後戻り 出来ぬ事実は もうあるが 先にも行けず 踊り場にいる
後戻り 出来ぬ事実は もうあるが 先にも行けず 踊り場にいる
「涼太くん好きだよ!」
「おれも好きだよー!」
涼太とトウリの電話の終わりは、いつも好きな気持ちを伝え合う。
話す内容は、その日の出来事。次にいつ逢えるのか。ハマってるアニメ。
たわいもないけど愛に溢れた会話。
ただひとつだけ存在するイレギュラー。。
「涼太くん、最近彼氏とはどぉ?」
「まぁ順調かな?トウリのとこは?」
「ボクのとこも順調w 来週、温泉行くんだ(^^)」
「おい!のろけんなw」
彼等はお互い彼氏がいる。そして彼氏の事を愛している。
その上でお互いも好きなのだ。
世間では不貞行為とされているのだろう。
罪悪感では片付けられない、心と体のフィット感。。。
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呑み屋で出会った彼等は、お酒のチカラもあって、大いに自分たちの彼氏の愚痴を吐き散らす。
「うちは最近ライン返信こない!!付き合っばっかの時は速攻帰って来たのにー!!」
「トウリがさ、かまってー!ってし過ぎるんじゃねーの?w おれのとこはラインは帰ってくるけど、3ヶ月イチャイチャしてないw」
「それも嫌だねw 涼太くんが下手なんじゃない?w」
「シンプルに傷つくからやめろwそこそこ上手いわw」
「あははwじゃあボク試してみたいーw」
26時を過ぎる頃には、だいぶ酔いも回って欲望に正直になってくる。
気づけば、トウリが涼太の膝の上に座るくらいの仲になっていた。
背中と膝に感じる温かさは、人の心まで酔わせる力があるみたいだ。
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「やっぱ終電ねーなw」
「そうだねw涼太くんち経由でタクシー乗ろうか。」
そう言って乗り込んだタクシーの中。涼太がトウリの手を握る。
靖国通りを走り始めたタクシーの中で、初めてのキスを済ませた。
かすかに車内に入ってくる街の雑踏に消されてしまいそうな短いキスは、この先の行動を決定づけた。
「トウリさー。泊まって行けよ。」
「涼太くん急じゃない?それにこうゆう時って、ちょっと上がってコーヒー飲んでく?? とかいうやつでしょw」
「じゃあコーヒー飲んでけ!」
「語彙力なさ過ぎでしょw」
そのままタクシーは市ヶ谷の駅前に停車し、これから始まる夜を見守るように、街灯が道を照らしてくれている。
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「ねぇ、ルール決めようよ。」
駅徒歩7分の涼太のマンションに向かう間、トウリはイタズラする様な笑顔で、涼太にあるルールを提案する。
「はまり込んだ方が負けでゲームオーバーねw」
「なるほど。今あるものは大事にしつつって感じな。」
「そうゆう事!うちら、うまく行きそうだねw」
涼太がマンションのオートロックを開けた時、ゲームが開始された。
「ちょっとだけ部屋片付けるから待ってろ。」
涼太はトウリにそう告げて、先に部屋に入っていく。
トウリは一人で玄関の前にいる気になれず、少しだけ階段を降りた。
「本当に好きになっちゃ・・・いけないんだよね。。」
ボソっと呟くトウリの気持ちは、もうすでにゲームオーバーになりそうだった。
ここからはトウリの中で、彼にバレなければOKという裏のルールが追加される。
「トウリ?もういいぞ。」
涼太が声をかけながら階段の踊り場まで降りて来て、肩に手を回す。
「あ、ありがとw」
笑顔を浮かべながらトウリは気付いた。
この先の二人は上にも下にも行けず、踊り場にいるようなものなのだ。
消え入りそうな蛍光灯の白い明かりに照らされてトウリは思う。
・・・。
どうかルールを破りませんように。。
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