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アート、芸術を知るためのオススメ本 【その2】  8冊を厳選

今年は、さまざまな芸術関連本を読み漁っています。
5月に一度、オススメ本をまとめましたが、その後も、オススメの本がどんどん増えていっているので、第2弾としてまとめていきます。

5月にまとめた記事「アート、芸術を知るためのオススメ本 7冊と、+1」はこちら

■『巨大化する現代アートビジネス』

まずは、2名のジャーナリストによって記された『巨大化する現代アートビジネス』です。

約7兆6200億円規模の世界のアート業界が、どのように動いているのか、俯瞰で眺めるには最適の一冊です。

世界のアート界を牽引する濃ゆい面々が次から次へと登場します。

原書が発行されたのは2010年。日本語版の初版は2015年。
中国経済のさらなる発展、コロナ禍、NFTバブルなどを経て、どう変化したのか・・・
続編が待ち遠しいです。


私が特に気になった箇所をピックアップしておきます。

・アートの「フリーマーケット化」はずっと以前からヨーロッパ全域で進行している。

・競売会社がインターネットに取って代わられるのを心配してもおかしくない。

・財を成したチャールズ・サーチは、1985年、新しい領域であるアート市場を征服するために広告業界を去った。
少しずつコレクター兼画商になっていった。ついで、ロンドンにギャラリーを開いた。
以後、流行のタイミングを決めるのは彼

・ロンドンの「アフォーダブル(手が届く)・アートフェア」には2万人以上が訪れ、110人の出品者に約9億6720万円をもたらした。
展示販売された作品は、安いもので1万円、高いもので80万円ほど。

・1960年代後半からの「ランド・アート」の流れを汲んだ、「美術館からアートを外へ出す」動きは、特にNYで支持されてきた。

・フランス政府の現代アート制作に関わってきたダニエル・ジャニコ
「フランスにおいては、国際的なアーティストが五人いるだけで十分。
フランス人が国際舞台で活躍する以上に、あらゆる分野の国際的なクリエイターを、わが国に引きつけることのほうが大事」


●アートの市場規模 漫画と比較して

オススメ本の紹介から一旦ずれますが、参考資料として、
アートはどのくらいの市場規模なのかを紹介します。

2021年の世界美術品市場の規模は約7兆9800億円で、コロナ前を上回ったそうです。
およそ8兆円市場。

一方で、日本国内のアート産業全体の市場規模は2781億円。
2020年は3197億円だったようなので、およそ3,000億円市場。

※いずれも「美術手帖」より

日本の漫画の推定販売額(2021年)は、紙媒体と電子媒体を合わせた総額で6759億円。
その半分以下、ということになります。

「アート産業全体の市場規模」は、「美術品市場(古美術や洋画・彫刻・現代美術など)」「美術関連品市場(グッズやカタログなど)」「美術関連サービス市場(美術館入場料や芸術祭消費額など)」の3つの総計です。

漫画の6759億円は、作品の販売額のみなので、関連グッズや関連イベントなどを含めたら、もっと大きくなることは確実です。
いかに日本のアート産業が小さいか、数字で見てもよく分かります。

さて、そんな市場の状況も踏まえつつ、オススメ本に戻ります。

■『ニッポンの芸術のゆくえ なぜ、アートは分断を生むのか?』

津田 大介さんと平田オリザさんの対談本
『ニッポンの芸術のゆくえ なぜ、アートは分断を生むのか?』は、
日本における芸術・文化の社会状況を理解したくて読みました。

解決の糸口を見つけるのすら困難なほど、課題が山積みだと理解でき、若干クラクラします…

・最大の問題は「ここに行けば文化政策を何とかしてくれる」というワンストップの省庁がないこと

・文化庁にはそうしたニーズに応えられる予算も権限もなく、人材もいない

・与党だけでなく、野党にも文化政策のロビーに応える受け皿がない

・文化振興やコンテンツ振興は完全に縦割り

・文化政策に関わる国の機関が5つもある。
(文化庁/経産省/総務省/内閣官房/国土交通省)
全部バラバラなことをやっていて、司令塔な役割を果たすところがない

問題はとにかく多岐に渡りますが、まずはとにかく、
日本にありがちな、「全部バラバラ」な点をどうにかしないことには、何もかもがうまくいかないように思います。

■『芸術立国論』

上記の平田オリザさんの単著『芸術立国論』です。

芸術文化がなぜ必要なのか。
そのために、芸術分野行政がどうあるべきなのか。
非常に説得力ある考察が展開されています。

初版の発行がなんと2001年。20年以上前です。
しかし、まるでコロナ禍を経て記されたかのようなほど、今の日本にとって耳が痛い言説が続きます。

教育だって、医療だって、つい百数十年前までは公共性が自明のものとして認められていたわけではなかった

本書で何度か語られる、この言説を、
少なくとも僕は、希望溢れる言葉として、持ち続けたいと思っています。

芸術文化の公共性が自明のものである
そんな社会状況が構築される日は、決して遠くはないはずだ、と。

■『美術展の不都合な真実』

朝日新聞社の事業部で美術展を企画してきた著者が、裏事情を解説する『美術展の不都合な真実』も読み応えありました。

テレビ、新聞社ではないものの、「マスコミ」の一端にいる身として、反省させられるところも多々ありました。

日本の美術館はなぜ企画展偏重なのか、
その構造と問題点が非常によく理解できます。

第8章で記された著者のアイデアは、是非とも検討されるべきだと感じます。

・東京都が管理する東京国際フォーラムと東京都現代美術館を入れ替える。
・見本市は専門家向けなので、木場に移転。
・区立の美術館はすべて東京都に作品を委託。有楽町で膨大なコレクションが見られるようにする。
・そうすれば、東京都の所蔵品で、海外の美術館と互角に貸し借りができるはず。


■『ジヴェルニーの食卓』

アート業界の問題点を記す本が続いてしまったので、
このへんで趣を変えて、原田 マハさんの小説『ジヴェルニーの食卓』をご紹介します。

モネ、マティス、ドガ、セザンヌという4人の印象派の巨匠たちの、創作の秘密と人生を鮮やかに切り取った短編集です。

どれも女性の視点から描くことが功を奏した作品だと思います。

史実をベースにしたフィクションだからこそ、描ける真実があるかもしれない。
漫画や映画と違い、絵をそのまま出さなくていい、鑑賞者に委ねられるからこそ、描ける世界があるかもしれない。

そんなふうに、小説の可能性を改めて実感させてくれる機会でもありました。

■漫画『モネのキッチン 印象派のレシピ』

原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』が面白かった人にはオススメの漫画『モネのキッチン 印象派のレシピ』です。

正直、漫画としてはあまり面白くないのですが、「学習まんが」として読むと、とても勉強になります。

印象派の巨匠たちがどんな社会を生きて、どんなことに悩んでいたのか、喜びを見出していたのか、
漫画だからこそ、すっと頭に入ってきます。

■漫画『片翼のミケランジェロ』

漫画で芸術史を学ぶなら『片翼のミケランジェロ』もおすすめ。

イタリア・花の都フィレンツェ、ルネサンス時代。
ミケランジェロの生涯を描いた漫画です。

せっかく「ジャンプコミック」なので、もっとダイナミックな描写にしてほしいなと思ったりはしますが、まだ2巻。
どんどん面白くなっていくことを期待したいです。

■『驚くべき日本美術』

少年マガジンの表紙で〝美術〟と出会い、つげ義春のマンガに衝撃を受けて美術史家になったという山下裕二さんの著書『驚くべき日本美術』。

僕は常々「100年後には、漫画は美術史における重要なジャンルとして刻まれている」と言っているのですが、その考えに自信を与えてくれます。

ちなみに、山下さん、
現代美術にはとても厳しいです。

・社会問題を反映している作品が多いけど、
言葉で言えることなのに、わざわざ造形芸術にする意味があるとは思えない。
言葉の届かない「真空地帯」がない。
僕は基本的に社会派の現代美術が大嫌い。

・文脈倒れの作品は、絵を描けないやつが理屈に逃げているだけ


藝大を描いたヒット漫画『ブルーピリオド』と並行して読むと、どちらもさらに楽しめるかも?な一冊です。


他にも紹介したい本はたくさんあるのですが、キリがないのでこのへんで。

芸術文化って、やっぱり面白い。


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