Silly dream(3)

AM7:00 庁舎地下駐車場

「うーし、全員揃ったな。んじゃ、行くか」

バンの前に集まった課員を目で一周し、雪貞を先頭に一人ずつバンへと乗り込むと、運転席の課員に出してくれと声をかける。
現地へ行く道すがら、車内では画面越しの情報係と調査の段取りの再確認が行われる。今回の任務は通常の調査業務とは異なり、面倒な事態になってしまった場合、相手方は”もみ消す事”に手慣れている。正確な対処が求められる為に入念な確認は必須だ。

「…ってな具合にやってくから、気ィ引き締めて行けよ」
「別に悪いことではないが…いつになく真剣だな。明日は雪でも振るんじゃないか?」
「うるせーよ。冴子さんに任されたんだ…それに…」

画面越しのナタリアに軽く弄られるも、いつもの威勢はどことなく薄れ、流れる景色にぼんやりと視線を移す。
その様子に雪貞と雲類鷲が耳打ちする。

「何かあったんでしょうか…?」
「さぁ…でもいつもと違うのは確かですね…不本意ではありますけど、私たちも課長に任された身です。子守だと思って支えてあげましょう」
「オイ、聞こえてんぞ鳥」
「も~言ってるそばからそれじゃ示しつかないですよ~?」
「…るっせ」

そんなやり取りをしていると、あっという間に現地へと着いてしまった。

雨で少しくすんだ建物の外壁上部には『水望水産株式会社』の文字が大きくも小さくもなく、中小企業らしく掲げられていた。

門を眼前にバンから降りると、守衛の中年男性がこちらを睨むように見ていた。アポを取っていたとは言え、役所の調査ともなれば難しい顔をするのが普通だろう。しかし、ガメザがIDを見せながら調査に来た事を告げると、何やら手元のデバイスとガメザの顔を見比べた後、警戒が解けたかのようにあっさりと中に招かれた。

「どうぞこちらへ」

守衛の案内で敷地内を進む一行。
辺りを見回しながら進むが、流石は情報係の捜査網をかいくぐった企業だ、ちらほらと従業員は見かけるが、怪しげな設備は見受けられない。

『応接室』と書かれた部屋の前で止まる。

「所長、環境課の皆様をお連れしました」
「ああ、ご苦労さま。どうぞ」

中から男の声がすると、では、と守衛は来た道を1人戻って行った。

「失礼しまー...」

ガメザがドアを開き中の男と対面するその瞬間、全身の毛が僅かに逆立ち瞳孔が開いたのがわかった。
目の前には映像で見た...否、あの日と何ら変わらない顔の男『川崎』──ここでは『水嶋』と名乗っているようだ──が鎮座していた。
ガメザ意外の面々も、事前の資料映像で顔だけは把握済みだ。件の重要人物である事はすぐさま分かった。

「遠路はるばるご苦労さまでした。どうぞ、お掛けになって下さい」

ニコニコと丁寧なその表情や仕草全てが、あの日を鮮明にフラッシュバックさせ気持ち悪く感じるが、グッと堪えて男と机を挟んだ対岸のソファへと腰掛ける。
まずは、とガメザが切り出そうとするがどうにも感情が邪魔をして言葉が詰まる。
それを見かねた雲類鷲が代わりにと横から口を開く。

「まずは、調査にご協力頂きありがとうございます。調査の概要は事前にお伝えした通りですが、調査の前に形式上こちらからの説明を受けて頂きますのでご了承下さい」

テキパキと資料を渡し説明をしていくの横目で見ながら、ため息混じりに息を吐くと、雲類鷲がコソコソと耳打ちする。

「移動中も様子が変だったし、一体何があった?」
「悪ぃ...ちっと朝から頭痛くてな...それだけだ」
「お前がそう言うなら詮索はしないが、あまり1人で抱え込むなよ」
「...おう」

見透かされてる様な気がして少しムカついたが、それ以上に要らぬ心配を仲間にさせてしまった事を悔いていた。
目的は目の間にいるのに状況が、環境がそうさせてくれないのも相まって苛立ちだけが募っていく。

そんな考え事をしていると説明が終わる。
水嶋が工場内の案内を担当するとの事なので、一行が退室していく中、悪寒を感じたガメザが振り返ると男はニコニコとした表情のまま軽く会釈した。


課員が全員退室し終えると、作業着の胸ポケットから写真を取り出し見つめる。


「...また会えて嬉しいよ...フフ」

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