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【読書】心理学的経営(前編)

こんにちは、みずのです。
リクルートの創業メンバーの1人で適性検査SPIの開発者でもある大沢武志著の「心理学的経営」を読んだのでまとめておきます。

旧来の経営組織論の考え方では基本的に人間は合理的な存在であるという前提で理論が組み立てられていますが、実際の人間には感情があり、矛盾をはらんだ不合理な存在です。本書では、その現実を受け止めてどのようにして企業経営に落とし込んでいくかといったことが心理学の研究結果を交えながら論じられています。


1.モチベーション・マネージメント

旧来の組織論では、個人の仕事に対する動機付けに対してはほとんど関心を払ってきませんでした。むしろ、人間は元来働くことを忌避するという前提で様々な制度や規則が作られていました。しかしながら心理学の研究が進む中で、「人間は生まれつき勤勉で、自発的に仕事を行う」という人間観も提唱されてきました。「心理学的経営論」の立場からは、そのどちらかの人間観が100%正しいわけではないと考えます。むしろ個人内でも状況や気分によって仕事への意欲は変わるものという前提でモチベーションについて考える必要があるという前提に立っています。

【ハーズバーグの2要因理論】
職務満足を感じる要因と職務不満足をもたらす要因は別個のもので、それぞれ独立しているという理論です。仕事の不満足要因を十分に満たしても積極的な満足をもたらすことはなく、不満を防止することしかできません。

満足要因(動機づけ要因)
仕事を通じて達成感を感じた時(達成)、自分の仕事が上司や仲間から認められた時(承認)、責任の重い仕事をまかされた時(責任)、仕事を通じて自分の成長が実感できた時(成長)
⇒仕事そのものに関連する要因のみ

不満足要因(衛星要因)
作業条件、給与、会社の制度、上司のマネジメント
⇒仕事の環境要因

その後の研究において、職務不満足につながる要因は、環境条件のみではなく、仕事の内容からも生じることがわかりました。

企業は衛星要因としての職場環境を整え、その上で動機づけ要因への配慮を行う必要があります。刺激のある仕事を用意し、そこに積極的にアサインしていかなければなりません。それとともに、自己申告制度や特定のポストに対する社内公募など自身の「意思」を職務選択に反映させる仕組みも取り入れる企業が増えてききました。

【職務設計の中核的5次元】
ハーズバーグでの研究からも明らかですが、仕事に対してのモチベーションは本質的には仕事そのもの、もしくは仕事を行う過程の中から生まれます。仕事への内的動機づけが高まる職務の要素をハックマンとオールダムは職務設計の次元として整理しました。

①スキルの多様性
その仕事を遂行するためにどのくらい様々な能力や技能が求められるか
②タスクアイデンティティ
初めから終わりまで一貫して関わることのできるまとまりのある仕事か
③仕事の有意義性
仕事がどれほど意味があり必要とされ、影響を持っているか
④自律性
仕事をどれだけ自分の裁量をもってすすめることができるか
⑤フィードバック
自分の仕事の成果を確かめることができるかどうか

これらを高めることでハーズバーグの動機づけ要因を高めることができると考えられます。ただし注意する点として、これらの職務次元のどれを高めたとしても効果がない場合があります。それは①当人の技能が著しく低い場合、②当人の成長への欲求が弱い場合、③当人が現在の給与や作業条件などの環境条件に不満を持っている場合の3つです。

また著者は内発的動機付けにとって最も重要な心理的条件として、以下の3つをあげています。ただしこれはデシとライアンの自己決定理論という有名な理論の内容そのままなので、自身が提唱したように書かれているのは本書の少し残念な点だと感じています。

①自己有能性…仕事を通して自分の効力感を体感できること
②自己決定性…仕事を自分で計画して実行できる自由裁量と責任があること
③社会的承認性…自身の努力や成果が周囲に承認されること

この3つの要素はこれまで出てきた理論を包含しています。
お互いに努力や成果を認めることができる良好な職場の人間関係をベースとして、職務内容のタスクアイデンティティや自律性といった次元を高めて仕事における自己決定性を高めること、それに加えて個人の能力や技能に合わせた適切なレベルの業務を与えて達成感や成長感を感じやすい状況、つまり自己有能性を感じやすい状況を作ることによって内発的動機付けは最も高まると考えられます。
このことから、どういった内容の業務を与えるかに加え、どのくらいのレベルの業務を与えるかもとても重要なことが理解できます。

【目標の持つ意味】
目標がある方がモチベーションにとって効果的なことは自明ですが、どのような目標がより効果的なのかについては多くの研究がされています。

①目標は具体的で明確なほどエネルギーを方向付ける力となる
②目標は優しいより難しい方がモチベーションにとって効果的である
③ただし難しすぎる目標は拒否反応を招きモチベーションに結びつかない

(最も効果的なのは成否の確立が五分五分のとき)

個人目標だけが与えられた場合よりも集団で目標が与えられ場場合のほうが業績に与える効果が高いことが指摘されています。
また、目標に向かう過程で適切なフィードバックをされることも効果的です。

2.小集団と人間関係

人が集まって集団が形成されるとそこに様々な力学が働き、個々のメンバーに影響を及ぼすメカニズムが働きます。人間の感情や情緒をベースにした本音の行動原理を理解し、その効果を最大限生かした企業経営を行うのが「心理学的経営」です。

【ホーソン効果】
アメリカのホーソン工場で行われた照明の明るさが作業能率に与える影響についての有名な実験で、結果としては照明を一定にしても暗くして言っても生産性は高まっていくという結果となりました。
この実験に参加した女性たちは、自分たちが選ばれた集団であり、新しい試みに参加してみんなから注目されていることを知っており、そのことが彼女たちに特別な心理的効果をもたらしたため高い士気が継続したと指摘されています。
ここから、何か新しく特別なことに特定のメンバーを選んで参加せることでその集団のモチベーションが高まることを「ホーソン効果」といいます。
ただし現実の職場では、少数精鋭の集団を構成した場合、選ばれなかった多数のモチベーションダウンを招きかねないことに留意する必要があります。

【集団規範と集団業種性】
組織内では上司からの指示によって動くということはもちろんですが、「上司の命令」を実際に感情のレベルでどのように受け止めて、どう行動するかは職場という集団のメンバーとの間に共有された心理的な規範によっているのが実態です。
集団の規範に行動を同調させる圧力が働くのは、その集団に魅力があったり、メンバー間の連帯感や仲間意識が強い場合と考えられます。
そのような求心力が働く強さを「集団凝集性」と呼んでいます。
集団凝集性の高い集団のほうが、低い集団よりも仕事における不安や緊張感が少ないことが研究によって示されています。

【自律的小集団】
組織が大きくなると、個人が組織に埋没し自我を押し殺してしまうという弊害が生じ得ます。その結果として、組織の不活性や機能障害が生じてしまうこととなり、その状態を「大企業病」と一般に言われることがあります。
大きな組織の中に、個人が一人の人間として認知されることが可能な小集団を作り出し、一人一人の人間性を回復させることがその解決策となります。
小集団の自律性が高く、目標の設定や仕事の進め方に個人の意思が反映できれば当事者意識が生まれその集団は活性化します。大きな組織でも、その中でメンバーの一人一人が自律的な小集団に属するような工夫をすることで組織全体も活性化させることができると考えられるのです。

3.組織の活性化

組織の活性化の本質とは、変化に適応するための自己革新だと述べられています。組織に一度秩序や安定がもたらされると、それはどうしても固定化して閉塞した状態となってしまいます。一方で活性化している状態というのは、無秩序で不安定な状態から秩序化に向かって動いている状態にあるものなのです。そのため、組織活性化のためには絶えず既存の価値体系や過去の成功体験を否定して見直しをかけていくことで、組織内の均衡状態を崩していくといった創造のための破壊を行うことが必要です。
認知的不協和理論で示されているように、人は不安定な状態を維持し続けることができず、バランスを取って適応しようとするメカニズムを持っているので、そのような組織の揺らぎを起こせば自ずと適応に向かった動きが生まれ活性化すると考えられます。

組織の活性化が経営の課題となっているのは、組織を取り巻く環境が昨今ますます激しく変化しており、その変化への適応を可能にする戦略として活性化が求められているからです。
企業を戦略的に活性化するための方略としては、影響度の大きい順番に①採用、②人事異動、③教育、④小集団活動、⑤イベントがあります。

採用や人事異動によって組織に新しい人材が入るという直接の変化はもちろん、それ以外にも異動に直面した個人に生じる緊張と葛藤、またはいなくなっては困る優秀な人材が経営的な要請で抜かれてしまった後に組織内でその穴をカバーする動きなども個人や組織に揺らぎを起こし活性化につながるものです。人事異動の頻度の高い低いと低い組織では、明らかに全社のほうが活性度が高いと言われています。

また、時間をかけて学習された体系は、習慣として定着していくものです。これを否定して捨て去るのは大変なエネルギーが必要となりますが、既存の適応様式は新たな環境へ適応する際の阻害要因となりかねないため、アンラーニングという心理過程が必要となります。
これまでの自己を否定するプロセスとなるため、様々な抵抗を巻き起こすことになりますが、これも結果的に組織にある種の揺らぎを起こして活性化のための土壌づくりに繋がります。

4.リーダーシップと管理能力

5.適性と人事

6.個性化を求めて

7.まとめと感想

長くなってしまったので、後半に続きます。

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