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行き詰まりのビジネスモデルを変えるために:『アニメプロデューサーになろう!』

『けものフレンズ』などで知られるヤオヨロズ株式会社の福原慶匡さんが記した本『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作(ビジネス)」の仕組み 』(星海社新書)は、
1冊で一気に学べる「アニメ製作の教科書」と銘打っているだけあり、
実践的な情報が網羅されている貴重な一冊です。

ただ、前半に熱い言葉が並んでいるわりに、
「現在の問題だらけの構造を、どう変えていくのか」が
ほぼ触れられないまま終わってしまうので、正直、読後感はかなり拍子抜けな印象です。

「この本に答えはない」と明記しているので、偽りはないのですが…
飲み会や人付き合いなど極めて個人的な考察に頁を割いているのならば、やっぱり少しは触れておいてほしかったです。


とはいうものの、
<本書は「この先」を作るために、アニメーションプロデューサーに必要な「今現在の常識」を一気に学べる本をめざしました。>
という言葉通り、コンパクトながら、かなり充実の内容です。

<日本のアニメはクリエイティブのレベルが高く、世界中でニーズがあります。でも、ビジネス面では発展途上です。>
ということも、客観的な事象の解説と共に再認識できます。

良書であることは間違いないので、
気になったところをピックアップしていきます。

■ビジネスとクリエイティブ、両方がわかるプロデューサーが足りない

アニメのプロデューサーには「製作」と「制作」、2つの役割があります。
「製作」はアニメを「商品」として見る立場、
「制作」はアニメを「作品」として見る立場です。

この構造を変えられるのは、「製作」と「制作」両方のスキルと変革の意志を持った、新時代のアニメーションプロデューサーだけです。

コンテンツビジネスに関して専門知識を体系的に勉強しているアニメーションプロデューサーは、アニメ制作会社にはとても少ない

ビジネスとクリエイティブの両方がわかるプロデューサーが足りません。

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この状況は、出版界においても全く同じです。

プロデューサーを「編集者」と置き換えてもそのまま通じます。

世界に名だたるIT企業なんて、日本には一つもありません。
でも、日本のアニメは知られています。
実は一番メジャー級のことをやっているのはアニメです。

にもかかわらず、
行き詰まっているビジネスモデルを変える試みを誰も本気でやろうとしません。

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そうなんです!

僕は漫画も同様だと思っています。

今、若い世代に人気の業種といえばITでしょうが、
本当に世界に影響を与えるメジャー級のことをしたいならば、
ソフトコンテンツに関わるのが最も近道です。

そのことに、僕らももっともっと誇りと、
そして何より、責任感を持っていかないといけないと思うのです。

■日本にはプロデューサーを育てる大学がない

アメリカのようにエンターテインメントが非常に大きな産業になっている国では、映画プロデューサーになるための専門の大学や大学院(フィルムスクール)があります。

クリエイティブな現場で働きながら法律や経営の知識を得ようとする人が多いのです。
向こうのプロデューサーには弁護士資格やMBAを持っている人がゴロゴロいます。
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日本にはそもそもプロデューサーを育てる大学がありません。
日本にはクリエイター教育の仕組みはあるけれども、
プロデューサー育成の仕組みがない。
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これは私がサバティカル休暇中、数ヶ月間、UCLAのフィルムスクールに通った際にも感じたことに通じます。

結果、日本では「プロデューサー」という肩書が、なんとなく怪しい雰囲気をまとってしまっています。

そして、何の経験も実績もない人が「プロデューサー」と名乗り、
若い世代の人生を左右する岐路に置いて、無責任なかどわかしをおこなう、
というような負の状況も生み出してしまっています。

日本においては、今こそ真っ当な「プロデューサー育成の仕組み」が必要だと感じます。

■Netflixなどの海外配信事業者は、なぜ委員会に入らないのか?

上の文脈からは離れますが、
私が今、仕事で検討中の事案にも関わっているせいもあり、
興味深かったのは以下の点です。

●日本の配信会社の場合
「国内配信の権利がほしいから出資させてくれ」と委員会出資を申し出るため、
権利も委員会で共同保有となる

●海外配信事業者の場合
契約金の対価は委員会への出資ではなく、あくまで放送権の独占配信に対するもの
作品の権利はスタジオに丸ごと残る

●なぜNetflixやAmazonがそんなに太っ腹なのか?
本社がアメリカにあるため、日本は支社扱い。人数もそこまで多くない。
→出資に伴う委員会業務に割くマンパワーの問題が大きいためと思われる


そして、以下のようにも記述しています。

テレビで流すのをやめて全部ネット配信にすれば
テレビ放映の提供料は1円もかからないのですが、
そこまで踏み切る作品はまだ多くありません。

前例が少ない、でも、合理的に考えればそうしたほうがいいに決まっている
こういう状況は往々にしてチャンスです。

いいヒントをもらえました。

■第3章まで無料公開中

他にもいろいろとメモしておきたいところはあるのですが、
キリがないので止めておきます。

本書は、アニメはもちろん、エンタメ業界に関わる方、関わりたいと思っている方は一読の価値があると思います。
(既知のことも多数あると思いますが、改めて知識を整理するのにも適しています)

星海社が運営するサイト「ジセダイ」上で第3章まで無料公開中なので、
まずは試し読みしてみるのもいいかもしれません。


行き詰まっているビジネスモデルを変えようとする試みに
本気で着手する意欲的な人たちが、
もっともっと増えていくことを願ってます!

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