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【読書】マッキンゼー流 最高の社風のつくり方

こんにちは、みずのです。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの元パートナーで20年間、著名な企業や組織団体の組織文化の変革を手がけてきたニール・ドシ 著の「マッキンゼー流 最高の社風のつくり方」を読んだのでまとめておきます。

社風とはとても強力なものです。良い社風は従業員の心を動かし、従業員それぞれの適応的なパフォーマンスが高まることで顧客は満足し、最終的に高業績を導きます。
多くの人は社風や組織文化が重要だと知っているにもかかわらず、どうすれば良い社風を気付けるのかを知りません。
本書では、その方法をできるだけ科学的に明らかにすることを目的としています。

1.動機スペクトル

人が何かの活動に参加するとき、「なぜ」参加するかが成果に影響することが知られています。好業績を導く社風を導くためにも、まず何が一人一人の業績を高めるか、つまり「なぜ」働くかを理解することが必要です。

人がある活動をする動機には基本の6つのスペクトルがあります。
そのうち活動と直接結びついている直接的動機と、仕事そのものからは遠い間接的動機に分けられます。
さらに、これまでの研究から動機スペクトルに関して重要な発見がもたらされています。

*直接的動機は業績を向上させ、間接的動機は業績を下げる
*動機が仕事と密接に結びつくほど業績は向上する。

以下に、6つのスペクトルについて一つ一つ解説します。

直接的動機…活動と直接結びついていて業績を上げる
 ⇒①楽しさ、②目的、③可能性
間接的動機…仕事そのものからは遠く、パフォーマンスを損なう
 ⇒④感情的圧力、⑤経済的圧力、⑥惰性

①楽しさ
・楽しいと思えるのはその活動が好きだからで、その活動自体が報酬となる
・仕事の楽しさも休憩時間や飲み会ではなく仕事そのものから得られるもの
・楽しさの核になるのは人間が本来持っている好奇心と実験
・楽しさという動機はもっとも直接的で、最も強い動機になる

②目的
・目的が動機になるのは、仕事そのものではなく仕事の「結果」に価値が感じられる場合
自分の仕事が社会や他者に及ぼす影響が自分の価値観と一致するときに、目的という動機を持つことができる
・目的という動機は仕事そのものではなく、仕事から一歩離れたところにあるため、楽しさほど強い動機にはならない

③可能性
・可能性が動機になるのは、仕事の(直接の結果でなく)二次的な結果が個人的な目標などにつながる場合
(例:弁護士になるため将来ロースクールの入学に役立つという理由で弁護士事務所のアシスタントとして働く)
・仕事から二次的にもたらされる動機のため楽しさや目的ほど強力ではない

④感情的圧力
失望や罪悪感、羞恥心のために活動をする場合に生まれる動機
・こうした感情は自分の信念や他者の判断などの外的圧力が関係している
周囲への反響が怖くて仕事に集中できなくなるなど、業績には悪影響となりかねない
・好業績を導く社風のためには感情的圧力を減らすことが必要

⑤経済的圧力
報酬を得るため、解雇を逃れるために働く場合に生まれる動機
・仕事からも自身のアイデンティティからもかけ離れている
所得の低さと経済的圧力の強さには統計上に有意な相関はない
(金銭が必要だというだけでは経済的動機は生まれない)

⑥惰性
辞める理由が思いつかないので仕事を続けているだけ
・もっとも間接的な動機
・社員が辞めないことが重要なのではなく正しい理由でとどまっていることが重要であり、ただ惰性で勤めているだけであれば意味がない

2.動機とパフォーマンス

実際の職場を使用した研究でも、直接的動機を持つようになると仕事のやり方が変わり、以前よりもはるかに熱心に働くようになったという結果が出ています。
ここで、モチベーションはどのようにパフォーマンスに影響するのでしょうか。実は生産性と効率はパフォーマンスのごく一部にすぎません。直接的動機によって高まるパフォーマンスはむしろ、状況に合わせて臨機応変に対応できる適応的パフォーマンスの方です。また、逆に適応的パフォーマンスは間接的動機によって低下してしまうこともあります。

①戦略的パフォーマンス
計画や戦略を上手く遂行することを意味する。
②適応的パフォーマンス
計画から外れ、臨機応変に対応することを意味する。

優れた戦略があれば、組織は全エネルギーを重要な目標に集中させることができ、組織に強い力をもたらします。一方、優れた社風があれば組織は予想外の展開に対応でき、適応性をもたらします。
業績の高い組織を築くためには、この二つの相反するパフォーマンスを理解し、それぞれを最大化する必要があります。
戦略的パフォーマンスと適応的パフォーマンスは両立が難しいものですが、企業は戦略的パフォーマンスにばかり目を向け、知らず知らずのうちに適応的パフォーマンスを破壊しがちです。
以下に、間接的動機によって適応的パフォーマンスが犠牲になってしまう3つのパターンを紹介します。

■動揺効果
学生たちを2グループに分けてにそれほど難しくない算数の問題を解かせた。最優秀の学生には片方のグループは30ドル、もう片方のグループは300ドルの報酬を渡すことにすると、高い報酬を提示されたグループはもう一方のグループより32%も成績が低い結果となりました。
大金を入手できる機会を得た学生たちは、良い成績を上げたいと思い、その気持ちが経済的圧力となって報奨金に気をとられてタスクに集中できなくなたためです。
あがって失敗する経験なども、この動揺効果の表れです。

■キャンセル効果
幼児を対象にした実験では、幼児は高い確率で同室にいるペンを落とした女性に手を貸しましたが、その協力行動に褒美を与えてその後褒美を与えるのをやめると、生来備えていたその協力性はキャンセルされました。
報酬を与えられたことで損得を考えるようになり、間接的な動機が高まってしまったのです。
また、企業においては四半期の目標に強いプレッシャーを感じ、それに対処しようと戦略的パフォーマンスにばかり向いてしまうと、同僚に手を貸したり、仕事上の難問に取り組んだり、顧客に柔軟に対応したりといった適応的なパフォーマンスを発揮する余裕がなくなることがよく起こります。
いずれも間接的な動機付けが高まったことにより、適応的パフォーマンスが発揮されなくなったことを示しています。

■コブラ効果
インドの植民地政府がコブラの死骸を持ってきた人には報奨金を支払うという通告を出したところ、数人の起業家が養殖場を作ってコブラを続々と増やして報奨金で儲けました。さらにそれを知った植民地政府は報奨金制度を取りやめたところ、養殖場の主はコブラを逃がして結果的にコブラが増えてしまったという話があります。
同じことは、収益や従業員の満足などの狭い目標を鼓舞しようとする企業でも起きます。
直接的な動機が低い人はプレッシャーを和らげることができるのであれば、組織の目的とは反対の方向に向かっていたとしても最短の道を探してしまうのです。
コブラ効果の問題が生じたとき、大概の企業は社員をさらに厳しく管理し、コブラ効果を取り締まろうとしますがほぼ間違いなく何度も繰り返され、終りのないモグラ叩ぎゲームが続いてしまします。

3.なぜ優れた社風は少ないのか

これまで長きにわたって動機とパフォーマンスについての研究がなされていたにもかかわらず、優れた社風を築いている会社は少ないと言わざるを得ません。なぜ、いまだに企業では間接的動機がはびこっているのでしょうか。
間接的動機は短期的には戦略的パフォーマンスを少々高めることがあり、それは目につきやすいので企業は麻薬のようにその中毒になりやすいという特量があります。
また、研究によると人間には間接的動機を使おうとするバイアスがあることがわかっています。しかしながら、このバイアスは生まれ持ってのものではないため、存在を知ることでこの影響から逃れることが可能です。

非難バイアス根本的な帰属の誤り
マジックミラーを隔てた隣室にいる子供たちに算数を教えるという実験で、授業を行った後に子供たちのテストの点数が思わしくなかったことを伝えられ、その理由を問われるとほとんどの被験者は授業の教え方と子供の能力に原因があると回答しました。明らかに教えにくい環境にあるということは無視されています。
このように、何かが上手く行かなかった際に人々は環境や状況ではなく人を責める傾向があります。

また、直感的には人間の行動は価値観や信念などの内的な要因から生じるものと考えがちですが、それは自分で自分をコントロールできていると思いたいからです。実際はほんのわずかな状況の違いで判断が大きくかわることが知られています。なので、社員一人ひとりの行動を変えようとするよりも、環境を整えることにエネルギーを割いた方が効果的なのです。

■ピグマリオン効果
一方で、リーダーがメンバーのことをもともと優秀なのだと考えている場合、非難バイアスを持たないことで指導の仕方が変わり、メンバーのモチベーションや結果としてパフォーマンスが向上することが複数の実験で示されています。逆に期待が低いとパフォーマンスは下がります。この現象はピグマリオン効果と言われています。

非難バイアスがあることで、仕事がうまく進まない時にリーダーは環境を変えるのではなくメンバーを非難しがちで、その行動を変えさせるためにアメとムチといった間接的動機を使用するのです。そして、メンバーへの期待が低くなることで結果として実際のパフォーマンスも低くなっていくという悪循環に繋がります。

4.どうすれば優れた社風を構築できるか

この章では、優れた社風を築くためのヒントが具体的な例を交えながらたくさん書かれています。詳細については本書を直接お読みいただければと思いますが、このまとめでは、最も重要とされている2つのポイントに触れておきます。

■役割の設計
役割が上手く設計されていると、好奇心や楽しさが刺激されます。
具体的には以下の5つの観点がそろっている役割を設計することが大切です。

①仕事の全体像が把握できること
②問題点を見つけて改善のアイデアが生み出せるようになっていること
③タスクを進める優先順位付けや方法を決める裁量があること
④実験や学習ができる余地があること
⑤フィードバックがあること

この内容はハックマンとオールダムの(職務充実、職務設計の中核的5次元)研究をベースにまとめられているようです。

■アイデンティティの構築
個人レベルでも自分が何者であり、何を重んじているのかについて考えることで目的意識と楽しさが高まるとされています。
組織においてもアイデンティティは存在します。組織のアイデンティティが強い組織と弱い組織で働く人の直接的動機付けの高さを比較すると、実際に大きな差がみられています。組織のアイデンティティは目標、行動規範、伝統、しきたりから生まれます。

この中でまずリーダーが手を付けられることは、組織の目標をしっかり説明してメンバーに落とし込むことです。これによって目的意識が高まります。特に組織の目標が従業員や顧客の価値観と一致しており、人の役に立つことが明確なシンプルなものであればその効果は絶大です。さらに目的意識をさらに目標がはっきりしていれば細かいことを管理されなくてもそれぞれがアイデアを試しながらタスクをやり遂げることができ、これは楽しさに繋がります。

5.まとめと感想

本書では業績を高めるよい社風を築くという切り口から、直接的動機(内発的動機付け)を取り上げています。特に動機スペクトルの内容はデシとライアンの自己決定理論がベースになっており、一般の読者にも理解しやすいようわかりやすく説明されています。たくさんの研究結果の詳細を交えながら解説されているので、最初から最後まで読むのは結構気合がいりますが、納得しながら理解していきたい人に向いている本棚と思いました。

また、本書ではダニエル・ピンク著の「モチベーション3.0」や、ダン・アリエリー著の「予想どおりに不合理」についても紹介されており、これまで読んできた内容が自分の中でもより繋がっていく感覚がありました。

「モチベーション3.0」と「予想どおりに不合理」のまとめはこちら。


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