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VRC環境課 帰路編

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帰路7

「...り、痛み、癒し、癒し、癒し...」 けたたましく鳴り響くサイレンと、辺りに立ち込める煙、そしてか細く震える声が微かな意識を揺さぶる。 (ザザ) 「課長...見えてますか?」 「あぁ、見えている...」 管制室の画面に映し出されたのは、翡翠色をした長髪の狐の獣人が、両肘の先を消失して気を失い壁にもたれかかっている姿と、涙目になりながらも、側に寄り添い祈りを捧げ続ける鹿角の少女だった。 「課長...これって...」 「状況から察するに、そうだろうな。」 「あの

帰路6

空はすっかり薄暗い灰色に染まり、ちらほらと街灯が点き始める。 日が落ちていくのを追うように、空気が向うから来る暗闇から逃げながら明かりのあった方へ流れていく。 浜辺を薄い波が行ったり来たり、次第にそれは奥へ奥へと。 嵐が来る日は決まってそうだ、自然が生み出す大きなそれは、周囲の”見えない何か”をエネルギーとして溜め込みながらじっと待っている。 管制室の大画面が赤く点滅し、警報が鳴り響く。 「課長!ガメザ先輩を中心とした地域一帯の重力場が、異常値を示しています!」 「

帰路5

「課長さん...今のって...?」 「ガメザからの略式承認申請だ。Harpeを出す事態になるとはな...状況が状況だ、付近にいる課員とこちらからも数名現場へ招集をかけろ。」 「「「「「はい!」」」」」 「やっぱり瑠璃川も先輩のところに...!」 「ガメザの気持ちを汲んでやれ、事が済むまで待機していろ。いいな?」 「...はい。」 こうなることはあの時既に薄々わかっていた、わかっていたが、そんな自分の力ではどうにもならない無力さを声に出さずにはいられなかった。しかし、直々に待

帰路4

(ガキンッ!) 「クッ…!」 「ハハハ!さっきまでの威勢はどうした!」 「テメェは…黙ってろ!!!」 子供達の攻撃を受け止めた反動をそのまま返し、男の方向へ吹き飛ばす。すると、男が叫ぶ前にすかさずクローンが間に入り、子供たちを虫を払うかの如く跳ねのけた。勢いよく左右に放り出された子供達は少し転がった後、何事もなかったかのように立ち上がった。 「テメェ…!」 「言動の全てにおいて乱雑で好かん奴だ。それに比べて今のこのクローンのを見たか?無駄のない最善の選択が出来る実に優

帰路3

先に動いたのはガメザだった。まっすぐ、水平に、相手に向かって飛ぶと、攻撃を繰り出そうとする相手の懐に入り込むのは容易かった。 「ッオラァ!!!!!」 相手の腰より低い体制から放った右アッパーが顎を捉え、背中側に円弧を描きながら大きく宙に舞い地面に叩きつけられた。 (ドサッ) 「おせーんだよバーカ!」 「...。」 してやったと言わんばかりに吐き捨てたが、まるで効いていないかの如く相手はムクリと起き上がった。 「えぇ...今のは入ったっしょ...やっぱコレ付けねぇとダ

帰路2

午前の巡回を済ませた2人は駅前のラーメン屋の前でじゃんけんをしていた。 「先輩〜〜いくらお金無いからって、普通後輩に奢らせます〜〜?」 「うるせぇ!こっちは命がかかってんだ!さっさとケリつけるぞ!」 「全くしょうがないですね〜〜こんな事引き受けてくれる後輩なんていないですよ〜〜?感謝してくだい〜〜」 「「じゃーんけーん」」 「...うぐっ...てめぇ瑠璃川...念力使うんじゃねぇ...」 「なんのことですか〜〜?言いがかりはやめてください〜〜負け惜しみするなんてかっこ悪いで

帰路1

キィ… 朝の喧騒が落ち着いてきた頃、裏口のドアの軋む音が静かに響く。 「おはようガメザ。朝会は今丁度終わったぞ。」 「げぇっ!?…か、課長…おはようございますぅ…」 「今日も皆勤賞だな。手当を期待しているといい。」 「アハハハ...う、うーっす...」 ”偶然”すれ違った猫が微笑みながら言うと、スタスタと廊下を歩いて行った。 すると、朝会を終えた課員達が続々と持ち場へ戻っていくのが見える。 「はぁ…またバレちまった…こりゃ来月もジリ貧だな…。」 「先輩~~また遅刻ですか