Silly dream(1)

AM12:30 給湯室

カシュ

「...うーん...これはイマイチですね。では次。」

備え付けの小さなコンロや、流し台が設置されているその小部屋は、本来は課員であれば誰でも利用する事が出来るが、訳あって来客をもてなす時以外はあまり使われない。が、何やら今日は次々と缶の蓋を開ける様な音が聞こえてくる。

「...宗真さん?」
「おや、ガメザさん。」

給湯室からなり続けていた音の主は、課員の中でも一際目を引く全身赤色の鬼...宗真童子だった。

「何やってんの?」
「ああ、これですか?実は先程昼食にドーナツを食べに行った帰り道にですね、スーパーで缶詰の特売をやっていたので、それぞれ食べ比べしてみようと思いまして。」

狭いとは言え、給湯室の床が少ししか見えない程大量の缶詰が目に入る。流しには1cm角のサイコロのようなものが転がっている。

「へ、へぇ...相変わらずよくわかんねぇな...」
「当たり外れはありますけど、中々美味しいですよ。ガメザさんもどうです?」

昼食にドーナツはまだわかる。しかし食後のデザートに缶詰...それも対象の缶詰全種類。食後のコーヒーにと何気なく立ち寄ったガメザだったが、断ると何故だかバツが悪くなりそうだった為、渋々誘いを受け入れた。

「それにしても、こんなに缶詰に囲まれる事ってなかなかねぇからなんかおもしれぇな。」

少しだけ空いたスペースにあぐらをかいて座りながら、目線の高さまで積まれた缶詰を手に取る。

「そうなんですよ。特売だった事もあって金額的にそこまでダメージを負う事無く出来てるのもポイントですね。」
「いや、金は結構いってんだろこれ...」
「?」
「あ、いや、何でもないわ...」
「そんな事よりホラ、これなんか面白...美味そうですよ。」

そう言って渡された缶詰のパッケージには【カロリーオフカットゼロ!山や海、空、天空といった旨みが詰まった大いなる歴戦の味噌鯖Ⅱ】と、なんとも食欲を掻き立てられない文言が書いてあった。明らかに不味い。よしんば味が良かったとしても、体に何らかの何かが起こる。

「...うわ...何これ...絶対マジィだろ...」
「そうですか?」
「え、コレ見て食欲湧くの?」
「気になるから食べてるだけであって、食欲云々は正直そこまで関係ないですね。というかいらないなら頂きますが?」

そう言うと、若干引き気味のガメザを横目に半分程口に入れる。

「ほう、中々これは...」

淡々と食べ続けていた表情に、初めて変化が訪れ、その目を少しだけ開かせた。

「え嘘マジで?」

その反応を見ていたガメザは、まさかとは思いつつも、あの宗真童子にそこまで言わせる代物...人は見た目によらずとは言うが、食べ物にまでそれが当てはまるのでは?と思考を巡らせた。

「ちょ、ちょっと俺にもくれよソレ。」
「先程コレ見て食欲がどうとか言ってませんでした?」
「気が変わったんだよ!それより、な!いいだろ!」
「まぁそこまで言うなら...あ、そういえばガメザさん行きつけのラーメン屋の半券持ってましたよね?あれと交換でいかがですか?」
「え、おやっさん家の半券と…?うーん、でも、いや…背に腹は代えられねぇ!」

少しの葛藤を経てかけられた天秤は目の前の缶詰側に振り切れた。

「あ、そうそう。残りの缶詰も差し上げますので、好きにして頂いて構いませんよ。それではこれで。」

ポケットから乱雑に取り出した半券と缶詰を交換すると、鬼はそそくさと給湯室を後にした。

「マジで!?サンキュー!!!」

疑心暗鬼はいつしか好奇心へと変わり、最初とは打って変わった表情でその缶詰を受け取る。
匂いも近くで嗅いでみるとそうでも無い、当たりだ
これ程までに缶詰で意気揚々とした事があっただろうか?昂る高揚感とヨダレを抑えつつ、口を大きく開けて容器を残りの半分を口の中へ落とし込む。

「ハムッ...んグン。」

食すと言うよりも、飲んだと言うべきか、味わっていたのかすら怪しいくらいに口内に留めず、すぐに飲み込んでしまった。

「...」

「...」

「...マ...」

「...ズ...」

ドサッ

そう言い放つと、ガメザは白目を向いてその場に倒れ込んだ。

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