みずがめ座

VRC環境課

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最近の記事

五味五色、それと

2本の時計の針がてっぺんを少し過ぎた頃、2つの人影がとある店の券売機の前に立っていた。 「フーケロちゃん何にする?」 「そうですね...ガメザさんのおすすめは何ですか?」 「フーケロちゃんでも食えるやつってなると...これかな」 指をさした先は普通盛り...の横、小盛りと書かれたボタン。 フローロの頭に浮かんだのは、店先で見た器より一回り小さく控えめなものだった。 「子供扱いしていませんか?」 「え?いや別にしてぇけど、基本俺は量すげーのしか食わねぇからぶっちゃけ他がわ

    • 拘泥するアクチュアリティ

      (ピッ...ピッ...シュコー...) 朧気な意識は、全身の激しい痛みに起こされる。 白い天井に透明な壁、慣れない消毒液の匂い、どこか見覚えがありそうでない空間。 「...どこ...だ...ここ」 かすれそうな声で呟く。 白い顔の男──堺斎核との一方的な戦いの末、為す術なく負けた。 誰も説明してくれない代わりに、今こうしてベッドに横たわっているという事実が否応にも教えてくる。 「...何も...出来な...かった」 途切れ途切れの悔しさが零れる。 夜八の強

      • Silly dream(3)

        AM7:00 庁舎地下駐車場 「うーし、全員揃ったな。んじゃ、行くか」 バンの前に集まった課員を目で一周し、雪貞を先頭に一人ずつバンへと乗り込むと、運転席の課員に出してくれと声をかける。 現地へ行く道すがら、車内では画面越しの情報係と調査の段取りの再確認が行われる。今回の任務は通常の調査業務とは異なり、面倒な事態になってしまった場合、相手方は”もみ消す事”に手慣れている。正確な対処が求められる為に入念な確認は必須だ。 「…ってな具合にやってくから、気ィ引き締めて行けよ」

        • Silly dream(2)

          AM10:00 病室 空腹で目を覚ますと、何度見たか分からない天井のシミが目線の先にあった。 「またここかよ...腹減ったな。」 倒れる度に担ぎ込まれるここのベッドは見慣れたもので、最早自分の家のような安心感が――いや、ない。病院臭いので正直嫌いなくらいだ。 「よっと。」 毎回ここに寝てる時は重症の場合が殆どで、目覚めた時はほぼほぼ体が動かない。しかし今回は例外らしく、目覚めと同時にスっとベッドから降りた。 「あ、ガメザさん!まだ安静にしててください!」 フラっ

        五味五色、それと

        マガジン

        • VRC環境課 Silly dream編
          3本
        • VRC環境課 帰路編
          7本
        • VRC環境課 ガメザ与太話
          5本
        • VRC環境課 ガメザ出自
          5本

        記事

          Silly dream(1)

          AM12:30 給湯室 カシュ 「...うーん...これはイマイチですね。では次。」 備え付けの小さなコンロや、流し台が設置されているその小部屋は、本来は課員であれば誰でも利用する事が出来るが、訳あって来客をもてなす時以外はあまり使われない。が、何やら今日は次々と缶の蓋を開ける様な音が聞こえてくる。 「...宗真さん?」 「おや、ガメザさん。」 給湯室からなり続けていた音の主は、課員の中でも一際目を引く全身赤色の鬼...宗真童子だった。 「何やってんの?」 「ああ

          Silly dream(1)

          Do not overdo

          「...ん...?」 ゆっくりと目を覚ますと3度目だろうか、見覚えのある天井とそこから伸びる宙吊りのレールが視界に入る。 「あー...またか。」 天井に向かってぽつりと呟く。 どうやらヘリに乗り込み、猫又に説教を食らっている途中に事切れたらしい。 既にリクライニングベッドでゆったりとしている上半身を、腹筋の力で起き上げようとすると全身が金縛りにあったが如く硬直し、猛烈な痛みで思わず奥歯を噛み締める。 「ん゛っっっっっっっっぐ!!!!!」 打たれ強さには心底自信が

          Contain seeds

          気がつくといつの間にか日が昇っても肌寒い季節。 吐いた息が白く膨らみ、金属が冷えるせいで肘の付け根が少しズキズキする。 あれから随分と時間が経った。軽度とは言え、電脳化した恩恵もあってか扱いも"失くす前"と何ら変わらないまでに回復した。しかし、そうは言っても自分の体では無いモノが付いているのだからどうしたって気にはなるものだ。 そんな冷えた手でダイナーのドアノブを握り、扉を開ける。 「いらっしゃいませ。」 「うーさみっ...」 「お一人様でしょうk...なんだまた君か.

          Contain seeds

          Rough salon

          「ふぁ〜あ、やっぱめんどくせ。」 あくびと煩わしさを漏らしながら、不揃いの翡翠色髪をポリポリと掻く。 「そう言うなよ、これも仕事なんだしさ。」 なだめるように紅い狼は言った。 切り返し、翡翠色の狐は紅い狼の手に持った【断ち切り鋏】を指差して言う。 「つってもアレだろ?こないだのヤツとそんなに変わらねぇんだろソレ。」 「変わったから試験するんだろ...それに前回のバージョンとは全くの別物に仕上がってるよコレは。流石はうちの開発だね。」 「ほぇー...見た目にゃあなんも変

          無色な思い出

          私が生まれた...いや、目を覚ました時、細目の男性、■■■がガラス越しに微笑んでいたのを覚えている。 名も知らず、状況も何もかもがわからない事だらけだったが、唯一この人だけは信頼を置ける事だけはわかった。 自分を包んでいた淡い緑色の液体で充たされていたガラスの筒から出ると、■■■が私に近付き言った。 「おめでとう、君は私の研究史上初の"成功作"だ。」 目覚めてからしばらくは、言語の発声の仕方や読み書き、自分達がどう言った目的の下で研究を行っているか等を学び、体が成長してく

          無色な思い出

          ガメザ ep.0-2

          何気ない日常の中に幸せを見出すコツは、大きな幸せを望むことではなく、小さな幸せを拾い集めて行くことだ。 しかし何てことだろう、今日はいい日になる。とても。 「うん、難しいのは追々覚えるとして、見込み通り元気がいいのはいい事だ。取り敢えずは採用かな、来週からよろしくね。」 「マジすか!?ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」 本来ならば声を抑えなければならない小さな会議室に、驚きと欣喜、少しの粗野を含んだ声が響いてしまった。 翡翠色の狐の前に座る3人の内、

          ガメザ ep.0-2

          Being Late

          窓から刺す朝日と、吸った空気の冷たさで目が覚める。眠い目を擦りながらもう一眠り...とは行かず、大声と共に布団を剥がされた。寒い。 「もう!目が覚めたんだったらそのまま起きなさい!」 「...シスター...寒い...」 「そんな怯えた小動物みたいな目をしてもダメ!さっさと支度しなさい!でないと朝食は抜きですよ!」 最後の言葉を聞いた瞬間に目が覚めた。それだけはマズイ。しかしながら、最近はよく冷える...朝起きるのが億劫にもなる。俺はまだ子供だって言うのに、シスターや神父様

          帰路7

          「...り、痛み、癒し、癒し、癒し...」 けたたましく鳴り響くサイレンと、辺りに立ち込める煙、そしてか細く震える声が微かな意識を揺さぶる。 (ザザ) 「課長...見えてますか?」 「あぁ、見えている...」 管制室の画面に映し出されたのは、翡翠色をした長髪の狐の獣人が、両肘の先を消失して気を失い壁にもたれかかっている姿と、涙目になりながらも、側に寄り添い祈りを捧げ続ける鹿角の少女だった。 「課長...これって...」 「状況から察するに、そうだろうな。」 「あの

          帰路6

          空はすっかり薄暗い灰色に染まり、ちらほらと街灯が点き始める。 日が落ちていくのを追うように、空気が向うから来る暗闇から逃げながら明かりのあった方へ流れていく。 浜辺を薄い波が行ったり来たり、次第にそれは奥へ奥へと。 嵐が来る日は決まってそうだ、自然が生み出す大きなそれは、周囲の”見えない何か”をエネルギーとして溜め込みながらじっと待っている。 管制室の大画面が赤く点滅し、警報が鳴り響く。 「課長!ガメザ先輩を中心とした地域一帯の重力場が、異常値を示しています!」 「

          帰路5

          「課長さん...今のって...?」 「ガメザからの略式承認申請だ。Harpeを出す事態になるとはな...状況が状況だ、付近にいる課員とこちらからも数名現場へ招集をかけろ。」 「「「「「はい!」」」」」 「やっぱり瑠璃川も先輩のところに...!」 「ガメザの気持ちを汲んでやれ、事が済むまで待機していろ。いいな?」 「...はい。」 こうなることはあの時既に薄々わかっていた、わかっていたが、そんな自分の力ではどうにもならない無力さを声に出さずにはいられなかった。しかし、直々に待

          帰路4

          (ガキンッ!) 「クッ…!」 「ハハハ!さっきまでの威勢はどうした!」 「テメェは…黙ってろ!!!」 子供達の攻撃を受け止めた反動をそのまま返し、男の方向へ吹き飛ばす。すると、男が叫ぶ前にすかさずクローンが間に入り、子供たちを虫を払うかの如く跳ねのけた。勢いよく左右に放り出された子供達は少し転がった後、何事もなかったかのように立ち上がった。 「テメェ…!」 「言動の全てにおいて乱雑で好かん奴だ。それに比べて今のこのクローンのを見たか?無駄のない最善の選択が出来る実に優

          帰路3

          先に動いたのはガメザだった。まっすぐ、水平に、相手に向かって飛ぶと、攻撃を繰り出そうとする相手の懐に入り込むのは容易かった。 「ッオラァ!!!!!」 相手の腰より低い体制から放った右アッパーが顎を捉え、背中側に円弧を描きながら大きく宙に舞い地面に叩きつけられた。 (ドサッ) 「おせーんだよバーカ!」 「...。」 してやったと言わんばかりに吐き捨てたが、まるで効いていないかの如く相手はムクリと起き上がった。 「えぇ...今のは入ったっしょ...やっぱコレ付けねぇとダ