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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ 明治維新編

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~ の明治維新編をまとめます。
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2022年9月の記事一覧

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#122

22 江華島事件(5)

 翌日、博文は出仕すると工部省にやってきた山縣と合流し、内務省の大久保のもとに行った。
「大久保さん、山縣と二人で井上さんに会ってきました。朝鮮使節の件、承諾をしてくれました。それで、井上さんの任官はどうなりますか」
「あぁ、元老院議官でどうですか」
「わかりました。大丈夫です。ただ、条件が」
「条件ですか?」
「はい。自分と木戸さんに、三年間の欧米での留学を認めてほしい

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#123

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#123

22 江華島事件(6)

 また博文が訪ねてきた。きっと朝鮮派遣の件だと思って話を聞いた。
「聞多、すまん。大久保さんに改めて君の朝鮮使節の件を話してきた。元老院議官に任官、副使で内定になった。裁判の件も近々終結するはずだ」
「わかった。会社の今後についても益田には話しておいた。それで、一番の難敵についてはどうしたらええのかの」
「一番の難敵とは。木戸さんのことか」
「そうじゃ。木戸さんの渡韓をわ

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#124

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#124

22 江華島事件(7)

 横浜で、馨は乗船する前に家族と団らんの時を持つことができた。
「お末、ママの言うことをよく聞いて、身の回りのことは自分で揃えておきなさいね」
「パパ、だいじょうぶ。できます」
「いや、パパは。パパではなく、父上と言いなさい。わかりましたか」
「はい、父上」
「よし」
 そう言うと馨は末子の頭をなでた。困ったような嬉しいような末子の笑顔が愛おしかった。
「武さん。後のこと

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#125

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#125

23 成功の報酬(1)

 日朝修好条規を締結して、凱旋帰国を果たした馨を待っていたのは、木戸からの「卿・参議の分離」を進めたいので、手伝ってほしいという文だった。大久保にはすすめる気がないことは分かっていたので、馨は木戸に対してどう対応した良いか苦慮していた。そんな時福沢諭吉と会う機会があった。
「これは、福澤さん、お招きありがとうございます」
「政府の中の開明派で民権にも興味をお持ちと、ぜひお

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#126

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#126

23 成功の報酬(2)

 次の日、馨は、益田に会いに行った。
「色々すまんな。清算は進んどるか」
「はい、純資産がかなり残りました。井上さんやアーウィンの出資分を返金しても、末端の丁稚まで金を渡せそうです」
「それは良かった」
「で、やってもらいたいことがあるんじゃ」
「いつぞやの話ですか」
「昨日、三野村利左衛門が来た」
「三井の大番頭でしたね」
「海外と貿易をする会社を作りたいそうだ。それで

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#127

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#127

23 成功の報酬(3)

 木戸の洋行の問題については、馨は三条公と大久保にもあって問題ないとの感触を得ていた。木戸とも話し合わねばならぬことが多いので早速会いに行った。
「木戸さん、体の具合はどうですか」
「あぁ聞多。いまはだいぶ良い」
「帝のご臨幸賜られたのお聞きしました。おめでとうございます」
「おぅそうだったのだ。恐れ多いことに染井の別荘にてお出ましいただいだ。私も思い残すことはない」

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#128

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#128

23 成功の報酬(4)

「イギリスに送る荷物は出来上がったかの」
「武さんやお末のものも大丈夫か」
 同行する書生が改めて確認をした。
「大丈夫でございます」
「ところで、最低限の身の回りのものはあるよな」
「皆、持っております。ご心配にはおよびません」
「それでは、送り出すぞ」
こうして、馨の横浜の家はほぼ空になった。

 最後の確認を込めて、馨は木戸のもとに行った。
「木戸さん、準備はどうで

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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#129

【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#129

23 成功の報酬(5)

 このアラスカ号は設備はよいが古いらしく、よく揺れる船で武子は船酔いに苦しんでいた。しかも、海が荒れて、ゆれは一層ひどくなっていた。あまりの事態に、武子は動けなくなっていた。
「ママは船酔いで動けんらしい。お末は父と食堂に行こう」
「ママは大丈夫ですか」
「大丈夫じゃ。わしがママの食べられそうな物をもらってきてやる」
と、二人で食堂に行き、武子のためにリンゴやバナナ、オレ

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#130

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#130

24 維新の終わり(1)

 イギリス、ロンドンにつくと木戸からの文が届いていた。下宿の支度が整うまで過ごすことにしている、ホテルで馨はおそるおそる開けた。
 準備や様々なことが整わないため行くことを断念したと書かれていた。それは木戸自身が、いけないことを確信しているような内容だった。
「松さんの洋装が不細工だなんてありえんだろう」
 読んで感じた寂しさを紛らわすような言葉を口に出してみた。弥二郎

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#131

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#131

24 維新の終わり(2)

 馨たち一家は、ロンドンでの初の公式行事として公使館主催の歓迎会を兼ねるパーティーに出席した。
イギリス公使の上野景範・いく夫妻のエスコートを得て、パーティー会場にでた馨と武子と末子は、久々の日本にほっと安心していた。特に武子は、いくの存在に同じ女性として安らぎを感じていた。末子は武子のそばにいて、愛らしい笑顔とおしゃまな会話で、周りの大人達に笑いを振りまいていた。一方

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#132

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#132

24 維新の終わり(3)

 その頃日本では、伊藤が益田孝のもとを訪ねていた。
「工部卿自らお出でになるとは、驚きました。狭いところですが、ごゆっくりしてください」
「ここが先収会社の事務所だったところですね。僕は入り口までしか来たことがなくて、井上さんが仕事をしているところを、見たことがなかったんです」
「井上さんがお使いになられた部屋は隣です。今は応接室として使っています。ただ、こちらの部屋の

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#133

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#133

24 維新の終わり(4)

 馨は家主のハミリーの助言を受けながら、経済学の本を読むことにした。そしてジョン・ステュアート・ミルの「自由論」の講義も受けた。他にも英語の教授のもとにも行き語学力を高めることもしていた。
 日課の散歩の一環として、日本公使館に顔をだすことも忘れなかった。留学生たちとの購読会はそういう日常の良いペースメイカーにもなっていた。しかも、その内容に即した議論をすることは、彼ら

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【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#134

【小説】奔波の先に~聞多と俊輔~#134

24 維新の終わり(5)

 ドイツのベルリンの公使館には旧知の青木周蔵がいる。同じ長州だし、色々相談したいこともある。だが、青木は現在進行の問題を抱えていた。
「やぁ青木、いつ以来じゃの。一度帰国した時に木戸さんの所で会って以来かの」
「多分それくらいじゃないですか。それにしても、いつもお元気で」
「ふーんおぬしにはそう見えるか」
「何かずいぶん絡まれているような」
「聞いたぞ、白い肌の女人と良

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