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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#野球本

「カツカレー」のような、しあわせな組み合わせの一冊:塙宣之『極私的プロ野球偏愛論 野球と漫才のしあわせな関係』(聞き手:長谷川晶一)

「カツカレー」のような、しあわせな組み合わせの一冊:塙宣之『極私的プロ野球偏愛論 野球と漫才のしあわせな関係』(聞き手:長谷川晶一)

 この本が発売されるのを知った際、「こんな、俺が好きな要素だけで出来た本出るの!?」と思った。

 野球もお笑いも大好きな自分だし、著者も漫才の名手、ナイツ塙宣之と、野球ライターの大家、長谷川晶一である。好きなもの+好きなものという、言ってみれば「カツカレー」のような状態である。そして「カツカレー」と書いて、「千葉茂」を連想する(千葉が考案したという説があるのだ)野球好きにはぜひオススメしたい一冊

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孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

孤独な野球人が語らなかった8年間の物語:鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたか』

 作中にも少し触れているくだりがあるが、中日新聞には創業家が二つ存在する。「新愛知」と「名古屋新聞」という二つの新聞社が1942年に統合されて誕生したため、新愛知の大島家、名古屋新聞の小山家がそれぞれ創業家となっているのである。
 新愛知は名古屋軍と大東京軍、名古屋新聞は名古屋金鯱軍と、かつてはそれぞれが球団を保持していた。

 この「ツーインワン」の構造はそのまま派閥争いとして残り、<歴代監督人

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江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

江分利満氏の静謐なる職業野球論/山口瞳『昭和プロ野球徹底観戦記』

 山口瞳の直木賞受賞作、『江分利満氏の優雅な生活』は文学というジャンルの奥深さを柔らかく指し示す小説であった。「every man(普通の人)」から命名したであろう、著者の分身たる江分利満(えぶり・まん)氏が送る戦後のサラリーマン生活は、家庭も仕事もどこか不完全で欠けている印象であるが、そんな日常も悪くはない。そもそも戦争で死ぬはずだったのに、「普通の人」となったのだから……。敗戦を「僥倖」と表現

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