【青ブラ文学部×春の恋バナ祭り】セピア色の桜
「桜の下で写真を撮ろうか」
息子を中庭の桜の木の下に立たせて写真を撮った。すると、近くにいた男性が写真を撮ってくれるというので、妻と息子と三人で撮ってもらった。
今日は高校の入学式だ。息子は俺と同じ高校に進学した。
中庭の桜はあの頃と同じ様に見事な花を咲かせている。俺も春休みにこの桜の下で写真を撮った事がある。今はもう会えない彼女と一緒に。
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彼女はいわゆるヤンチャな子だった。でも、見た目に反して素直で優しくて頭のいい子だ。同じクラスの隣の席になった事がきっかけで付き合いだした俺達の事を周囲の大人は良く思っていなかった。
俺達は、反対されるほどにお互いを必要とした。俺は彼女の事を認めて欲しくて親に掛け合ったけれど認めてもらえない。彼女の方は、親に放任されているらしくヤンチャな仲間とも付き合いがあるようだった。
ある日、二人で授業をサボって図書室で本を読んでいた。そして、誰にも見えない様にそっと彼女の唇に俺の唇を重ねた。初めての、唇に触れただけのキス。彼女からは女の子のいい匂いがした。
「なあ、二人でどこか行こう。どこか遠い所」
「え?何を言っているの?そんな事できる訳ない」
「もう俺、どうしたらいいか分からないんだ。君ともっと一緒にいたいだけなのに」
彼女は少し考えてから「いいよ」と言った。
約束を実行する日、俺はお年玉を貯めたありったけのお金を持って約束のバス停に向かった。彼女はもう来ていて、俺を見つけると軽く手を挙げた。彼女は俺に写真をくれた。
「これ、この間桜の下で撮った写真よ。よく撮れているでしょう」
桜の下の俺達は弾ける笑顔で、彼女は桜に負けない位美しかった。
バスを待つ間、昨日見たテレビの話をしたりして、できるだけ深刻な雰囲気を出さない様にした。彼女は笑顔を見せるものの、何か様子がおかしい。それに、荷物が無い。これはいったいどういう事なんだろう。
もうすぐバスが来るという頃に見慣れた車が停まり、中から両親が出てきた。
「さあ、いつまでもこんな所にいないで帰るぞ。お前は何をしようとしているか分かっているのか」
「そうよ。この子が連絡をくれたのよ。彼女にも迷惑になるから帰るのよ」
俺は頭が真っ白になって彼女を見ると、彼女は笑っていた。
「ご両親の言う事を聞いた方がいいよ。私行かないから。だって、あなたと私は住む世界が違うんだから。何を本気になってるの?バカみたい」
「彼女の言う通りだ。ほら早く行くぞ」
手を引かれた俺は後部座席に押し込められた。車の中から振り返ると、彼女はいつまでもいつまでもそこに立っていた。泣いていたように見えた。
そこへやって来た俺達が乗るはずだったバスは乗る人も降りる人もいなかったのか、そのまま彼女を追い抜いていった。
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そんな事があってから彼女は高校を転校していき、彼女がいた席はぽつんと座る者のいないままの状態が続いた。
俺は表面上は立ち直った風に見せて、勉強だけはがんばった。だけど、心の中は穴が開いたままだ。若いからと大人にぽっきりと折られた心はもう元には戻らない。これが若さだというならば、そんな若さなどはもういらない。
俺は今どんな大人になっているのだろう。息子に誇れる大人になっているだろうか。
ぽっきりと折れた心を抱えて、あの時君に貰った写真を眺めてみる。満開の桜の下の笑顔を浮かべる君と俺の写真は何だかセピア色に見えた。
(本文1376文字)
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青ブラ文学部と春の恋バナ祭りに参加します💛
青ブラ文学部のお題は「セピア色の桜」です。
今回はこの曲を下敷きにお話を書きました。
🍓 スクール・ガール CCB
本当は違う曲を考えていましたが、急にこの曲がぐるぐるしだしまして。
ほんと、突然。
この曲、なんか好きだったなぁという事を思い出しました。
これを書くにあたって、改めて聴きました。
音楽的な事は分かりませんが、すごい上手いなぁと思いました。
あの頃は、「Romanticが止まらない」の流れでアイドル的なイメージだったんですよね。しかも、カラフルな髪色でポップな衣装でしたし。
中学を卒業する頃や高校生だった頃を思い出してしまいました。
今の私をあの頃の私が見たらどう思うだろう・・・
あの頃の私に誇れる私になっているのかな・・・
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