元の地図どころじゃなく、デジタル脳か…

ースミさんのカタストロフィックな脳内ジャンプを形にするのは、なかなか遠大なプロジェクトになりそうだ。

私に操作できるのは今のところ二次元しかないから、今回つくった脳内地図を使ってとりあえず学問します。

ー笑。俺も作ってみようかな。

あ、コイさんの脳内地図みてみたい。また勉強になりそうだ。

ーといいつつ面倒くさい。
暑すぎて何もかもやる気が起きない。涼しい部屋で布団にうもれていたい。

ほら、カタストロフィックなジャンプを繰り返して、美しく話題が最初に戻った!笑

ーおお、確かに。笑
じゃあ今日はこの辺で。笑

はーい、良い夏休みをお過ごしくださいませ。

ーではではー。

(…Facetime終了)

★参考文献★
NHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』
解剖!知の巨人南方熊楠(和歌山県広報課)https://www.pref.wakayama.lg.jp/bcms/prefg/000200/nagomi/web/nagomi11/specialfeature02/index.html
NHKスペシャル『映像の世紀』第1集、第2集
「VRアートとは?【芸術×VRの可能性】」(2019年10月)https://lipronext.com/blog/vr-art/
『ハイデガー「存在と時間」入門』轟孝夫(講談社現代新書)
「人間の脳は最大11次元の構造を作り上げることができる。スイスの科学者がその証拠を発見」(2019年9月)https://www.excite.co.jp/news/article/Karapaia_52278989/?p=2



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